■ 学校生活で10のお題 05:呼び出し (皆守 → 九龍 ← 夷澤 ) 水天宮拓仄

「センパイ遅いっすね…遅れるなんて珍しいんじゃないっすか?」
 寒空の下、夷澤は墓場地下の潜る前に九龍と待ち合わせをするベンチの前をウロウロしながらぼやいていた。
「ああ、そうだな」
 背後のベンチには、ほとんど会話をしない皆守甲太郎がだるそうにアロマパイプを咥えながら気の抜けた声で応えた。
 正直、夷澤は皆守甲太郎が苦手だった。
 何を考えているのかさっぱりわからないくせに九龍から全面的に信頼されている“親友”の地位にいる男。
 自分が仲間になって日が浅いことはわかっているが、なんとなく面白くないことは確かだった。
「電話で呼び出したらどうっすか?」
「面倒くせえ…待ってりゃ来るよ。あっちが呼び出したんだから」
 その言葉には何も焦りもイラつきもなく、九龍を無条件で信頼している者がいえる台詞。
 自分ばかりがイライラ焦っているのが急に馬鹿らしくなった。
「遅れるなら皆守サンだと思ってましたよ」
 ベンチに座ったままの皆守を立った目線からなら見下し、トゲのある口調で皮肉った。
「俺はアイツの呼び出しに遅れたことは一度もねぇよ」
「それは以外っすね」
 皆守の言葉に含まれる意味がだんだんわかってきた夷澤はひきつった笑いを浮かべ、
ついに思ったことをそのまま口に出してしまった。
「どうせ俺はセンパイの仲間になったばっかで、アンタは一番長い仲間で親友だよな。
センパイがなんで俺とアンタを一緒に連れて行く気になったのか知らないけど…
俺の方は迷惑なんすよ!」
 吐き出すように一気にまくし立てる。二人が仲が良いのは知っているが、
それを自分の目の前見せられるのは嫌だった。
 自分が九龍の一番になれないことを何度も思い知らされるのが嫌だった。
「迷惑だったら何で呼び出しに応じたんだ?お前は」
 ベンチから立ち上がると夷澤の前に立つ。
「くっ」
 自分よりも背の高い皆守を睨みあげ、すぐに視線を外す夷澤。
「俺と行動するのが嫌なら断ればいい。潜りたがってる連中は大勢いるんだ」
「アンタとか?」
「ああ、そうだ。俺はアイツと一緒にいなけれないけないからな」
 ふと寂しそうな色を瞳に宿らせながら皆守が告げる。
 その色に夷澤が戸惑った。皆守がなぜこんな表情を見せるのか理解できない。
「センパイの事、どう思ってるんすか?」
 どうとでも取れる質問に皆守は一瞬息を呑んだ。
 自分の立場を知るはずもない夷澤から、気持ちの核心をつくような問いかけ。
「“好き”さ…親友だからな九龍は」
 強い夷澤の視線から逃れるように再びベンチに腰掛けた皆守を複雑な表情で見つめる夷澤も口を開いた。
「俺もあの人の事が好きっす…親友でも、なんでもないけど…アンタの思いにも負けない位に」
「ああ、いいんじゃないのか?それで」
 夷澤の言葉に笑みをこぼすと皆守はパイプの中が空になったのか、
胸ポケットから新しいスティック状のラベンダー香を取り出しパイプに差し込む。
 ライターで火を灯し深く吸い込んだ。彼の視界に慌てた様子で駆け寄ってくる九龍の姿。
 ベンチに腰かけながら両手をポケットに入れ、まぶたを閉じながら足音が近付いてくるのを待つ。
「何があってもその気持ちを忘れるなよ夷澤」
「はぁ?」
 皆守の言葉にすっとんきょうな声を上げ、問いかけようと口を開けた瞬間。
「悪りぃ!仮眠してたら寝坊した!」
 背後から息を弾ませながら九龍が夷澤の肩を叩いて、振り向く前に頭を下げていた。
「お、遅いっすよセンパイ!自分で呼び出したくせに一時間も遅刻するなんて
信じられないっすよ!皆守先輩もなんとか言ってくださいよ」
「コイツの遅刻は今に始まったことじゃねぇよ。
それに、お前とも話せたし…九龍、今日のところはカレーパン一個で許してやるよ」
 柔らかい笑みを浮かべながら1人墓場に向かう皆守に九龍と夷澤は後を追った。
「だからごめんって!コータ!」
 皆守の背中に向かってペコペコと頭を下げる九龍を見つめながら
夷澤は苦笑いしか浮かばなかった。
―なんか、この二人…噂に聞いてたような関係じゃないみたいだな…

 墓場に向かいながら前を歩く先輩2人から離れた距離で呟く夷澤だった。


End