■ 学校生活で10のお題 03:昼休みの攻防 (九龍×皆守 + 墨木) 水天宮拓仄

 良く晴れた空を見上げながら、皆守甲太郎は今日も昼休みを屋上で寝転びながらゆったりと過ごしていた。
 この彼にとって至福の時間が数秒後に壊されるとは夢にも思っていなかった。
 寝転んでいる甲太郎の視界が突然暗くなったかと思うと、聞きなれた親友の声と彼の持っている銃に弾を詰める音が聞こえてきた。
「おっおいっここ校内―っ!」
「ふせろコータ!」
 声と共に九龍が飛びついてくると無理やり甲太郎の頭を床に打ちつけた。抵抗する暇もなかったせいで、額をしたたかに打ち付けた甲太郎を余所に、九龍は頭上を通過する銃弾をやりすごしてから甲太郎の袖を強引に引き、物陰に身を潜める。
「おい、九龍」
 打ちつけられた額をさすりながら隣にいる九龍を見る。九龍の目は輝き、いきいきとした様子で屋上の出入り口の方をうかがっていた。
 出入り口から視線を外さずに甲太郎に返事をしてくる九龍に思わず溜息を洩らした。
「何?悪いけど今忙しいんだ!俺」
「いや、それは見ればわかるんだけどよ。ここは校内なんだがな?」
 被害に合わないように九龍の陰に隠れながら甲太郎はゆっくりと言葉を発する。
「わかってるって!コータの事は俺が守ってやるからさっ。ちょっと黙っててよ!気配がわかりにくいんだよ、墨木は」
「そういう事じゃなくてだなっおい、九龍!」
 顔を上げて更に言い募ろうとした甲太郎のすぐそばをすごい勢いで何かが通過していく。 墨木の持つ銃から発射された弾丸のようだ。
 それを受けて九龍は更に甲太郎ひっぱりながら後退する。2人共床に腹ばいになりながら、屋上に侵入成功した墨木の攻撃に備えていた。
「くそー!やっぱ墨木相手だとキツイなー。コータも守ってやらないとだし」
「はぁ?何言ってんだお前?俺を巻き込むなよ!」
 不本意ながら九龍に守られながら甲太郎は声を上げた。もはや校内とか昼休みだとかそんなものより、自分がいつのまにか巻き込まれてしまったことに抗議する。
「やべっ!こっちの気配に気づかれちまった!コータが大声出すからだぞっついて来い!」
「え、ちょっと待て九龍―ちゃんと説明しろ!」
 中腰のまま物陰から物陰へ移動しながら九龍は周囲の気配に気を配っている。
 ここまでの経過で、ようやく甲太郎は自分の状況を把握できた。九龍と墨木は時間があれば常にサバイバルゲームに興じており、時々寮内の生徒多数を巻き込んでいるのを甲太郎は知っていた。
 自分は今まで1度も巻き込まれた事はなかったが、今回ついに出番が回ってきてしまったようである。
「よりによって昼休みに…」
 ブツブツと呟く甲太郎を背にかばいながら相変わらず九龍は墨木と交戦中だ。
 甲太郎の目にも墨木が徐々に距離を詰めてきていることがわかった。
「やばっもう移動できる場所がねぇ!」
「どうすんだよっ俺は丸腰なんだぞっ何とかしろっ!」
 屋上の柵に後ろを阻まれ、前方からは墨木が接近してくる。絶対絶命に陥った2人の前に不敵な笑い声を上げながら墨木が銃口を向けた。
「勝負あったでありマスッ!」
「コータ!」
 九龍がとっさに銃口の前に両腕を広げて甲太郎の前に立ちふさがった。
「九龍―っ!」
―キーン・コーン・カーン・コーン
 昼休みの終りを告げるチャイムが屋上に鳴り響いた。
 打たれると思って身を縮めていた甲太郎をいつまで経っても弾丸は襲って来なかった。九龍が守ってくれたわけでもなさそうだ。そもそも墨木も発砲していないようだ。
 目を開けると、2人は慌しく持っていた銃を片付けていた。
「え?おい、お前ら…さっきまでやりあってたんじゃ?」
 あっけにとられて怒りを忘れ、声をかけてみる。手を休めず九龍が甲太郎を見た。
「休み時間終ったらゲームもおしまい!な、墨木?」
「隊長の言う通りでありマス。自分達は限られた時間内で闘うでありマス!」
「だからって校内でやんなよ!」
 更に文句を浴びせようとした甲太郎を残して九龍と墨木が屋上から校舎内へ走り出していた。もう少しで授業が始まる本鈴が鳴る時間だ。
「早く戻らねぇと怒られるぞコータ!」
「自分は移動教室でありマスから、お先に失礼するでありマス!」
 走りながら九龍に軍式の敬礼をして全力で走り去っていく墨木を見送って、九龍と共に教室へ向かう甲太郎。
「九龍!」
「何だよコータ?急がないと遅れるぞっ」
 走りながら九龍は振り返って笑っていた。
「なんで俺の事巻き込んだんだよっ」
 やっと聞きたいことを声に出せた甲太郎は次の九龍から発せられた言葉に顔を綻ばせた。
「ゲームの目的は“宝を死守せよ”だったんだよ」

end