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2009年07月08日

お借りするお題
 †Valkyria† お題配布所  
◆街中で見つけた3のお題


★前回のお話は「7/4」の日記にて。
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01.鞄の中には一つの傘

「お前は誰に会いたいと言うのだ?」
「トーヤ・・・いや、夷澤凍也の居場所を教えて欲しい」

 照れくさそうに笑う九龍をしばし見つめ、阿門は微笑する。
 あまりにも予想通りすぎて、思わず笑みが出てしまったのだ。
 高校卒業直後から、天香学園の正式に理事長を務めてきた阿門はすっかりスーツも着こなしている。
 よく似合っている黒スーツの懐に手を差し込み、
内ポケットから一冊の革製の手帳を取り出してパッと開く。
 すぐに目的のページを探し出すと、そばに控えていた千貫に目配せするとメモ紙と万年筆を受取り、
手帳の中身を書き写した。

「この大学に在学中だ。だが、あと四時間もすれば我が校のボクシング部へやって来る」
「四時間後?」
「夷澤は我が校から出た優秀なボクサーだ。その技術を後輩達に伝えて欲しくてな。
毎週三回コーチとして呼んでいる。お前は運がいい、ちょうど今日がその日だ」
「四時間も待ってらんないよ」
「なら、大学か自宅へ行ってみるのだな」

 そう言いながら、もう一枚のメモをヒラリと投げて寄こす。
 東京の郊外を示す住所が綺麗な文字で書かれていた。

「凍也の住所?」
「そうだ。お前になら教えても良いだろう」
「サンキュー帝等!」

 メモを受け取るやいなや九龍は挨拶もそこそこに阿門邸を飛び出して、
天香学園の中を駆け抜けて行く。
 小さくなっていく人影を館の外で見送る阿門と千貫は顔を見合わせて、苦笑を浮かべた。

「なんと慌しい男だ。昼食を馳走してやろうと思っていたのにな厳十郎」
「ええ。ですが、なんとも葉佩様らしいですな。あの頃とちっともお変わりにならない」

 <<転校生>>として敵対していた頃の葉佩と今の葉佩を交互に思い出し、
千貫は目を細めて喉の奥で笑うと空を見上げた。
 雲の色が白から灰色に変わり、風に次々と流されている。

「雲行も怪しくなってきたか。夷澤の所へ着くまでに降らなければ良いが」
「ほっほっほ、葉佩様なら心配いらぬでしょう。さあ、坊ちゃまはお仕事にお戻りくだされ」
「そうするとしよう」

 千貫に促されて館に戻ると、奥まった執務室へ足を向けた。

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 新宿駅まで辿りついた九龍は二枚のメモを両手で持ち、切符売り場で悩んでいた。
 現在の凍也がどこにいるのかが、はっきりしていないからだ。
 大学と自宅だと、新宿駅から逆方向となり、間違うとかなり時間をロスする事になる。
 日本の大学のシステムを脳内バンクで検索する。
 凍也なら現役で合格しているはずだから、今は大学四年になっているはず。
 日本の大学四年生は授業がほとんど無く、研究や卒論などをやっている時期と見て良いだろう。
 阿門の情報によると凍也は大学での専攻は理工学部で、
サークル活動には入らずにボクシングジムに所属しているプロボクサーの卵。
 今までに得られた情報をもとに凍也の居場所を推理し、結論を出した。
 ボクシングの試合は現在予定無しで練習も夜だけと思われる、
コーチをする日は天香学園ボクシング部でメニューをこなすだろう。
 そして大学四年の7月といえば卒論をやっている時期のはずで、
かなりの確率で凍也は大学内にいるんじゃないかと結論した。
 ポケットの中から小銭を掴むと、凍也の大学がある駅までの金額きっかりを
販売機へ突っ込んでボタンを押した。

「よしっ!」

 自信満々に切符を取り、改札口に向かう九龍の足取りはとても軽いものであった。

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 阿門に教えてもらった凍也が通っている大学の前に着いて、とりあえずは事務局を訪ねる事にした。

「こんにちは」
「こんにちは?何か御用ですか?」
「理工学部四年に夷澤凍也が在籍しているはずだけど、どこに行けば会えますか?」

 受付係の年上と思われる女性へにこやかな表情を浮かべ、
身分証として使っている協会発行の日本国内用免許証を掲示する。

「葉佩さん・・・ですね。少々お待ちください」
「よろしくお願いします」

 笑顔を微笑みに移行させると女性が恥ずかしそうに目を伏せ、
机の上にあるノートパソコンを操作しはじめた。
 いくつかの文字を入力し、エンターキーを綺麗な指先で押した後に画面に視線を走らせ、
もう一度エンターキーを押す。
 少し離れた場所にあるプリンタから検索結果が出てくると受付の女性は
椅子から腰を浮かせて紙を手に立ち上がった。
 頬の赤みがまだ取れないままだったが、九龍と初めて会う女性はほぼ同じ反応をする。

「夷澤はこの時間ですとE棟五階の理工学部C研究室に」
「ありがとうございます」
「あ、あの!」

 紙を受け取って立ち去ろうとした九龍に女性が思わず声をかけた。
 動きを止めて微笑みを浮かべながら振り返ると、戸惑ったような表情を浮かべながら目を伏せて、
もう一度九龍を見つめる。

