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| ■ 小説書きさんに暗〜い20のお題 03:ひとをころすということ (九龍×夷澤) 水天宮拓仄 |
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葉佩九龍は、たった今学園を騒がせていた”ファントム”を倒し、
目の前には、同じクラブ活動で共に活動し、今では後輩以上の存在になった夷澤凍也が割れた仮面を前に苦しそうな表情を浮かべ、
自分がなぜファントムと呼ばれてるのか、自分は何者なのか悶え続けていた。
「ハァ、ハァ、ハァーーー。ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。オレは、一体?」
荒い息、上下する肩が彼の呼吸の激しさを物語る。
「オレは・・・誰だ?何をしていた・・・?」
「凍也!お前は夷澤凍也だ!目を覚ませよ凍也!」
九龍の声にファントム・・・いや、夷澤凍也は、だんだんと落ちつきを取り戻してきたようだ。
「そう・・・。オレの名前は、夷澤凍也・・・」
思い出して、いつもの強気な表情に戻ってくる。
「トーヤ!元に戻ったのか?良かった・・・心配させんなよ、おま・・」
笑いながら近づこうとした九龍の言葉を遮って、凍也はさらに言葉を続けた。
「”生徒会副会長補佐”この”墓”を守るのが役目」
九龍の知っている夷澤凍也と一致しない。
そう、まるで初対面の時の彼を思い出し、九龍は顔から血の気が引いた。
まさか、”ファントム”の影響で記憶が失われているのでは?
「トーヤ?どうしたんだ・・・?具合、悪いのか?」
自分の不安を打ち消すように九龍は凍也に近づこうとした、するとようやく九龍の存在に気づいたかのように睨みつけられた。
「まだ、頭がフラフラする。あんたは、誰だ?何で、ここに?」
まるで初めて会った敵のように睨み付けられ、そしてとっくに知っているはずの事を問い掛けてくる。
「な・・・どうしたってんだよトーヤ。俺の事、忘れたのか?ファントムのせいで?」
「質問に答えろ!あんたは誰だ?場合によっちゃ・・・」
ボキボキと指を鳴らし、好戦的な眼差しを向けてくる凍也に九龍は名前を名乗る。
「葉佩九龍だよ・・・お前と同じボクシング部だろ」
「・・・?葉佩、九龍?あァ、そうか。阿門サンが言ってた”転校生”だな・・・。オレは、いつの間に戦ったんだ?」
マジマジと九龍を観察し、戦った形跡のあるあたりの様子を見つめ首を傾げる。
その様子を見つめていた九龍は、今までにないほど取り乱していた。
「何言ってんだよ凍也!何、初対面みたいな事・・・本当に忘れてんのかお前!」
今夜は凍也との戦いとわかっていた九龍は、一緒に墓に潜ると申し出た仲間達をふりきって一人でここへ辿りついた。
夷澤凍也と一対一で、すべてのものに決着をつけたかった。
彼の抱えているものをすべて受け止めてやりたかった。
「ちッ、まるで悪い夢でも見ていたかのようだぜ」
左手で自分の額を抑え、軽く頭をふる。まだ頭の中にモヤがかかっているような不快感に凍也は表情を歪ませた。
「それはこっちの台詞だぜ、トーヤ・・・いい加減に目を覚ませって!オレの事、本当にわかんねーの?」
一歩、九龍が近づくと凍也は一歩後ずさり、きっと睨みつけてくる。
「いつものように墓を見廻っていた時に”声”が聴こえて・・・。その後は・・・・」
だんだんと自分の記憶が甦ってくる凍也は激しい怒りを露にする。
「このオレが誰かにいいように操られていたなんてよッ!クソがッ!」
手に持っていたファントムのマントを地面に叩きつけ、足で踏みつけて目の前に立ち尽くす九龍を改めて睨みつけた。
「・・・葉佩・・九龍ッ!もう一度オレと戦え!オレの力はこんなもんじゃないッ!」
「・・・ああ、いいよ。それでお前が俺の事を思い出すのならな」
静かに言葉を発し、九龍は自分のベストや腰に下げていた銃器を地面に放り投げた。
そして、ボクシング部で愛用しているバンテージを拳に巻きつける。
「この”音速の拳”を見切れるヤツなんていないんだからな。オレの拳が通った後は、空気さえ凍りつく。
アンタのようなタダの人間が勝てるワケないんだ。それを、今ここで証明してやろうじゃないか。クククッ」
