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■ 無自覚な二人へ10の言葉
04:とっととくっついてしまえ。 (九龍 × 夷澤 + 鴉室)水天宮拓仄 |
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「夷澤くんだっけ?俺は鴉室洋介ってんだ、よろしくな!」
墓へ潜る前に名前を名乗り、右手を差し出す胡散くさいサングラスの男をジロリと見上げ、
凍也は斜め後ろに控えている葉佩九龍を振り返った。
「センパイ・・・このオッサン誰っすか?」
「だから今紹介してんだろ。彼は鴉室洋介さんで・・・えっと・・・探偵さんだ」
「探偵?なんで探偵がこの学園内にいるんすか。関係者以外立ち入り禁止っすよ此処は」
「おいおい、オッサンはないだろう?俺はまだ二十代だ・・・それに探偵という紹介も不足だぜ、九龍くん」
握手に差し出した手を引っ込めて、そのまま人差し指を立てて左右に振って片目を瞑ってみせた。
「探偵とは世を忍ぶ仮の姿。俺の正体はなんと・・・宇宙刑事なのだ!」
胸を反り返らせて宇宙刑事を名乗る鴉室を見つめ、大きく息を吐いた。
「アホなオッサンは放って、さっさと潜りましょうセンパイ」
「まあまあ!そう言うなよ夷澤くん!俺は役に立つ男だぜぇ」
肩に腕を回してきた鴉室を思い切り睨みつけて、自分の肩を掴む手を勢い良く振り払った。
「気安く触るんじゃねーよオッサン!センパイが連れて行くって言うんなら仕方ないけど足手まといになるんじゃねーぞ!」
鼻息荒く、先頭をきって墓の地下へ向かっていく凍也に、九龍と鴉室は顔を見合わせ肩をすくめるのであった。
今回の目的は、主にクエストの消化とバディ同士の親交であった。
戦闘はほぼ九龍が一人で行い、バディ達には後方支援を頼んでいる。
今いるエリアは浅い階層の化人創生の間である。
得意のハンドガンを2丁構えた九龍は次々と虫型の化人を撃破し、今は大物と戦っている。
闘っている九龍の背中は楽しそうに見えたが、凍也は苦虫をかみ締めたような表情を浮かべた。
隣りに視線を巡らすと、もう一人のバディである鴉室洋介が暢気に戦う九龍へ声援を送っている。
「よっしゃ、そこでガスHGでも投げろ九龍くん!」
「・・・・ったく」
壁側に歩を進めると背中を壁に預けて、そろそろ終わりそうな戦闘を見つめた。
それに気づいた鴉室も声援を送るのをやめ、凍也がいる壁側に近づき正面に立つ。
「おい、そこに立つなよ。目障りだオッサン」
「夷澤くんさぁ、九龍くん以外は君の視界に入っちゃダメなのかい?」
「なっ」
ニヤニヤと笑みを浮かべて凍也の正面から一歩横に移動し、
体を横に向けて化人にトドメを刺す九龍と壁側の凍也を交互に見つめた。
凍也の視線は会話をする自分ではなくて、九龍の動きをしっかりと追っていた。
「そんなに九龍くんを想ったって彼はもうすぐ此処から居なくなるよ」
「なんでそんな事があんたにわかるんだよ」
「わかるさ。同業者だからな、俺は」
化人にトドメを刺し、ハンドガンに弾を詰めながらこちらへゆっくりと歩いてくる九龍を見つめながら、
鴉室はふふっと笑みを浮かべた。
「しがない”探偵”と<<宝探し屋>>が同業者だと思えないけど?それとも
”宇宙刑事”がとか言わないだろうな?」
近づいてくる九龍から視線を反らし、目の前にいる男を壁から背を離して睨みつける。
「ははっそれは冗談さ。でも、同業者だってのは本当だ。九龍くんも気づいてるとは思うがね」
顎をしゃくってどんどん近づいてくる九龍に視線を送ると、二人の視線に気づいて手を振る。
