|
 |
|
 |
|
| ■ 学校生活で10のお題 08.球技大会 (3-Cメンバー+夷澤) 水天宮拓仄 |
|
12月に入ったばかりの頃、突然葉佩九龍がこんな事を言い出した。
「俺、球技大会やりてぇな」
その言葉を直接聞いたクラスメイトの皆守甲太郎と八千穂明日香は耳を疑った。
「おい、九龍・・・何を唐突に」
「そうだよ、九ちゃん。球技大会は5月だからね」
「えー?だって、俺が転校してきたの秋だったもん。球技大会やってないもん!」
普段の口調とは違い、まるで子供が駄々をこねるような九龍に甲太郎は溜息をつく。
「なにガキみたいな事言ってやがんだ。学校行事なんだから仕方ねぇだろ?」
「俺もやりたかった!学校での行事はくまなく体験するのが、俺の主義だ!」
わけのわからない理屈を力いっぱい言い放つ九龍の視界の端に、見知った顔を見つけ
すごい笑顔を見せた。廊下を歩いているのは生徒役員の後輩・夷澤凍也である。
「トーヤ!」
九龍の声に足を止めて、教室の開け放たれた扉から顔を覗かせた凍也は軽く笑みを浮かべ
遠慮する様子もなく3年の教室に足を踏み入れ、九龍達の元へ歩み寄ってきた。
「なんすか、センパイ?」
目の前に立ち、慣れた様子で声をかける。
クラブでもプライベートでも親しい2人であった。
「なあ、今週末あたりに球技大会開いてくれ!」
「はぁ?」
突然の事で凍也は一瞬体の動きが止まってしまった。何を言い出すのか、この人は・・と。
「・・・・あの、センパイ?今、何月か知ってますか?」
ずり落ちたメガネを左手の人差し指で押し上げながら、凍也は恐る恐る口にした。
「12月だろ?なんか関係あんのか」
自分が言った事に何も疑問を持たない九龍を目の前に、甲太郎も八千穂も凍也も言葉を失う。
「関係あるのかって・・・・球技大会は5月って決まってるんすけど」
何を言い出すんだという口調と表情で凍也は目の前の先輩を睨みつけた。
今回のわがままは許せないという意志をこめて。
自分だけが動けば済む問題ではなく、この学園全部を巻き込むわがままを通させるわけにはいかない。
「ああ、それはさっきコータから聞いた。だから、球技大会第2弾を生徒会で企画しろよ」
やっぱりな言葉に3人は大きなため息を漏らすのだった。どこまでわがままな男なんだコイツは。
「企画しろって・・・無理っすよ。1年間のスケジュールは年度始めに全部予算込みで決定してるんで、
一生徒のわがままで急に入れられるはずないでしょう。それぐらいわかってくださいよ」
怒りにわななく拳を抑えつけ、できるだけ丁寧にこの学園の生徒会としての説明をする。
だが、このわがままな男にそんなものが通用するはずがなかった。
なおも九龍は主張を曲げない。
「お前、来年度の生徒会長なんだろ?これくらいの事できないようじゃ一般生徒はついて来ねぇぞ」
「そんな事言っても無理なもんは無理っす!」
九龍の挑発にも乗らずに、あくまで冷静に事を進めようとする凍也。
面白くない九龍は唇を尖らした。
「ちぇっ生徒会もケチくせーな!残り僅かな学園生活を楽しもうっていう3年生の願いもかなえてくれないとは」
「・・・いい加減にしろって、九龍。無理に決まってんだろ?」
「そうだよ、九ちゃん。夷澤くんも困ってるみたいだよ」
ぶーぶー文句を垂れ流す九龍を甲太郎と八千穂がなだめようと口を挟むが、
いっこうに九龍は己のわがままを諦めるつもりはないらしい。
「じゃあ、阿門が”いい”って言えば良いんだな?」
急に立ち上がって3人を見渡した。
「そりゃ・・・まあ、阿門さんが許可を出せば」
あの阿門が許可を出すはずがないと踏んだ凍也は、頷きながら内心安堵した。
やっと、この人のわがままを止められると・・・。
「よっしゃ、阿門に交渉してくる!楽しみにしておけよっ」
活き活きとした様子で九龍は教室を飛び出していった。
その様子を残された3人は呆然と見送り、八千穂がつぶやいた。
「まさか・・・阿門くん、許可出さないよね?」
「出さないだろ、さすがに・・・なあ?副会長補佐」
「・・・たぶん」
一抹の不安をかかえながら3人は九龍が消えた教室の扉を見つめて、次に言おうとした台詞を飲み込んでいた。
(でも、あいつならなんとかしそうな気がする)
これを口に出したら、それが現実になりそうだったからだ。
十数分後。
3人の元に嬉しそうな様子で九龍が戻ってきた。
そして、口に出さなかった予想が現実になったと九龍が勝ち誇った表情で報告するのだった。
end |
|
 |
|
|
|