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| ■ 小説書きさんに暗〜い20のお題 08:血 (九龍×夷澤) 水天宮拓仄 |
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今夜も九龍は学園の地下に眠る墓に潜り、世界各国のビップクラスの
人間達から請け負った依頼を果たす為、軽快に化人を次々と倒していく。
正式に仲間に加わってまだ間もない凍也は、傍目には楽しそうにさえ見える
先輩の戦う背中を少し離れた場所から眺めていた。
この”墓”・・・遺跡の中で、先輩の指示なしで戦う事は許されていない。
「オレ・・・一緒に来てる意味ねーじゃん」
ボソリと呟いて己の使う事のない拳を見つめて小さく舌打ちをした。
しばらくすると辺りにいた化人をすべて倒した九龍、が弾む息で凍也に近づいてくるのがわかる。
まるでスポーツを楽しんだ後のような九龍を前に、凍也は顔を歪めた。
「血まみれじゃないっすか」
「え?ああ、別に俺の血じゃないよ」
「そんなの見てりゃわかりますよ」
面白くなさそうな表情でタオルを差し出す。
「サンキュー」
顔についた血を拭い、クラブ中のように凍也からペットボトルを受け取ると、
ミネラル・ウォーターをごくごくと喉を鳴らしながら飲んだ。
この2人だけを見ていると、部活動でよくあるシーンと同じだった。
ただ、違う事は場所が武道館ではなく、遺跡の中だということくらいである。
「センパイ、闘う時すごく楽しそうっすね」
「そうか?別に楽しくもないけど・・・まあ、つまらなくもないな」
笑いながら隣を歩く凍也に視線を向けて、空になったペットボトルをベストの空きポケットに突っ込む。
「今みたいな闘い方してると、いつか本当に死んじまいますよ」
自分の左側を歩く九龍の肘を遠慮がちに掴み、少し力を加える。
「いてっ」
凍也が引いた左腕の制服が大きく裂け、そこから血が滴っていた。
「怪我したのも、わからないなんて・・・どうかしてますよセンパイは」
「闘ってる時はアドレナリン大量分泌してるからなぁ」
笑いながら傷ついていない右腕を上にあげて、後ろ頭を掻く仕草を見せる。
当の本人は笑っているが、見ている人間にとっては笑い事ではない。
「笑い事じゃないっすよ!とりあえず座ってください、手当てしますから」
「いいよ。寮に帰ってから自分でやるから」
掴まれた肘をぐいっと上げて、離れようとした九龍の左腕を、
今度は懐に抱え込むようにして捕まえて、凍也はきっと見上げた。
「おい、お前制服に血が・・・」
「いいから!早く見せてください!」
ぎゅっと抱え込んだまま離そうとしない凍也に負けて、九龍はその場に腰を下すと壁に背を預けた。
「上着脱いでください。出血具合から、軽い怪我じゃないっすよコレ」
自分の胸にべっとりとついた九龍の血を見て、床に座る九龍を上から見下ろす。
やれやれといった表情で九龍はロゼッタ協会支給のベストを脱ぎ、続けて学ランを脱いだ。
上着の下は動きやすいTシャツを着ていたが、白いシャツは自らの出血でまだら模様になっている。
腕の傷は肘から、脇の下にまで至る広範囲に浅く裂けていた。
「腕上げてください。今、傷口拭きますから」
「ああ、悪いな」
「いえ・・・」
タオルを自分用に持ってきていたペットボトルのミネラル・ウォーターで濡らし、
上げた九龍の左腕を右手で支えながら、脇の下に潜り込むような格好でタオルを傷口に押し当てた。
「・・・っ」
頭上で九龍が痛みに思わず声を漏らす。
傷口を見ると薄く切り裂かれたようなモノで、まるでカミソリで皮膚を傷つけたような痛みが生じているのだろう。
丹念に傷の上を軽くタオルでふき取ると、九龍がビクリと体を硬直させ、痛みに息をのむ様子が凍也に伝わってきた。
思わず血をふき取るタオルを床に落とし、九龍がそれに気づいた時には、少しだけ腰を浮かせて傷口に舌を這わした。
「・・・と、凍也!お前、何やって」
突然の事で珍しく九龍が狼狽する。
その声に凍也もはっと我に返って、ばっと後ろに飛びのくように九龍から離れた。
「オレ・・・何やって?」
「それは俺の台詞だ。何、いきなり欲情してんだよ?」
一瞬の狼狽もあったが、すでにいつもの余裕たっぷりの九龍。
笑いながら床に落ちたタオルを拾い、拭き終わっていない肘を自分で無造作に拭う。
「欲情なんて・・・んな、わけないっす!なんか・・・センパイの血見たら、勝手に・・・つい」
思い出しながらカーッと顔に血を昇らせて、唇を袖で拭ったが、口の中に残る九龍の血が自らの行為を認めざるを得なかった。
「どう、俺の血はお気に召したか?」
クスクスと笑いながら、傷口からにじみ出てきた自分の血をペロリと舐める九龍に、凍也の心臓が跳ねる。
「う・・・美味くないっす」
自然に声が震える、自分にゆっくりと座った状態のまま近づいてくる九龍を見つめながら、凍也は猛烈に喉の渇きを感じた。
一体、自分はどうしたんだろう?
