■ 小説書きさんに暗〜い20のお題 07:モノクロの涙 (九龍×夷澤) 水天宮拓仄

「・・・オレのために死んでくださいよ、センパイーー」
「ああ、いいよ。お前に殺されるなら」
 そう言って、九龍は凍也の目の前で手に持っていた銃を投げ捨てた。
ーガシャッー
 凍也の足元に九龍愛用のオートマグが転がる。
 間近で見る、本物の銃。
 自分は墓守の力に守られ、この弾丸を受けても死ぬことは無いだろう。
 今までの墓守も九龍の放つ弾丸で、倒れはするものの生命に支障はない。
「お前自身が俺を本当に殺したいのなら、殺せ。抵抗も反撃もしない」
 低い声でゆっくりと言葉を発しながら九龍は、身に着けていた装備品を次々を外し地面に放っていく。
 暗視ゴーグルすら両手で外すと地面に放った。
ーガシャンー
 ゴーグルのレンズが割れた音が小さく遺跡内に響く。
「なんで・・・そんな、あっさり・・・」
 凍也はこれからもう一戦と意気込んでいた所に、九龍が装備を投げ捨て無抵抗のまま、
自分が言うままに殺されると意志表示している。
 この状況になって、初めて凍也は戸惑った。
 ”オレのために、死んでくれる?なぜ?オレに殺される理由がセンパイにあるというのか?”
「なぜって?お前が”死んでくれ”って言ったからに決まってるじゃん」
 これから殺されようとしている男とは思えない程、軽快な回答。
「あんたは、人が”死んでくれ”と言えば死ぬのかよ!」
 足元に放られたままの銃を拾いあげて、銃口を九龍に向けてトリガーに指をかけながら叫んだ。
「人によるかな」
「・・・な・・なんだよ、それ!あんた、馬鹿じゃねーのか?」
「否定はできねーな」
 笑みを浮かべて頬を左手の人差し指でぽりぽりと掻く。
 まったく”死”を受け入れようとしている人間の態度とは思えない。
「逆に聞いてもいいか?」
「・・・いいっすよ。あんたはこれから死ぬ人間なんだ。なんなりと聞いてくれて結構っすよ」
 銃口を九龍に向けながら、片手でメガネを押し上げる凍也。
 自分の方が立場が上なはずだった。
 だが、なぜか九龍を前にすると威圧感を感じずにはいられない。
「お前、今までも誰かを殺した事あるのか?」
「・・・いいえ。ここまでたどり着いたのは、センパイが初めてだし・・・
 校内の取り締まりは執行委員の連中に任せてますからね」
「ふーん、じゃあ、俺がお前に殺される最初で最後の人間ってわけね」
 頷きながら、なぜか笑顔を浮かべる九龍に凍也の方が戸惑う。
「何が嬉しいんっすか?これからセンパイは死ぬ・・オレに殺されるんすよ?」
「これでお前は俺の事一生忘れないな。と思うと嬉しくないはずないだろ?」
 その言葉にドクリと心臓が脈打つ。
 そして、自分が発言した言葉をリアルに認識し始める凍也は、焦りはじめた。
”センパイが死ぬ?オレの言葉に従って死ぬ?”
 この学園で、永遠の眠りについた生徒や、この学園の秘密を探ろうとした部外者は数知れない。
 その実行者は、ほとんどが執行委員達であり、生徒会役員の自分は手を汚した事はなかった。
 生徒会に反抗的な生徒や、自分に敵意を持つ生徒達を殴り倒した時は幾度と無くあったが、
人間の生命を奪った事はない。
 今まで何度も口にはしていたが、実行した事はなかった。
”死ねよ””殺してやろうか?””ぶっ殺してやる!”など日常的に使っていた。
「ほら、殺れよトーヤ。お前の望むように。俺はお前の中に一生居座ってやるから」
 両腕を広げ、ずいっと足を踏み出す。
 思わず九龍の迫力に押され、後ずさってしまう。
「センパイ・・・こ、こんなんで・・・死んでもイイんすか?」
「だから、良いって言ってんだろ。お前が本気で望むなら、その通りにしてやるよ」
 凍也が持つ銃が小刻みに震え始める。
 ゆっくりと近づいてくる九龍から瞳を逸らす事ができない。
 伸びてきた手にビクリと反応を返す。
「ち、近寄るな!」
 わけのわからない恐怖に怯えながら、凍也は近づいてくる九龍から距離をとろうと、後ろに下がり続ける。
 数歩下がると部屋の壁が背中に当たり、これ以上下がれない。
「何を、そんなに怯えてるんだ?トーヤ?まるでお前が殺されるみたいな顔してる」
 微笑みながら、動きが止まった凍也に両手を伸ばし、彼の手にある銃に自分の手をかぶせた。
「使い慣れないコイツなんてやめて、お前の拳で殺れよ・・・俺も、そっちの方がいい」
 銃を握り締めている指に、自分の指を絡めて1本ずつ凍也の指を銃から剥していく。
「センパイ・・・」
「ん?」
 優しいまなざしで凍也を見つめた。
「・・・・・・・っ」
 唇をかみ締めた凍也の瞳から涙が零れ落ちる。
 最後の指が銃から離され、九龍は銃を自分のベルトに押し込んだ。
「何で泣いてんだよ?お前は、これで生徒会役員の役目も果たせて、
 株も上がるし、自分の望みも叶って一石二鳥だ」
 小首をかしげ、涙を流す凍也の顔を覗きこみ九龍は笑う。
 九龍にとって”死”は身近なもの。
 トレジャー・ハンターになってから、自分が死ぬのは遺跡で探索中か愛する人間の為だと決めていた。
 今の状況は、自分にとっても一石二鳥とも言える。
 遺跡の中で、探索中に愛する人間が望む死を迎え入れる。
「・・・・・なんで・・・そんなに幸せそうな・・・顔で・・・笑えるんすか」
 零れる涙をそのままに。
「幸せだからに決まってんだろ」
 その笑顔を目に焼きつけて、凍也は墓守りとしての力を九龍に向けて放った。
 肉体への損傷は最小限に留めた。
 まだ生きているかのように、九龍は笑顔を浮かべたまま凍也の前に立っていた。
 細胞、血液までも凍らせる。
「礼は言いませんよ、センパイ・・・」
 涙で視界が淀み、まるでモノクロの世界に迷いこんだような感覚が凍也を包み込んでいた。


end