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| ■ 学校生活で10のお題 10.校庭で愛を叫ぶ (九龍×夷澤) 水天宮拓仄 |
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今夜はクリスマス・イヴ、夷澤凍也は来るあてもない男を時計台で待っていた。
ここには暖房もなかったが、彼は平気な表情でそこに佇んでいる。
「…オレも何やってんだろ。あの人がここへ来る保証は何もないってのに」
グローブをはめたままの両拳をぎゅっと握りしめて、拳を見つめる。
この拳は一度も彼に当たった事がなかった。
どんなに打ち込んでもすべてかわされてしまう。
「ったく、オレがこんな気持ちになるなんて…思いもよらなかったぜ」
初めて会った時は、謎に包まれた転校生で自分にとっては敵だった。
生徒会の敵、それが葉佩九龍という三年の転入生。
―びゅっー
宙に向かって右拳を突き出す。
そこに見えない彼の姿を見るが、突き出した拳は幻にすら避けられた。
幻の彼がいつもの笑顔を自分に向けた。
「トーヤ」
彼の事を考えていたら幻の声まで聞こえ出したようだ。
「いよいよ、ヤバイかな…オレも」
自嘲気味に笑って軽く頭を振る。
「トーヤ」
また聞こえる。もう自分の気持ちを認めるしかないのだろうか?
「おい、トーヤ!」
「えっ?」
肩を掴まれて凍也は我に返った。
自分の目の前には幻でもなんでもなく、今まで考えていた人・葉佩九龍が自分の肩を掴んで心配そうな顔で覗き込んでいる。
「え…あ、センパイ!」
今までの独り言を聞かれたかもしれない凍也は、顔を赤くして硬直した。
「どうしたんだよ?さっきから、ずっと呼んでたのに返事もしないでブツブツとさ」
軽く笑いながら凍也の肩を離すと、九龍は両腕を自分の腰にあて仁王立ちだ。
九龍の格好を見ると、これから遺跡へ最後の探索に出かける事が明かに見てわかる。
制服の上に遺跡探索用のベストを見につけ、頭には暗視ゴーグル。
ベストの中には、お気に入りのオートマグとかいう拳銃が二丁と応急セットに非常食。
そして、腰には大振りの刀が無造作に下げられている。
とても高校生の姿とは思えない姿である。
自分とは住む世界が違う人間なのだと、改めて思わざるをえない。
「な・・なんでもないっす…いきなり現われたから驚いただけですから」
焦った様子で眼鏡を指で押し上げて窓の外に視線を向けた。
「…雪が降ってきましたね。ここじゃ、こんな時期に降るのは珍しいんすよ」
「そうだな」
しばらく二人で窓の外に深深と雪が降る様子を眺めていた。
最初にこの沈黙を破ったのは凍也だった。
「今夜、決着がつくんすね…」
九龍を見れなくて、窓の外に降り続く雪を見つめながら凍也は声を絞り出した。
「ああ、今夜ですべてが終るだろうな…」
「相手は阿門さんです…勝てるんすか?あの人は強いです」
「強いのはわかってるよ…それに、もう一人もな」
「もう一人?生徒会役員はもう阿門さんしか…副会長はずっと不在で…!」
その言葉を寂しそうな微笑みを湛えながら九龍の雰囲気が珍しく沈んでいた。
「副会長は不在なだけで、いないわけじゃない…会長の前には副会長だろう?順番からして」
「…でも、副会長は誰なのかもわからないんすよ」
「わかるさ…副会長はたぶん、アイツだ」
窓から視線を逸らして宙を見つめ、すっと目を閉じた。
そう、九龍は副会長が誰だか見当がついている。その人物と、自分は最後の遺跡に潜る。
誰も巻き込みたくない、その人物と二人きりで遺跡に潜るのだ。
目の前にいる可愛い後輩に会えるのも、きっとこれがが最後になるだろう。
別れの挨拶をするべき人間には、すべて昼間や時計台に来るまでの間に済ませてきた。
