■ 学校生活で10のお題 06:持ち物検査 (皆守 × 九龍) 水天宮拓仄

「今日はみなさんの持ち物検査をしますので、カバンの中身を机の上に出して下さい」
 教室に入ってくるなり3−Cの担任教師・雛川亜由子が元気良く告げた。何の前触れもない抜き打ちの“持ち物検査”に生徒達からいっせいにブーイングの嵐が巻き起こった。
「はーい、静かに!これは生徒会からの要望です。さ、早く机の上に持ち物を出してね」
 にっこりと有無を言わさず命令を下す雛川は、ある意味この学園の教師で一番の強者なのかもしれなかった。
 雛川の言葉に1人ブーイングをする余裕もなく、真っ青になっている生徒がいた。
「おい、九龍」
 小声で九龍に呼びかけるのは親友の甲太郎だ。
「お前、顔色悪いぞ…どうしたんだ?」
「え…いや…な、なんでもない」
 そう言ったものの九龍の目は宙を泳ぎ、あきらかに動揺しているのが見て取れた。
 普段は冷静沈着な彼がこうまで取り乱すとは…珍しい表情を見たと甲太郎は少し得をしたような気分になる。
 甲太郎が観察しているとは知らず、九龍は自分のカバンを覗きながらどんどん顔色が青ざめてくるのが見てわかり、甲太郎はその理由に察しがついた。
「まさか、お前…学校にまで獲物を?」
 その言葉に九龍がビクリとおおげさなほど震え、無言で肯定の意が理解できた。
「ど…どうしよう?」
「どうしようってもなぁ…雛川は融通きかねぇぞ」
 どんどん近付いてくる雛川の姿をチラリと見て、困ったように頭を掻きながら二人で顔を見合わせる。
「もうすぐ雛先生きちゃうよコータっマジどうすればいいんだよぉ」
 泣きそうな顔をしながら自分のカバンを覗いたり雛川を見たり甲太郎を見たり忙しなく動く九龍。
「どうしたの?くろ…いえ、葉佩君。あなたの番よ」
「ひっ!雛せん…せ」
 わたわたとしていた間についに九龍の順番になっていた。
 甲太郎は見ちゃいられないと視線を九龍から外して頭を抱え、自分のカバンを開ける。
―自分でなんとかしろ九龍…っと、俺もコレ出しとかねぇとヤバイな。
 いつでもどこでも九龍に手を出せるようにと、毎日欠かさず持ち歩いているゴム製品を掌に納め、そのままズボンのポケットに突っ込んだ。
「何をそんなに驚いているの?さ、カバンの中を見せてください」
 笑顔で九龍の抱えているカバンに手を伸ばす雛川に逆らうこともできない。
「…………はい、問題ないですね。じゃあ、次は…」
 カバンを九龍に返すと何事もなかったように雛川は次々と検査を続けていく。
 その様子を、九龍と甲太郎はぽかんと見つめた。
「おい、どんな手品だ?問題ないってどういう事だよ」
「わからない…雛先生にはまだ俺のやっている事は言った事がないのに、なんで?」
 自分の番を終えた甲太郎が面白くなさそうに九龍のカバンを覗きこむと、 九龍がいつも持ち歩いている銃―44オートマグーと実弾が無造作に入っていた。
 これを見て「問題ない」と発言できる雛川が九龍に対して好意を持っていることは甲太郎の目から見て明らかで、複雑な思いが甲太郎を包む。
 自分の方が九龍に近いと自信を持っているが、やはり同性同士の感情は不安が付きまとうものだ。
 
 全員の持ち物をチェックし終えた雛川が教壇へ戻る途中で、九龍の席へ立ち止まり口を開いた。
「葉佩君。あとでお話があるの…HRが終ったら先生の所に来てちょうだい」
「は…はい」
 いつもの優しい笑顔を残して雛川はHRの終わりを告げ廊下に出た。それを九龍が追う。
 その様子を甲太郎は正視できなかった。わずかな不安が胸をよぎる。

