■ 謹賀新年<<2009>> (未来捏造/九龍×夷澤)水天宮拓仄

 今日は一月一日午前〇時を少し回ったところ。
 俗に「元旦」とか「正月」とか言う日だったが、東京で暮らす葉佩九龍や夷澤凍也は故郷にも帰らずに二人で年を越していた。
 二人が一緒に暮らし始めてから、初めての年越しである。
 凍也は年越しくらいは恋人である九龍のわがままを聞いても良いかなと考えていたが、
特に期待・・・いや、心配していたような事を要求される気配も無い。
 今は年越しそばを深い鍋で軽く煮込んでいる最中だ。
 その横では慣れた手つきで薬味の長葱を刻み、冷蔵庫にあったあまり物の食材を添え物にと用意している九龍がいた。
 なんとなく話す事も無く、二人で肩を並べて狭い台所に立っている。
 ぼーっとしながら鍋を適当にかき回す凍也を横目で見つめて九龍は口を開いた。
「トーヤ。もう上げてもいいんじゃね?」
 鍋の中の麺を指差して二つの丼を後ろにある食器棚から取り出すとテーブルに並べて既製品の麺つゆを入れる。
「え・・・あ、はいっ」
 慌てた様子で取っ手のついた金属製の網でそばを掬いとって、均等になるように丼へ移した。
「あちっ」
「大丈夫か?」
「ええ」
 湯気が手や顔に当たって熱さを感じたが危険の無い温度だとわかるので慌てはしない。
 鍋に残った熱湯を丼へ適度に注ぐと、切ったばかりの長葱を九龍が手際よく入れる。
 残り物を使った小鉢も二品ほど作られており、手分けして居間として使っている部屋へ運ぶ。
 向かい合わせに腰をおろして、目の前には年越しそばと小鉢を並べて顔を見合わせた。
「えっと・・・なんて言えばいいんすかね」
 なんだか照れながら鼻の頭をかきながら九龍の顔を見つめる。
「”あけましておめでとう”で良いんじゃない?」
「一緒に暮らしてるんで、改まって挨拶するのもなんだかな〜って思ってたんすけど」
「こういう時は”一年の計は元旦にあり”とか”親しき仲にも礼儀あり”とかなんだぞ」
「一年の計は〜は、ちょっと違うんじゃないっすか?」
 笑いながら箸を手に持ちながら、再び二人で顔をあわせたが、言うタイミングがなかなか掴めないのか、言い出せない。
「あーもう。さっさと言わないとそばが伸びるぞ」
「そうっすね・・・えっと、じゃあ」

『あけましておめでとうございます!』

 見事に二人でハモって、二人の間に笑いがこみあげてゲラゲラと笑った。
 こんな些細な事で新年から一緒に笑い合える幸せをかみ締める事ができる。
 しみじみと九龍はこの”幸せ”を噛み締めて、そばの入っている丼に箸を突っ込んだ。
 それに続いて凍也もそばに箸をつけ、二人とも同じタイミングで食べ始めたのだった。


 そばを食べ終えてから九龍は凍也に提案をした。
「これから初詣に行かないか?」
 時計を見ると午前一時になろうとしているが、まだ眠いわけでもないし九龍が日本に帰ってくるまでは彼の無事を祈って、
毎年一人で行っていたので苦痛でもない。
「いいっすよ。どこに行きましょうか?」
「あー別に有名な場所じゃなくていいよ。近所の神社で」
 そう言うと立ち上がって壁にかけてあったコートを手に取り、凍也のジャケットを投げた。
「近所の神社ですか・・・誰もいないかもしれないですよ?」
「いいさ。そんなの関係ないだろ?神に一年の幸せを願いに行くんだから」
 笑顔で玄関に向かい、一足先に外に出てしまった。
「ま、確かにそうだよな」
 初詣の神社と言えばお賽銭を投げて、願い事を唱えて、絵馬を買ったり、おみくじをひいたりするものだと思っていたが、
元々は神に幸せを願えれば十分なのだ。


 住んでいるアパートから十数分歩いた所に町内会で管理している小さな名前も知らないような神社がある。
 誰もいないと思っていたが、さすがに管理を担当している町内の住民がおたきあげ用の焚き木の番をしたり、
境内の中でお神酒を振舞ったりしていた。
「おめでとうございます」
 ほとんど近所付き合いをした事がない凍也だったが、九龍は昼間や買い物の合間に
近所の奥様達と顔をあわせる機会が多いとかで、見知った顔が多くいた。
 知っている奥様達は九龍を見かけると笑顔で挨拶を告げ、見知らぬ凍也にも笑顔を向けてくれた。
 ここでしかめっ面をするほど子供でもないので、凍也も笑顔でそれに応えると境内にある賽銭箱の前に辿りついた。
 ゴソゴソと用意してきた小銭を取り出し、賽銭箱に投げて目の前に釣り下がっている鐘を鳴らす紐を数回振る。
 ガランガランと普段なら五月蝿いと感じる音も新年を迎えたというだけで澄んだ音に聞こえるから不思議だ。
 真摯な気持ちになってパンパンと手を叩いて目を閉じて小さく頭を下げる。
 それを追うように九龍も同じ動作を繰り返し、目を開けると隣にいる凍也がまだ目を閉じて手を合わせているのを目にした。
 数秒ほど待つと凍也も目を開いて両手をポケットに突っ込んで踵を返して、九龍を振り返った。
「さ、帰りましょうかセンパイ」
 階段を下りながら、少し見上げるような角度で微笑まれた九龍は自分の心臓が跳ねるのを自覚した。
 だが、ご近所さんの手前、ここで凍也を抱きしめるわけにも行かず平静を保ちながら頷くのだった。
「うん、早く帰ろう凍也」
 声のトーンが若干低くなり、呼び方も変わった事に凍也は顔を赤らめる。
 二人の関係だからこそわかる微妙な変化だったが、凍也は九龍の声に色気を感じて、
首に巻いていたマフラーをぐいっと上げて顔半分を隠す。
 急ぎ足で鳥居を潜る凍也の後を小走りで追いかけて、二人は一刻も早く神社から遠ざからねばならなかった。
 神社を出て、人通りが無くなった道路から少し離れた小さな路地で抱きしめ合うと唇を合わせていた。

end

※この小説は2009年閲覧者様謝恩小説です。公開開始から2009.1.31までDLFです。
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