■ 素直になれない人へ向けて5の台詞

   01.「『嫌いじゃない』ってのは、『好き』と同義じゃないんだぜ?」 (九龍×皆守) 水天宮拓仄

 いつものように葉佩九龍は、昼休みに今夜のバディを指名するメールをHANTで送信していた。
「これで、よし…と」
 それを先に昼食のカレーパンを食べ終わっていた親友の皆守甲太郎がダルそうな表情で見つめ、
自分のポケットから携帯を取り出して開いてみた。
「なんだよ、今日は俺が行かなくてもいいのか?」
 HANTを折り畳んだ九龍を見て、何も反応がなかった携帯を再びポケットにしまいこむ。
「今夜はコータ以外に頼むよ。いつも、お前ばっかりじゃ悪いからな」
 笑いながらあぐらをかいた足の間に置いてあった袋の中から、ガサガサとやきそばパンと
自動販売機で購入してきたミネラル・ウオーターを取り出して、寝転ぶ甲太郎に視線を向けた。
「いいのか?」
「いいって何が?お前、意外に自信過剰なんだな」
 無造作にパンの包装を破り、口いっぱいにほお張りながらも言葉を発す。
 九龍の口からは食べカスがポロポロとこぼれ、それが風に乗って甲太郎の方に流れていく。
「あっ!きったねぇなぁ!物食べながらしゃべんなよ」
 仕方ないので身を起して九龍の真横に九龍と同じようにあぐらをかいた。
 まだ口をつけていなかったミネラル・ウオーターを見つけて、親切に蓋を開けてやる。
「サンキュ」
「だから、しゃべんなって」
 飽きれた表情を見せながら甲太郎は蓋を開けたペットボトルを差し出した。
 九龍はそれを受け取り、口をつけた。
 とりあえず、これで口の中にあるやきそばパンは飲み下せる。
「で、なんだって?」
「聞いてなかったのかよ?」
 少し怒ったような表情を見せるが、そんな事で九龍はびびることもない。
「今日の墓には俺行かなくていいのか?と聞いたんだ」
「ああ、その事ね。今日は簡単な依頼を受けただけだから、手を借りるまでもないよ」
 そう言って、もう一口ミネラル・ウオーターを飲み、残りのやきそばパンを口に入れてモグモグと咀嚼する。
 口の中から、水とやきそばパンを一緒に咀嚼している音が聞こえてきたが、それはあえて無視することにした。
「でもさっき誰かにメールしてただろ」
 横目でまだ頬の中でモグモグと口の中身と格闘している九龍を見て、しばらく眺めていたがすぐに視線をそらした。
 何をこんなに気にしているんだろうと。
 しばらく九龍の口がモゴモゴと動いていたが、ペットボトルに口をつけているのを見て、
すぐ横からゴクリと喉を何かが落ちていく音を聞いた。
「ふう〜ごちそうさん。悪い悪い、話してる最中に」
「誰にメールしてたんだ?そいつと行くんだろ?」
 甲太郎の言葉に目をぱちくりさせた九龍は、HANTを取り出し何かのキーを操作して、画面を甲太郎に向けた。
「そんなに俺の事心配?ほら、今日はトーヤと行くんだ」
「あいつ…か。二人で行くのか?ほかには誘ってないみたいだな」
「うん、仲間になったばっかりだし、今日は簡単な依頼をこなしながら慣れてもらおうと思ってさ」
 それを聞いて少し考えるような表情をしていたが、すぐに甲太郎はごろりとその場で横になった。
「ふ〜ん。ま、せいぜい気をつけて行ってこいよ。だが、背後に気をつけな」
「そんな事ないって、もう仲間なんだしさ。俺とはクラブでも一緒で仲良いいんだぜ」
 笑いながらHANTを懐にしまい、食べ終わった袋を掌でぐしゃぐしゃと握り潰し、
それも懐にしまいこむ九龍を下から見上げながら、自分は何を言っているんだろうと思った。
 この親友はどこにも隙はなく、例え背後から襲われたとしても対応できるだろう。
 下手に背後から近づけば、殺されかねないほどの危険さを持っているのも知っていた。
「…じゃあ、俺はさっさと寝るからな。絶対に呼び出すなよ」
 そう言って九龍に背を向けるように寝返りを打つと、ふと視界が暗くなったのを感じ、目を上に向けた。
「俺の事、どうしてそんなに心配なの?俺があいつより強いの知ってるだろ?」
「…っ」
 視線を上へ向けた途端に見えたのは、九龍のアップ。
 あまりに近くて甲太郎は思わず咥えていたパイプを落としてしまっていた。
 屋上の床に落ちたパイプ。カツンッと小さな金属の音が甲太郎の耳に響く。
 心臓の鼓動もうるさく感じ、甲太郎は寝転んだまま両腕を使って九龍の下から抜け出そうとした。
 だが、その動きは九龍によって止められる。
 寝転ぶ甲太郎の左右につっかえ棒のように両手をついて、さらに顔を近づけた。
「…ちょっ!近すぎだって!」
 もう少しでお互いの鼻が接触しそうな距離で、甲太郎は耐え切れずに顔を横に向ける。
「なあ、なんで俺の事そんなに心配してくれるの?」
 耳元に囁くように言葉を発し、九龍がふうっと息を吹きかけると甲太郎の肩がびくりと震えた。
「し、心配なんてしてねぇよ!そこ、早くどけって…誰かに見られたら面倒だろ…」
 だんだん声が小さくなっていくのは、九龍が甲太郎の耳にちゅっと音を立てて唇を触れさせたからだ。
「ね、コータは俺の事好きなのかな?」
 そう言って、今度は耳朶に軽く歯を立てる。
 その行為に甲太郎は抵抗も忘れて全身を硬くしていた。
 その様子に九龍はクスリと笑うと、さらに耳元に唇を近づけて、熱い息と共に同じ質問を繰り返す。
「なあ、俺の事好きなんだろう?答えないと、ずっとこのままだからな」
 九龍の言葉は絶対だ。
 良い事も悪い事も、葉佩九龍という男は一度言ったことは必ず守る。
「…嫌いじゃない」
 顔、耳、首と見える肌のほとんどを真っ赤に染めたまま、甲太郎は視線だけを上に向けて、それだけを口にした。
「ねえ、コータ。知ってる?」
「…な、なにが?」
 震える声を抑える事ができない。
 どうして自分はこんな事をされているのに、抵抗もしないで好きにさせているんだ?
 だが、自分の気持ちを他所にこの男の言葉に逆らえなくなっていた。
「『嫌いじゃない』ってのは、『好き』と同義じゃないんだぜ?」
 それを告げると九龍は口元に笑みを浮かべ、ようやく甲太郎を解放してくれた。
 慌てて起き上がり、立ち上がって扉に向かって駆け出す甲太郎の後ろ姿を見送り、
屋上の床に落ちたままになっていた小さなアロマ用のパイプを見つけて目を細めた。
「逃げたって教室でも寮でも会うってのに・・・可愛いヤツ」
 クスクスと笑いながらパイプを拾い上げ、それを唇に咥えて深く吸い込む。
 ラベンダーの残り香りが、まるで甲太郎の傍にいる時のように九龍を包み込んでいた。


End