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■ 素直になれない人へ向けて5の台詞
05.「言葉ってさ、一番簡単で一番難しい伝達方法なんだ」 (九龍×皆守) 水天宮拓仄 |
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2014年
皆守甲太郎は現在ロゼッタ協会に所属するトップハンターに名前を連ねるまでになっていた。
そして彼が専属バディをしていた葉佩九龍は、数年前からハンターランキング1位にロックフォードを抜いて君臨してから
一度も他人にその座を譲った事がない実績の持ち主だ。
ハンターランキング1位の葉佩九龍とトップハンターベスト5に名を連ねる皆守甲太郎が
協会公認で交際している事は業界では有名な話だった。
2人の関係を知る人間は口を揃えて“究極の遠距離恋愛中”と評するほど、滅多に顔を合わせる事が無い。
それぞれに世界中の遺跡を飛び回り、VIPクラスの顧客から依頼を引き受けては完了させては次の遺跡へ移動する毎日。
だが、年に3回だけ彼らは特別に休暇を取る事を約束している。
2014年4月12日
この日が1年で3回逢う約束をしている1回目。
ちなみに2回目は7月4日で3回目は12月24日で協会も承諾している。
「よお、思ったより早かったな」
待ち合わせ場所になっているロゼッタ協会本部のハンター待機所。
よれよれの服装に泥や埃にまみれた九龍が息を切らせて待機所の扉を開いた所に、
2時間程前に到着していた甲太郎が煙草のパイプを吹かしながら視線を上げた。
「甲太郎…お待たせ!」
今の時間はロゼッタ基準時刻で4時27分。
遺跡探索真っ最中だった九龍はシャワーも着替えも食事の時間も惜しみ、
日付が変わった瞬間に協会本部に向かって移動したが、どうしても距離的に4時間を要する場所だったのだ。
甲太郎の「思ったより早かったな」は、九龍がどこで仕事をしていたかを把握している証拠。
2人は離れていても常にどこでどんな依頼で仕事をしているかは確認しあっている。
もちろん、逢えない間はHANTを使ってメールのやり取りなども行っていた。
だが、実際に逢って言葉を交わし、触れ合う事ができるのは年に3回。
「あと30分遅かったら寝ちまったところだったぜ?」
すでに本部にあるシャワールームで全身を洗い、支給された服を身に着けていた甲太郎は
煙草パイプの先端を脇に置いてある灰皿でポンと叩いて灰を落としながら椅子から立ち上がって九龍に近づいていく。
扉の前から一歩を踏み出した九龍は近づいてくる彼に駆け寄り、両腕を伸ばすがそれは軽く避けられてしまう。
「甲太郎?」
「まずシャワー浴びてこいよ。酷い格好だぜお前」
甲太郎の言葉に不満そうな表情を見せ、唇を尖らす。
「じゃあお前も一緒に浴びようぜ」
「俺はさっき浴びたからいいんだよ。…協会のシャワー室でなんてごめんだからな俺は」
ジロリと睨みつけて、持っていたタオルを投げて手の平を振って九龍をシャワーへ促した。
「ちぇっ相変わらず真面目なヤツ!俺とお前がシャワー室使ってれば誰も入って来ないのにさ」
「お前はこの年になってもモラルってものが身についていないようだな?
いいから、さっさと行ってこい。時間がもったいないだろ」
「わかったよ。すぐに済むからちょっと待っててくれ」
指でコインを弾いて寄越す。
「1本飲み終わる前に出てこいよ」
「了解」
パタンと扉を閉じて九龍がシャワー室に向かう足音を聞きながら甲太郎は受け取ったコインを背後にあった自動販売機に押し込んだ。
指は一番濃いブラックコーヒーを押し、すぐにガタンと音を立てて缶が排出された。
2014年4月12日 ロゼッタ基準時刻5時未明
2人はロゼッタ協会本部のハンター居住区に借りている部屋で向かい合っていた。
「今年も無事にお前に逢えてよかったよ甲太郎」
「ああ」
仕事先からほぼ徹夜で移動してきた2人にとって、この時間は休息に当てた方が良いがその時間すらも惜しかった。
少しでも長い時間お互いの姿を見つめ、触れ合って抱き合って言葉を交わしたい。
だが、一緒にいる期間よりも離れている時間の方が多すぎてお互いに言葉が見つからない、
自分が相手に何をしてやれるのかがわからなくなるのだ。
こうして向き合って言葉少なに見つめ合っている。
静かな時間だけが過ぎていく。
この沈黙を破ったのは甲太郎の方だった。
「お前、俺に何か言う事無いのか?」
テーブルに放っておいたパイプを手に取り、専用の葉巻を先端に押し込めると九龍がすぐに火を入れてくれる。
「サンキュ」
反対側の先端を唇に押し付けて瞳を閉じながらすうっと吸い込み、
煙草の香りを肺に吸い込みふうっと九龍に向かって吐きかけた。
「もうあの香りは必要ないんだな」
「当たり前だ。あれは高校卒業と同時に…埋めてきたよ…俺の罪と共にな」
2006年3月に甲太郎は九龍が居なくなった天香学園を卒業した。
その時に彼が己の罪と一緒に愛用のパイプを“彼女”が眠る地へ葬ったのである。
