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■ 無自覚な二人へ10の言葉
02:おやおや、ずいぶんと可愛らしいことで (神鳳×皆守)水天宮拓仄 |
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「皆守」
机に突っ伏している皆守甲太郎を呼ぶ物静かな男子生徒の声。
ダルそうに視線だけを声が聞こえた方に向けると、
そこには綺麗な長髪と開いているのかどうかもわからない程に細い目。
「神鳳か・・・なんの用だ?」
むくりと上半身を起こし椅子から立ち上がる。
生徒会の会計役が自分を訪ねてきたというだけで教室中の注目が集まる事を嫌い、
甲太郎は神鳳を促して人気のない屋上へと向かう。
「今から屋上ですか?午後からの授業に間に合わなくなりませんか?」
「うっせーな。だったら昼休みにわざわざ来るなよ」
甲太郎は生徒会の副会長を務めながらも阿門以外の役員とは普段あまり接しない。
中でも、神鳳は何を考えているのかわからない所が多すぎて甲太郎は苦手だと思っている。
「おや、つれないですね。隣のクラスからわざわざ訪ねてきたというのに」
笑顔に見えなくもない表情で静かに話す神鳳を観察するが、やはり何を考えているのかわからない。
ガシガシと後ろ頭を掻きながら、小さく舌打ちをした。
「”わざわざ”を付けるほど遠くないだろう・・・で、何の用だ?」
「そうでしたね」
ポンと手を叩いて思い出したかのように口を開く。
「皆守も僕と一緒に弓道をやってみませんか?」
「はぁ?」
突然の誘いに甲太郎はポカンと口をあけて神鳳の顔を見つめた。
その表情を面白そうに眺める神鳳は更に続ける。
「龍さんが学園を立ち去ってからの君は情緒不安定のようですし、
弓道は精神を落ち着かせる為にちょうど良いのですよ」
にっこりと微笑み、呆然としている甲太郎の肩をポンと叩いた。
「明日の朝は部員達も練習に来ませんから、待ってますよ」
「ちょ・・・おい!俺はやるなんて言ってないだろ!勝手に決めるな」
屋上から校舎へ繋がる扉を開けた神鳳の背中に抗議する。
「朝7時に道場で待ってますから必ず来てくださいね?では、これで」
校舎に午後の授業が始まる5分前を知らせる予鈴が鳴り響く中、
屋上に1人残った甲太郎は口をあんぐりと開けたまま立ち尽くしていた。
翌日・朝7時半を過ぎた頃。
弓道場で神鳳は甲太郎を待っていた。
胴着に着替え、弓の手入れをしながら静かに時間を過ごす。
おそらく甲太郎は来ないであろう事も容易に予想ができた。
「ふむ・・・やはり来ませんか」
遠くに見える的を見つめ、弓を引く。
神鳳が弓から指を離すとしゅっと小気味良い音を立てて矢が放たれる。
矢は的から僅かに外れ、的の後ろに立てかけてある畳に突き刺さった。
「僕もまだまだ未熟ですね」
苦笑を浮かべながら更衣室へ足を向け、入り口の前で足を止めた。
ー誰か中に居るー
直感に優れた神鳳は扉を開ける前に気配に気づき、自らの気配を消す。
慎重に中の気配を探ると、見知った人間のそれだと知れる。
カラリと引き戸を開けて中に足を踏み入れるとラベンダーの香りが鼻についた。
「よお・・・」
「皆守、来ていたのなら道場へなぜ来ないのですか?」
手に持っていた弓を壁に立てかけ、更衣室に敷いた畳の上で胡坐を掻いていた甲太郎の目の前に正座した。
「寝坊しちまったからな・・・・悪りぃ」
「一応、来る気があったという事ですね?」
その言葉に甲太郎が目を泳がせた事を見逃す神鳳ではない。
「来る気も無かったのに、なぜ君はここに?」
「目が覚めちまった・・・だから、一方的な約束とは言え・・・行かないままってのも後味悪いんだよ。それに・・・」
「それに?」
いい難そうに口ごもる甲太郎を促す。
「それに、俺はアイツが居なくても平気だ。変に気を遣わないでくれ・・・」
そう言う甲太郎は目を伏せ、放つ気も暗く淀んでいる事を神鳳は感じ取っていた。
九龍が立ち去って一番辛い思いをしたのは間違いなく目の前にいる甲太郎だった。
転入してきてから三ヶ月という短期間で、奇妙なバランスで保たれた友情とも愛情とも言えない関係。
最後の最後に裏切り、敗北し、すべてを許された後の別れ。
「・・・屋上で言った事、本気にしているのですか?」
「なんだと?」
ピクリと甲太郎の眉が釣りあがる。
クスクスと小さく笑いながら腰を浮かし、正面に両手をつくと甲太郎に近づいて唇を開いた。
「あれは君を此処へ来させる為の方便ですよ」
「・・・なんのつもりだ」
「なんの?それは決まっていますよ・・・僕が君を好きだからです」
