■ 無自覚な二人へ10の言葉

   01.「宙に舞う、ピンクの粒子」  (九龍×夷澤) 水天宮拓仄

 天香学園3年C組の教室は、いつも通り賑わっていた。
 その中心にいるのは、これもいつも通りに転校生の葉佩九龍。
 彼の職業は<<宝探し屋>>で、今は天香学園に学生として潜入し、
つかの間の学生生活を楽しんでいる。
 九龍を囲むのは、3年C組の女生徒達と一握りの男子生徒だ。
「ねぇねぇ、九龍クンは付き合ってる子いるの?」
 無邪気な笑顔を浮かべ、この学園で一番最初に親しくなった1人、
八千穂明日香が挙手までつけて椅子に腰掛け、
背もたれに身を預けたままの九龍に問いかけた。
「彼女かぁ〜特定のコは居ないかな?なんなら、
八千穂ちゃん彼女になってみる?俺の彼女になると、
夜の生活大変だぞぉ〜?」
 正面に立っていた八千穂の手を取ると、ぐいっと引き寄せて片目を瞑る。
 周りにいた女生徒達が大騒ぎだ。
「なに言ってんのっ九龍クン!夜のって、大変なのはお仕事じゃないの?」
 朱に頬を染めながら、豪快に笑って八千穂は九龍の肩を叩く。
「・・・ったく、馬鹿が」
 教室で大きな声で、九龍の仕事を発言する八千穂に後ろの席で
突っ伏していた甲太郎がガバリと上半身を起き上がらせて、
なんとか黙らせようと目で合図を送るが、八千穂は気づいてはくれなかった。
「え〜もったいない、八千穂さん!葉佩君、彼女居ないなら私立候補!」
「ずるいわよ!私だって彼女になりたいのに〜」
 クラスの女子達がざわめき、八千穂に軽い妬みを向けながらも
自己主張の激しい子達は、我も我もと九龍を取り囲んで
自分をアピールする。
「俺って、ひょっとしも結構モテモテ?じゃあ、みんなと付き合っちゃおうかなぁ」
 笑いながら彼女達を見つめる九龍の視界に、廊下を歩いている
人物が入りこんできた。
 椅子から立ち上がり、取り囲む女生徒達を
かきわけて廊下へ向かって軽く駆ける。
「ちょっとごめんね〜用事できたから、ちょっと出てくるからさ」
「九龍くん?」
 いっせいに九龍が動いた先に視線が集まった。

「トーヤ!これから生徒会室に行くのか?」
「センパイ」
 扉を片腕で抑えるような形で、廊下に立ち止まった副会長補佐の
夷澤凍也を優しい視線で見つめ、嬉しそうに声をかける。
「そうっすけど?何か用っすか」
 両手いっぱいに資料をかかえながら、少し迷惑そうな表情を浮かべた
凍也だったが、その口元は緩み、頬も上気した様子が傍目にもわかる。
「重そうだなと思ってさ。俺が持ってやるよ、ソレ」
「え、いいっすよ!そんな事されても、何も出ないっすよ?」
 資料を手に取ろうとした九龍の手を避け、普段一般の生徒には
決して見せないような表情を浮かべ、九龍と楽しそうに会話をする凍也。
「何も出ないって事ないだろ、トーヤ?
毎日、アレしてくれるって約束したじゃん。それ、+1回でいいぜ?」
「うっわっ!親切の押し売りって言葉知ってますか?」
「まあまあ、小さい奴には小さいなりの荷物量があるんだよ。ほら」
 問答無用で資料の3分の2ほど取り上げて、
取り替えそうとする凍也の手が届かない位置で右に左に資料を振り、
笑いながら生徒会室に向かって歩き出した。
「ちょっと!勝手に何してんすか!
一般生徒は生徒会室には立ち入り禁止っすよ!センパイっ」

 だんだん2人の声が遠ざかっていく様子を教室に残された八千穂と
さっきまで”九龍の彼女になりたい”と騒いでいた女子達は
顔を見合わせて、ため息をついていた。
「ねぇ・・・今のどう思う?八千穂さん・・・ご意見どうぞ」
 クラスメイトが、九龍と一番親しい八千穂に意見を求める。
「え、え〜と。あの2人は部活動も一緒だし、
きっとすごく仲良しなんだよ!ね、皆守クン?」
 さすがに2人の関係を知っている八千穂は、
九龍の親友として周知されている甲太郎に話を振った。
 会話に参加もしていなかった甲太郎は、突然の振りに迷惑そうな顔を
作って、咥えていたアロマパイプを思わず机の上に落としてしまう。
「なんで俺にその話を振るんだよ、八千穂」
「だって、皆守クンは九龍クンの親友でしょ?」
 八千穂の言葉に周囲がいっせいに頷く。
 ガリガリと後頭部を掻き、甲太郎は椅子から立ち上がった。
 これ以上ここにいると、うるさい女子達に親友の事で
しつこい事情聴取を受けそうな雰囲気を感じたからだ。
「ねぇ、皆守クンはどう思う?」
 立ち去ろうとした甲太郎の制服を後ろから捕まえられて、足を止める。
 ここぞとばかりに、1人の女生徒が甲太郎に問いかけた。
 制服を掴む八千穂は、「後、お願い!」みたいな視線で見上げてくる。
 その視線と、女生徒達から無言の問い詰められた甲太郎は、
顔だけを八千穂に向けて仕方ないといった感じで唇を開いた。
「あいつらの周囲には、ピンク粒子が散布されてんだよ・・・」
「ピンクリュウシ?何、それ?」
 首を傾げる八千穂を他所に、それだけで理解した他の女生徒達が
キャーっと声をあげて、なぜか嬉しそうな表情を見せる者までいる。
「やれやれ・・・っと大事な物忘れる所だったぜ」
 机の上に落としたままだったパイプを手に取ると、ポケットにしまいこみ
きょとんとする八千穂と騒ぐ女生徒達を無視して出入口に向かう。
 凍也と九龍が立ち話をしていた扉から廊下に出た甲太郎は
一瞬足をとめて、宙に目を凝らし見たのだった。


end