「まだ悔やんでいるのか?」
「…悔やんでいないと言ったら嘘になるだろうけどな。忘れはしないが、もう想いは無くなったさ。
それじゃなきゃお前とここで向かい合ってない」
くすっと笑いながらパイプを逆さにし灰をトントンと皿の上に落とす。
「…そっか、そうだよな。変な事言ってごめんな」
そう言うと目を伏せ、すぐに視線を上げると甲太郎をじっと見つめる。
「あとは?無いなら寝るぜ俺は」
昔の思い出話がしたいわけじゃない。
今日は2人にとって特別な日なのに九龍はなぜこんな事を言い出すのか甲太郎にはわからなかった。
「あ…だ…だからな。その」
「なんだよ?」
珍しく顔を赤くして左手でポリポリと頬をかく仕草に頭を傾げる。
長い付き合いだが、こんな様子の九龍は数えるほどしか見た事が無い。
「なんだ…こう、改まってしまうと照れちまうな」
顔を背けて甲太郎の視線から逃れながら大きな体を左右に揺らし、
唇をもごもごと動かしている九龍がなんだか可愛く見えるから不思議だ。
この男ほど“男らしい男”は滅多に居ないくらいだというのに。
「気持ちわりぃな。柄でもないだろ、照れるなんてよ」
「お前…結構、失礼なヤツだな」
「言う事ねぇなら寝ようぜ。貴重な休みだ、ゆっくり休みたいからな」
ニヤニヤと笑いながら立ち上がるとベッドルームに足を踏み出すと、後ろから抱きしめられた。
「ちょ…待った!言う!言うから」
「じゃあ、聞いてやる」
どうやら今日は自分の方が優位に立っているらしい事に気づいた甲太郎は意地悪い視線を背後の九龍に流すが、
それはすぐに後ろから抱き付いている男の掌で防がれてしまった。
「お前が俺を選んでくれて感謝してるよ…誕生日おめでとう甲太郎。愛してる」
抱きしめる力を強めて掌で目を塞ぎながら唇を背後から奪う。
「……っ」
互いに熱い体温を感じながら湿らせた唇を離すと再び唇を交えて中を貪る。
2014年4月12日 ロゼッタ基準時刻23時
2人が再び自分の仕事場へ戻るまで残り1時間。
身支度を整えてハンター待機所で、残り僅かな時間を惜しむように寄り添っている。
ふと思い出したように甲太郎が口を開いた。
「そういえば、今日はお前らしくなかったな」
「何が?」
「朝のことさ」
うっと言葉を詰まらせ困ったような表情になり、観念したように宙を仰ぎ見ながら九龍は白状した。
「今朝、本部に向かってる途中で八千穂ちゃんから久しぶりにメールが来て…天香学園同窓会を阿門邸でやるって。
で、お前の連絡先を知らないから俺に伝えてくれって書いてあって」
もごもごと呟くような小声で話す。
「それがなんでああなるんだよ?」
「や…今までずっと天香の事とか気にしてなかったんだけどさ…。何年も経った今から思うと、
お前があそこでの出来事をどう思っているのか…あそこに戻りたいと思っているんじゃないかと考え出したら不安になった」
甲太郎がロゼッタ協会に入ったのは、九龍の強引な手引きがあったからだ。
最初の頃は騙して専属バディ登録をしたとよく文句を言っていた。
「馬鹿野郎。俺はお前とここに居れる事…嬉しいと思ってるんだぜ?あそこを思い出す事はあっても戻りたいとは思っていない」
安心させるように微笑むと横に座る九龍の頭を引き寄せて、子供をあやす時のように優しく撫でた。
「…それは信じるけどさ。俺、お前からまだ1回も聞いてないんだよね」
「何を……あ…」
九龍が何を言わんとしているか察した甲太郎が今度は困る番になって立場が逆になる。
唇を吊り上げながら立ち上がると座っている甲太郎の正面に陣取って、腰を屈めて両手で頭を固定すると無理矢理視線を絡めた。
「はっきり言葉にしてくれないと、やっぱ俺としては不安になっちゃうわけよ」
「や…別に言わなくてもいいだろ?俺の気持ちはわかってくれてるわけだし」
しどろもどろになりながら、なんとか眼球だけ動かして九龍の視線から逃れようとする。
「俺がいつも言っている事だ。簡単だろ?」
「…こ、こんな話を知ってるか、九龍」
苦し紛れに何を言い出すのかと九龍は笑顔を崩さずに先を促す。
「言葉って言うのはなぁ…一番簡単で一番難しい伝達方法なんだ」
「簡単なら言えるだろ?」
「いや、だから…そうじゃなくてだな」
「ほら、早く言えよ。あと10分後にはお互い出発しなくちゃならない」
さあ!と全身で圧力をかけてくる九龍の両肩を力任せに押し、
なんとか逃れる事ができた甲太郎は扉に飛びつくと顔を赤くしながら唇を動かした。
「え?聞こえなーい!」
耳に掌を添えた九龍を恨めしい表情で見つめながら扉から足を踏み出す。
「また次に逢った時に言ってやるよ!じゃあな!」
バタンと扉を閉めてバタバタと待機所から離れていく足音を聴きながら九龍は両手を天井に向けて伸ばし表情は厳しい。
「次…逢える保証なんて無いのに?」
大きく息を吐いて扉に向かう九龍はすでにトップハンターの顔に戻っていた。
End
※この小説は、リクエスト交換としてエディさんへ捧げたものです。 |
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