ニッコリを笑って驚愕で身動きが取れなくなった甲太郎の額に唇を寄せ、すくりと立ち上がる。
袴の紐を緩め、胴着の前を肌蹴た神鳳を前に甲太郎が我に返った。
「な・・・な・・・何脱いでんだ!まさか・・・お前!」
青ざめながら畳の上から冷たい床に転げ落ちた甲太郎を上から見下ろし、笑い声をあげた。
「ふふ・・・そうですよ・・・と、言ったらどうします?」
「じょ・・・冗談だろ?朱堂じゃあるまいし!」
腰が抜けてしまったのか、一向に立ち上がれない様子を笑いながら見つめる神鳳。
「おやおや、ずいぶんと可愛らしいことで」
胴着を脱いで畳の上に放り、ゆっくりと甲太郎に近づいてくる。
ゆっくりと近づいてくる神鳳から床の上を這い蹲るように逃げる甲太郎。
背中に更衣室に備え付けてあるベンチが当たり、動きを封じられた。
甲太郎に向かって神鳳の手が伸びる。
「やめろ神鳳!」
一瞬目を瞑り、両手を交差させて自分の身を必死に守る甲太郎を見つめて神鳳は満足そうに微笑んだ。
「何をです?」
甲太郎の耳元で囁くとベンチの上に置いてあったシャツを手に取り、袖に腕を通す。
目を開いた甲太郎が真っ赤な顔をして、ベンチに手を着きながらやっと立ち上がると入り口に向かった。
「からかうのもいい加減にしろ!」
扉を開けて更衣室から出て行こうとする甲太郎に静かに声をかけた。
「からかった事は確かですが、僕の言った事は本当ですよ」
さっきまでの雰囲気は消え、真剣な目つきを見せる神鳳から甲太郎は視線をそらした。
「信じられるか、そんな事」
「失礼ですね、君は。それが気持ちを打ち明けた者に対する仕打ちですか?」
シャツのボタンを一つ一つはめながら、視線をそらしたままの甲太郎を見つめる。
「お前の気持ちには応えられない」
「龍さんの事ですか?」
「違う!」
声を荒げ、自分の方に顔を向けた甲太郎にドキリとする。
泣きそうな表情は初めて見た。
「なんて表情をするんですか・・・あなたは」
ゆっくりと近づいてくる神鳳を見つめながら甲太郎は逃げようという気持ちにならない自分に戸惑っていた。
さっきまでは、一刻も早くこの部屋から出ていきたいと願ったのに。
目の前の神鳳の表情を見て足が動かなくなってしまった。
「お前こそ・・・なんて顔してんだ」
いつも何を考えているのかわからないと思っていたのに、こんなにも感情が表に出ている。
両腕が甲太郎の背中に回され、意外にも強い力で引き寄せられた。
肩から長く綺麗な黒髪が腕にかけて流れる。
「神鳳・・・お前は、ひょっとして九龍の事を?」
自身を抱きしめる神鳳の背中に腕を回り、優しく撫でた。
撫でる背中がわずかに震えているように感じ、甲太郎は戸惑っていた。
ー泣いているのか?−
無言で抱き合う2人の耳に校舎から始業を告げるチャイムが響く。
「おい・・・始業時間だぞ。行かなくていいのか?」
甲太郎は優しく神鳳に囁く。
掌に感じる震えが少しずつ大きく、そして不規則になってくると、肩に預けられた頭部から微かに声が漏れ聞こえる。
それは・・・笑い声。
「ふっ・・・ふ・・・あは・・・ははっ!君は本当に・・・・可愛い人ですね皆守」
まだ抱きしめられたままの甲太郎が今度は震え出した。
ただし、怒りによってだ。
「か・・・神鳳てめぇ・・・一体どうゆうつもりで」
笑いながら抱きしめられる不愉快さを思い切り表情に出すが、力づくで振りほどこうとしないのは、
顔をあげた神鳳の目元に僅かに光るモノを見つけたから。
「だから言ったでしょう?僕は君が・・・」
「あー!もう言うな!離せよ、もう」
顔を真っ赤にして怒鳴る甲太郎を案外素直に解放すると神鳳はくるりと背中を向けた。
さっきまでの馬鹿笑いが嘘のように静まりかえる更衣室内。
「すみませんでした。僕が言った事は忘れてください」
袴に手をかけたので甲太郎は反射的に視線を床に落とした。
しゅるりと布ズレの音が耳に聞こえる。
「忘れられるか、こんな事言われて」
制服のズボンを履き終えた気配を感じて、甲太郎は視線を上げる。
そこには、いつもの表情を湛えた神鳳が身だしなみを整え、鞄を手に持っていた。
「それは、少しでも脈があるって事と思って良いのでしょうか?」
にっこりと笑顔を向けられて顔に血が昇る。
「知るか!」
扉を勢い良く開けた甲太郎は逃げるように校舎へ足を向けた。
少し離れた場所で立ち止まり、更衣室の鍵を閉めて振り返った神鳳に気がつくと再び校舎に足を向ける。
「ふふっ本当に・・・君って人は」
唇に軽く握った拳を当て笑みを深めると、すでに1時間目の授業が始まっている校舎に足を踏み出した。
end |
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