九龍の血を拭っていたあの時、いつもより強い彼の臭いを感じ、我を忘れた。
気がついたら九龍の傷口に舌を這わせていたのだ。
これが”欲情”と言わず、なんと言えるのだろうか?
いつもは、自分の感情を認める事ができない凍也だが今夜、はっきりと自覚した。
自分は確かに、九龍に”欲情”していたのだと。
目の前で九龍が止まり、再び左腕を上げて挑発的な視線を凍也に向けた。
「俺の血、欲しいのならくれてやるよトーヤ」
ズボンのポケットから小さいナイフを取り出し、血が止まりかけている傷にナイフの刃を浅く触れさせ、スッと引いた。
傷口から新しい血が滲み出し、しばらくするとその血は低い位置の肘へつうっと流れていく。
「センパイ・・・」
「ほら」
新しく流れる血を自分で舐めとって凍也へ右腕を伸ばし、顔を引き寄せて唇を奪った。
「んんっ」
凍也の口内に再び広がる強烈な九龍の味と臭い。
体がだんだんと熱くなるのを感じる。
「トーヤ、俺は美味いか?」
唇を離し、凍也の唇に舌を這わす。
「・・・・・だ・・・から、さっきも・・・っ!」
九龍の言葉を否定しようとした凍也の唇に鋭い痛みが走る。
真新しい血の味が自分の口内を満たした。さっきとは違う味に思わず顔をしかめた。
凍也の唇を九龍が噛み切り、ちゅっと音を立て吸い上げた。
「・・・痛いっす」
自分の唇を吸う九龍の肩をつかみ、ぐっと力を加えると驚くほどあっさりと解放してくれた。
唇に自分の血をつけ、ぺろりとそれを舐め取る九龍に凍也は眩暈を覚えた。
「俺はお前の血、美味いと思うぞ?」
「・・・変態じゃないっすか、それ」
真っ赤になって自分の唇に、手に持っていたタオルを押し当てる凍也に九龍は大げさに笑って指を差した。
「だったら、お前も変態だよな!」
大きな笑い声をたてながら、九龍は立ち上がって脱いだ上着を拾う。
少し離れた場所で、ふるふると真っ赤になりながら震えている凍也を振り返って、いつもの笑顔を向けた。
「さ、今夜はこれで帰るか?俺の部屋に来てもいいぜ、トーヤ?」
片目を瞑って、大胆な誘い文句を言い放った九龍の目を見れないままコクンと頷く凍也だった。
その反応に驚いたのは、またも九龍である。
いつもなら大声で怒鳴りちらす後輩が、こうも素直に頷くとは予想していなかったのだ。
「え、マジで来るの?」
きょとんとした表情で聞き返してくる九龍に近づいて、ぐいっと遠慮ない力で左腕を掴み、凍也は出口に向かって歩き出した。
「いてぇ!いてぇよトーヤ!」
「ここじゃ、充分な手当てができないっすから。だから・・・」
モゴモゴと口篭もる凍也に後ろから抱きつくと、九龍は傷の痛みも忘れて遺跡の出口を目指すのだった。
end |
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