喉を震わせて笑いながら凍也は、九龍がバンテージを巻き終わるのを待つ。
相手の準備が整う前に襲い、勝利を我が手にする・・・なんていうやり方は、凍也の主義ではない。
正々堂々と戦って、負かしてこその完全勝利が自分のモノとなるのだ。
「・・・凍也、本気でやるからな」
バンテージを巻きながら、視線を上げ凍也の目を見つめる。
その視線の鋭さに凍也はゴクリと小さく喉を鳴らした。
今まで見たことのないほどの目。
・・・獣の目・・・と思わせるほどの、殺気を含む視線にゾクリとした。
「・・・そ、それに、ここで、アンタが死ねば、オレが操られていた事を知るヤツはいなくなる。そうさ・・・」
本能的に感じ取った怯えを振り払うかのように、凍也は叫び九龍に向かって足を踏み出した。
「・・・オレのために死んでくださいよ、センパイーー」
バンテージを巻き終わった九龍がすっと顔を上げ、両拳を胸の前でコツンと合わせ、再び凍也を凍りつくような表情で見つめた。
勝負は一瞬のうちに終った。
突進してきた凍也の右拳を左手で軽く流し、その直後にまたたきもおいつかないほどの隙をついて、九龍は足を払った。
足払いでバランスを崩した凍也のボディに強烈な一撃を打ち込んだ。
その一撃で凍也は、打たれたボディをおさえて地面を転げまわった。
「ぐあっ・・・・あうっ・・・・ううっ」
痛みに悶え、胃からこみ上げてくるものを堪えきれずに腰を折り曲げて地面に戻し、自然に目尻に涙が浮かんだ。
「・・・人間を殺す根性もないくせに、死んでくれなんて言うんじゃねーよ」
地面に両膝をついて、苦しそうに震える凍也を見下ろしながら九龍は淡々と言葉を発した。
その言葉には、どんな感情も当てはまらない。
怒りでも哀しみでもない。
そう、何の感情も感じられない無機質な言葉に凍也は背筋に寒気を走らせた。
「セ・・・セン・・・パイ?」
その後、凍也の体から謎の黒い砂が吐き出され、凍也は墓の呪縛から解放される。
まだ立てない凍也は、口元についた汚れを袖口で拭い去ると顔を九龍が立っている方向に向けて、泣きそうな自分に気がついた。
どうして泣きそうになったのかは、わからない。
”怖い”とか”悔しい”とか、そんな感情は今の自分に当てはまらない。
「トーヤ、大丈夫か?」
さっきまでの無機質な声がうそのように、無表情な彼が消えた。
いつもの軽い口調で、いつも自分に向けてくれる笑顔を見た瞬間に凍也は泣いていた。
「ゴ・・・メン、ナサイ・・・センパイ。オレ・・・アンタに死んで欲しいなんて思ってなかった・・・のに」
涙を流す凍也の背中に両腕を回して九龍はぎゅっと抱き寄せる
「だろ?人、殺すなんて簡単にできっこないんだよ・・・お前は、そういう人種じゃない」
「・・・センパイは?」
大人しく九龍のするままに身を任せながらふと口を出た疑問。
その疑問に九龍が明確な答えを口に出すことはなかった。
「さっきだって”死んでくださいよ”なんて言ってたけど、人を殺すような拳じゃなかったしな」
「・・・・・・オレがアンタを殺せるはずないじゃないっすか」
僅かにみえる凍也の耳が赤くなると見て、九龍はクスリと笑った。
「な、何がおかしいんすか!」
その笑いで、自分が発した言葉を馬鹿にされたと感じた凍也は九龍の腕から脱出しようと両腕をバタつかせる。
「いてっ」
振り回した腕が運良く(?)九龍の顔に当たり、凍也は解放された。
「初めて、オレに拳当てたな」
笑いながら凍也の頭をポンポンと叩き、髪の毛をぐちゃぐちゃにかき回す。
「や・・・ちょっ!やめてくださいよ、センパイ!」
しっかりとまとめられていた髪は、あっという間にぐちゃぐちゃにされるが不思議と不愉快には感じなかった。
「本当・・・よかったよ・・・本当に、よかった」
自分の目尻に滲む水滴を見られないように九龍は凍也に背を向け、かがみこみ両腕を後ろに伸ばした。
「・・・なんすか?」
「ほら、乗れ。お前、まだ立つのがやっとだろ?」
「いっ!いいっすよ!自分で歩きますから!」
「まあ、いいから、いいから」
そう言いながら自分の見栄のために、嫌がる凍也を無理矢理背負って出口に向かって九龍は駆け出したのだった。
end |
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