■ 『 恋の予感(2008年9月) 』 水天宮拓仄

「凍也!」

ートウヤ・・・誰だそれは?

「お前の名前は夷澤凍也だ!目を覚ませよ」

ー何を言っている?お前は・・・

「く、九龍センパイ?」

頭で認識する前に唇から出た言葉だった。

目の前で必死な顔で自分を呼ぶのは”葉佩九龍”その人だ。

そう、オレは夷澤凍也・・・天香学園生徒会役員で来年は学園を支配する。

「ったく、心配させんなよな。ほら、手貸せよ」

今度はくったくない笑顔を向けながら、手を差し出してくる。

笑顔を浮かべる顔から、差し出された手、身につけている服までボロボロだ。

「・・・っ」

立ち上がろうと体に力を入れるとあちこちが痛む。

顔を触るとぬるりとした感触、掌を見つめると赤黒い血がついていた。

オレはこの人と闘ったのか?記憶が無い。

オレは負けたのか?

「やっと戻ってきたな」

ほっとしながら目の前にドサリと胡坐をかき、表情をほころばせた人を見つめる。

わずかに瞳が光るように見えるのは間違いなく涙・・・この人でも泣く事があるのか。

ドキリ。一瞬の高鳴る鼓動が全身に広がっていく。

ーなんだ、この気持ち。

この動揺は悟られてはいけない。オレはこの人に勝たなければ一歩も進めないのだから。

「オレと勝負してくださいよ、センパイ」

全身に湧き上がる気持ちの昂ぶりを瞳に宿して、目の前にいる人を熱く見つめた。

それは恋にも似た感覚なのかもしれない。