そして、最後に同じクラブで活動し、生徒会役員でつい先日の遺跡で打ち負かした相手。
はっきりとした言葉に出した事はお互いになかったが、心から大切に思っている相手。
「アイツって誰っすか?オレも知っている人ですか?」
「さあな…」
視線を凍也に戻して、真剣な表情でじっと見つめる。
その視線がくすぐったくて凍也は窓の方を振り返り、窓に両手をはりつけるようにして外を見つめた。
窓に映る九龍を見つめる。
「…まあ、いいっすよ。オレが一緒に行けばすぐにわかる事ですしね。当然、今夜のバディに指名してくれるんでしょう?」
それは違う事を凍也はわかっていた。
だが、九龍が本当に告げにきた言葉以外の事を聞きたい。
「凍也」
いつもの調子良い呼び方ではなく、真剣で低い声で名前を呼ばれた。
背中がぞくりとする。
「今夜はお前に俺の気持ちを伝えに来たんだ。聞いてくれるか?」
その言葉に凍也は、勢い良く後ろを振り返った。
「気持ちってなんすか?」
声が震えそうになるのを堪えて聞き返した。
心臓が高鳴り、油断すると膝の力が抜けてその場にへたりこみそうになる自分をしかりつける。
「凍也、お前を愛してる」
「…はっ。あんたの事だから、そんな言葉を誰にでも言っているんでしょう?信じられませんよ」
顎を少し上げて九龍の言葉を拒絶した。
この言葉を受け入れてしまったら、ここで終わりになってしまいそうだったから。
「嘘じゃない。お前を愛してる」
「そんな言葉聞きたくありませんね。ほら、さっさと墓に潜りましょう。時間がなくなりますから」
自分の意志に反してこぼれそうになる涙を堪えて、上をむくがこぼれそうになる涙。
また窓に向かい今度は下を向いて、古めかしい床を見つめた。
一粒、二粒と床に水滴が落ち、床にじんわりとしみこんでいく。
自分の背後で扉の開く音がし、静かに閉められた。
「……っセンパイ!」
窓にはりついたまま、ずるずると床に膝をつき宙を見つめ涙をとどめる事なく溢れさせる。
もう二度と会えない人からの最高の気持ちを自分は拒絶したのだ。
九龍が時計台を去り、そこに残されたはずの凍也の姿も消えていた。
雪が降りしきる中、凍也は屋上に佇んでいる。
ここからなら墓に向かう九龍の姿を見つけることができると思ったからだ。
屋上の柵に近づき、両手で冷え切った柵を掴むと凍也は下を覗き込む。
「セ…ンパイ?」
下に広がる真っ暗な校庭の真ん中で九龍は両手を広げて屋上を見上げていた。
九龍の視界に凍也が入る。
「「凍也!お前を愛してる!」」
広げていた両手を口の周りを覆いメガホンのようにしながら叫ぶ九龍の姿は酷く滑稽に見えた。
九龍の叫びに何も言わない凍也。
すると、もう一度九龍が両手をメガホンにして叫んだ。
「「俺はみんなが好きだけど!“愛してる”なんて言うのはお前だけだ!わかったなぁ〜」」
屋上まで聞こえるということは、この校内に自分と同じ目的で九龍を待っていた人間や、寮にいる人間にも聞こえるだろうの音量。
「「センパイ!オレも同じっす!あんたの事、あいしてますから!だからっ…!」」
学園の人間全員に知らしめるかのように自分も大声で九龍の気持ちに応えていた。
その言葉を聞いた九龍は両手で大きく円を作って、最高の笑顔を凍也に向けて走り去って行った。
「…まだ、最後まで言ってないっての…」
流れる涙を風に流しながら凍也は柵の内側でしゃがみこみ、今更ながら自分が発した言葉に全身が火照る。
雪が降りしきる中、凍也は一人熱くなった自分の体を抱き締めて。
「センパイ…また会えますよね?」
火照る体をもてあましながら立ち上がり、九龍が向かった墓の方を見つめた。
End |
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