■ 『 全てを手に入れる(2008年11月) 』 水天宮拓仄

高校三年生が転校してくるには不自然な時期。

秋に転校してきてボクシング部に入ってきた時から始まっていた。

オレの目の前には普段滅多にお目にかかることが無い真剣な眼差しの<<転校生>>

最初からわかっていたはずだった。

この人が生徒会、いやオレの敵だった事は。

そんなオレに向けられた善意や好意は“先輩“の域を出ていた。

共に過ごした時間でオレはこの人に惹かれてしまった。

そんな事は口が裂けても本人に言うつもりは無い。

足元に脱ぎ捨てたマントにマスク。

そしてオレには必要の無い毒が塗られた鋭い爪型の武器。

トントンとゆっくり跳ねながら挑発的な笑みを作る。

口元を引き上げ眼鏡を利き手の人指し指で押し上げる。

渇いた空気を肺いっぱいに吸い込んで唇を己の唾液で湿らせた。

「オレの為に死んでください。九龍さん」

誰からも愛され大切にされる人だった。

そして誰をも愛する人だった。

オレもその中の一人なのだ。

耐えられるはずがなかった。

オレはこの人のすべてが欲しいんだ。

例え、あの人の命を奪おうとも。

オレがあの人の手にかかったとしても。

オレはすべてを手に入れる事ができるだろう。