 廊下に出てすぐに九龍は雛川に声をかけた。きっと怒られると思い、すっかり肩を落として雛川の目を見ることができずにいた。
「先生」
「すぐに終るから、先生と一緒に来てくれる?」
 返事をする前に雛川は歩き出したので九龍は大人しく後についていくと、雛川は美術室に入ると扉を閉めた。
「九龍君。あなたが何をしているのかは…だいたいわかっているわ」
「すみません」
 どう答えて良いのかわからなくて口に出た言葉は謝罪の言葉だった。
「あら、どうして謝るの?」
 クスリと笑う雛川を見つめて九龍は、再び頭を下げた。何も言う言葉見つからないのだ。
「それは、あなたにとって日常的な持ち物ということよね?」
「……」
 頷くこともイエスと返事をすることができないまま雛川の言葉を聞く。
「あなたが持っている物なら、正しい事に使ってくれる…そう、私は信じているの」
 その言葉に俯いていた九龍が顔を上げる。いつの間にか雛川の瞳に光るものが溜まって、静かに頬を伝う。
「あなたを信じていたい…せん…いえ、私はあなたが心配なの。いつも危険な物へ飛び込んで行くようなあなただから」
 震える声を懸命に抑える様を見つめ九龍は申し訳なさそうに頭を下げると、無言で部屋を出た。
―ごめんなさい…雛先生
 心の中で色々な意味で詫びると教室に戻った。
「九龍?雛川なんだって?」
 二人きりでどんな会話をしたのか気になって移動教室にも関わらず、九龍の帰りを待っていた。
「別に…気をつけなさいって」
「それだけかよ?」
 自分の言葉を疑うような様子を見せる甲太郎に九龍はカチンとくる。
「何疑ってんだよ?俺が雛先生と二人きりになって気に食わないって事か?」
 図星をさされた甲太郎はぐっと言葉に詰まると、自分の机の上に出していた教科書を無造作に脇に抱えた。
―パサっ
 教科書を脇に抱えた途端に甲太郎の袖から何か小さな袋が床に落ちる。
「ん?」
 気づいた九龍がすぐに袋を拾い上げた。
「あっ!」
 甲太郎が落とした事に気づいた時にソレはすでに九龍の手中に収まっていた。恐る恐る顔をあげると、そこには顔を赤くした九龍が拾った袋を床に叩きつけていた。
「コータの馬鹿!学校にまで持ってくんなよっ!!俺の荷物よりヤバイだろっ」
 叩きつけた上にだんだんと袋を踏みつける九龍に甲太郎も怒鳴った。
「馬鹿っお前の方が完璧ヤバイだろ!まるっきり犯罪じゃねぇか!」
「いーや、お前の方がヤバイ!この変態アロマっ」
 周囲のクラスに丸聞こえな大声で怒鳴り合う二人は完璧に授業を忘れている。
「とにかく足どけろっもったいねぇ!調達すんの面倒なんだからな」
「そんなの知るか馬鹿!」
 袋を踏みつけている九龍の足を持ち上げようとした時、教室の扉がガラリと開いた。
「あなた達、移動教室でしょう?何をしているの?」
 美術室から出てきたであろう雛川が誰もいないはずの教室から騒がしい物音を聞きつけて戻ってきたのだ。
「あ、そうだ、雛先生にどっちがヤバイか持ち物検査してもらおうぜ!」
 とんでもない事を言い出す九龍をどついて九龍の足を強引に浮かせ、ボロボロになった袋を拾いあげた。
「馬鹿っ!さっさと移動すんぞっ」
 あっけに取られる雛川を教室に残し、甲太郎は二人分の教科書を持って九龍の腕を引きながら屋上に向かっていた。
―こうなったら早々と証拠隠滅に限るだろ、やっぱ。



End