それに軽く手を振る鴉室。
「だったら何だってんだよ?センパイが此処から居なくなる事には関係ない」
「まだ君にはわかんないかなぁ?我々は仕事が終えれば立ち去る人種なのさ」
「センパイは違う。あの人は卒業までこの学園に留まるんだ」
「ま、それは九龍くん次第だと思うけど。彼も売れっ子ハンターだからねぇ。彼の組織がそれを許すかどうか」
「何が言いたいんだ、あんたは」
そこまで言った時、凍也と鴉室の前に化人達の返り血を浴びた九龍が帰ってきた。
「おまたせ。何話してたんだ?二人でさ、俺も混ぜてよ」
懐からタオルを取り出して血を拭い、二人に視線を向けて首を傾げた。
「いや、夷澤くんがどれだけ君を尊敬しているかって話さ」
「そんな事言ってないっすよ!」
自分への態度と九龍への態度がガラリと変わる凍也を面白そうに見つめて鴉室はさらに言葉を続ける。
「九龍くんも罪な人間だよ。仲間達を平等に想っているのは良い事だと思うけど、彼らは心穏やかじゃないさ。なあ?夷澤くん」
「それって俺が夷澤に愛されているって事かな?」
しまりのない笑いを浮かべて凍也の方へ視線を向けると、間髪入れずに拳が飛んできたが、
それをなんなく交わして左手でそれを受け止めた。
「何バカな事言ってんすか!今の話で、どうしてオレがセンパイのことを・・・あ・・・・てるって事になるんすか?」
拳を握り締められたまま、真っ赤に顔を染めて九龍を睨みつける。
「素直じゃないねぇ夷澤くん。さっきの話を望むなら誰かがやるしかないだろう?」
「やるってなにを?」
興味深々な表情で鴉室の方を向きつつも、凍也の拳は離さない。
「やるってもちろん・・・決まってるじゃないか九龍くん?」
ニヤニヤと笑いながら真っ赤な顔をする凍也を見つめ、片目をつむった。
「ああ、そういう事ですか」
「な・・・なんっ何すんすか!」
握っていた拳をぐいっと自分に引き寄せて長い腕と大きな胸で凍也を抱きしめる。
抱きしめられた事に慌てた凍也は胸の中でバタバタと暴れるが、体格の差と力の差によって自力での脱出は不可能だった。
「何の話かよくわかんないけど、俺はトーヤとだったらやってもいいな」
「ははっ君は守備範囲が広いね。俺は対象外かな?君になら抱かれてもいいと思ってたのに」
その言葉に反応したのは九龍よりも凍也の方が早かった。
「そんなのダメに決まっ・・・・」
九龍の胸から顔を上げて大声を発した凍也が自分に注がれる視線に気づき、失言したと気づいた時はすでに遅く。
「そっかそっか、そんなに夷澤くんは九龍くんの事を好きなんだな!じゃあ、俺は身を引くしかないなぁ」
笑いながら抱きしめられている凍也と抱きしめている九龍の背中をバンバンと叩く鴉室。
「さすがに俺でも鴉室さんは守備範囲外っすよ。トーヤなら大歓迎だけど?」
「だってさ、夷澤くん。安心だろ?今なら早い者勝ちだ。とっととくっついてしまえばいいのさ」
「いいね、それ!」
鴉室の提案に軽い調子で乗っかる九龍は凍也の顎を掴み”ん〜”っと唇を尖らせて顔を近づけてくる。
「〜〜〜っいい加減にしろ!」
言いたい放題の凍也が九龍の腕に抱きしめられながら怒鳴るが、一枚も二枚も上手の二人に彼の怒りが伝わる事はなかった。
こうやって鴉室が言った事「九龍は仕事を終えれば此処を立ち去る」を凍也が意識し始めた事は後にわかる事になる。
葉佩九龍をこの学園に留めておく為、自分は何をすべきなのか?
この夜をきっかけに凍也が真剣に考える事になるのは、もう少し先の話。
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