「ご案内致しましょうか?」
「いや、結構です。貴女もお仕事中でしょう?僕には構内案内図で十分ですから。
それじゃ、色々ありがとう」

 受付に置いてあった施設案内図を一枚手に取り、あとは振り返りもせずに
教えてもらったE棟へ足を向ける。
 広い構内で奥まった位置にあるE棟は、四年生が卒業研究を行う事を専門にした施設と、
豊富な蔵書が収められている資料室と案内にあった。
 資料室に興味が沸いたが今は凍也に会う事が一番大事。

「天香も広かったけど、やっぱり大学となると規模が違うなぁ」

 構内を歩きながら行き交う大学生を観察し、外壁に書かれている記号を頼りにE棟が視界に入ってきた。
 つい急ぎ足になってE棟へ向かって行くと急に空が暗くなった。

「やべぇ一雨くるか?」

 そう言った途端に肩や頭に空から落ちる雫の感触を感じて、あっという間に土砂降りだ。
 ”バケツの水をひっくり返したような雨”とは、この事を言うんだなと空を見上げ、
視線をE棟に戻すと同じように空を見上げていた小柄な青年が立っていた。

「トーヤ!」
「・・・!セ、センパイ?」

 どしゃぶりの雨がカーテンのように二人の視界を濁らせたが、どちらも目の前に誰が立っているのか、
すぐに認識する。
 驚愕の表情で固まっている凍也の下へ、ばしゃばしゃと雨を全身で弾きながら歩み寄り、
目の前で立ち止まった。

「久しぶりだな、凍也。元気だったか?」
「な・・・なんで、ここに?」

 驚きすぎて上手に言葉を紡ぎ出せない凍也は、雨に濡れる九龍を気遣う事も忘れて呆然としている。
 九龍も雨に打たれているとは思えないほど、にこやかに語りかけた。

「急な休暇でね。せっかくだから、お前と過ごそうと思ったんだ」
「・・・そ・・・なんですか」
「ところでお前、傘持ってる?」

 暗い空は雨が長く続きそうだと容易に想像できる。
 この雨の中、二人で濡れてホテルへ雨宿りも良いかな?と考えたりしたが、
凍也はこの後に天香でボクシングのコーチと阿門が言っていた事を思い出した。

「傘・・・確か折りたたみのが鞄の中に」
「もう俺には意味無いけど、お前は体冷やすなよ。ボクサーだろ?」

 ニッと笑いながら、凍也の立っている横に体を滑り込ませ背負っていたバッグの中を漁る。
 荷物のほとんどは阿門邸に置いてきたが、貴重品と協会支給の小型コンピュータと
愛用のタオルが入っていた。

「中までぐっしょりか」
「ったく・・・五年経っても、変わらずですね」

 肩から下げていたビニール製のスポーツバッグからタオルを取り出し、九龍に投げつけ、
同時に取り出した傘を軽く振る。
 暗めのブルーに小さい柄が入っている、凍也らしいデザインの傘。

「移動しましょう。これから天香学園行くんで、一緒に行きますか?」
「もちろん。俺も荷物全部、帝等ん所だしな」
「阿門さんにオレの事聞いたんですか?」
「そう。だって、お前ろくに連絡してくれねーんだもん」
「それはお互いさまでしょ」

 ようやく笑みを浮かべる事のできた凍也は手に持っていた傘を広げて、
E棟から一歩外に出て振り返った。

「さ、入ってください。電車の時間もうすぐなんで急ぎますよ」

 借りたタオルを首に巻いたままE棟から飛び出すと、凍也の手から傘を取り上げて隣に立つ。
 奪われた傘と一瞬触れ合った手の温かさに頬を赤くした。

「ちょっ・・・オレの傘ですから、オレが持ちます!」
「そんな事言ったって俺が持った方が楽だろ?」
「ぐっ・・・オレだって伸びてんのに」
「俺だって伸びたもんな?」

 九龍が親しみのこもった笑顔を浮かべながら歩き出す。
 凍也はその横をそっぽを向いたまま大股で歩き出した。

「おかえりなさい」

 雨音に自分の声をかき消される事を期待して、小さく呟く。
 
「うん、ただいま」

 声は聞こえなかったが唇の動きで読めてしまうのが葉佩九龍だ。
 どしゃぶりの中人影もまばらに、二人はひとつの傘に肩を寄せ合い、無言で歩き続けるのだった。


NEXT → 02.「一口、ちょうだいっ」(主夷side)
・・・・準備中です・・・・

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ようやく書けました!主夷side第1話!いや~意外に難産だった・・・。
次は主皆主side第1話を書きたいと思っています。できれば今週末。
なんだか、思ったより前振りが長くなりすぎて夷澤が最後にちょろっとにorz
次からは最初から二人一緒なので・・・次こそ主夷に!!(なるはず/笑)


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>web拍手
パチパチありがとうございました!!
この拍手を励みにこれからも更新がんばりたいと思いますv
またよろしければ、遊びに来てくださいね♪

投稿者 水天宮拓仄 : 2009年07月08日

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