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■ 無自覚な二人へ10の言葉
05:結局、幸せならいいんだけどね (九龍×夷澤)水天宮拓仄 |
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2−Aの教室にひょこりと顔を出す上級生の姿に、教室内には黄色い声が上がる。
『きゃーー!!葉佩先輩よ!なに、どうしたの?』
『葉佩先輩〜』
転入してきてから2ヵ月しか経っていないのに、
その並ならぬ存在感で学園内で3−C転入生:葉佩九龍を知らない者はいない。
生徒会役員にも一目置かれる存在で、愛想も良くて女性に対しては、常にフェミニスト。
さらに成績優秀、運動神経抜群の外見も二枚目に分類される・・・傍から見たら、
何もかもに恵まれた”完璧な人間”として、全校の女生徒から憧れの視線を向けられ、
大半の男子生徒からは妬みを買っている男。
それでも、ボクシング部最強の名を背負っている九龍に勝負を挑む
愚か者は学園内には、ただ1人しかいない。
「トーヤ!部活行こうぜ」
騒ぐ女生徒達に、軽く笑顔を向けるとさらに教室内が騒然とする。
そんな中、不機嫌そうな顔をした凍也がカバンを持ち、ツカツカと歩み寄ってきた。
「センパイ・・・教室に来るのやめてもらえませんかね?毎回毎回、この騒ぎ・・・」
ため息をつきながら、目の前に立ってぐっと見上げる。
まだ女生徒達に愛想を振りまく九龍をじっと見つめた。
ーまあ・・・女子が騒ぐのもわかる気がする・・・けどー
悔しそうな表情をおくびにも出さずに(意地でも出すか)、凍也は先立って廊下に出る。
「さっさと行きましょう。いつまでもヘラヘラしてないでくださいよ。みっともねぇ」
スタスタと歩き出した凍也に気づき、九龍も続く。
「じゃあ、またねvお嬢さん達」
最後にとどめのウインクを残すと、一際大きな悲鳴が教室から響き渡り、凍也は眉間に皺を寄せた。
執行委員や生徒会役員と張り合っている”転校生”が、
”コレ”なのかと思うとガックリ肩も落ちるというものだ。
何に腹が立っているのか具体的にわからないが、とにかく”葉佩九龍”に腹が立っている事は確かだった。
「トーヤ、元気ないな?どうした?」
前を歩く凍也に、九龍は後ろから歩きながら声をかける。
「別にいつも通りっすけど。センパイの気のせいじゃないっすか?」
「そっかぁ?眉間に皺寄ってるし、なんか言葉もトゲトゲ・・・っと、これはいつもの事だったか」
笑いながら凍也の横に並ぶと、歩調を合わせて笑顔を向けた。
「いっつも愛想振りまいて大変っすね」
イライラする感情を抑え切れなくなり、イヤミのひとつも言いたくなる。
笑顔を作って、隣を歩く九龍を振り向くと、そこには相変わらずの笑顔。
ぐっとその笑顔に息を呑む。
「”愛想”だなんて失礼だな。俺は愛すべき女性達に、挨拶してただけだよ」
「それが”愛想”だって言うんすよ。ったく、誰にでもヘラヘラして・・見てる方がイラつきますよ」
自分の動揺を悟られないように、とっさに下がってもいない眼鏡をひとさし指で押し上げると、
慌てて正面に顔を向けた。
横でクスっと笑われた気がして凍也の頭に血が昇る。
「お前も女の子達には人気あんだぜ。知ってるか?
お前のファンクラブとかあってさ〜会報とか定期的に発行されてんだよ」
そんな噂は聞いた事があったが、別に実害があるわけでもないし、
そんな細かい事にまで関与するほど生徒会も凍也も暇ではなかった。
内容も見たことがない。
「そんなの興味ないっすから」
「そっか?結構、面白いんだぜ。”今月の凍也王子”コーナーとかさ、写真つきで」
まるで見たことがあるような発言をする九龍に嫌な予感がして、凍也は目くじらを立てて立ち止まった。
「ん、どうした?」
立ち止まった凍也を振り返って、数歩先で同じく立ち止まる九龍。
「どうして、そんな詳しいんすか?まるで見たことがあるみたいじゃないっすか」
「ああ、だって、俺もファンクラブ会員だもん。しかも、名誉会員だぜv」
嬉しそうに笑うと、カバンの中からファンクラブ会員証を取り出して、
まるで水戸黄門の印籠ごとく見せ付けられた。
会員証を目の前にして凍也は、さらに苛立つ。
「・・・ば、馬鹿じゃないっすか!そんなもん・・・入って何になるんすか?」
「何って、お前の事好きなんだし。俺も連載記事書いてんだぜv
”ボクシング部の凍也王子”ってコーナー貰ったんだ」
ふふっと自慢気に胸を反らす九龍に向かって、なんのまえぶれもなく拳を繰り出したが、
やっぱりそれは軽くかわされてしまった。
更に凍也は拳を繰り出すが、それが対象に触れる事は無い。
「ちっ!いい加減、当たれってんだ!くそっ!」
力一杯突き出した拳をパシっと軽く片手で受け止められ、握られると、
そのままぐっと引かれてバランスを崩す。
「うわっ!」
「おっと」
重心を思い切り前にかけた上に、勢いも殺しきれず、前のめりに崩れた体勢を九龍が受け止めた。
顔が胸に当たる。
ーうわ・・・ヤバイだろ・・・コレ!ー
我に返って凍也は、思い切り両腕で九龍の胸を突き飛ばした。
顔が熱い。
息が切れるのはさきほどの動きだけのせいだけじゃない。
「な、何すんすか!」
「何って・・・お前が落ち着くかな〜って思って?」
ニコっと笑いながら、突き飛ばされたままの体勢で凍也を見つめる。
その表情を見ていられなくて、凍也は視線を思わず床にそらしてしまった。
ーな・なん・なんだ・・・コレー
「よ、余計なお世話なんすけど!」
「だって、こんなところでお前を殴るなんてできないしさ〜グローブもつけてないし」
そう、九龍のパンチの重さは嫌というほど身にしみている。
クッションが多めに入っているグローブでも、かなりのダメージを受ける拳を、
素手で受けたらどうなるかなんて容易に想像できた。
そして、生徒会役員として、人目のある校内で一般生徒に暴力を振るうような事は自粛しなければならない。
今は、一瞬にして血が頭に昇って殴りかかってしまったが、
九龍相手なら自分の拳がまともに当たらないという事がわかっていたからこそ、できた事なのかもしれない。
実際、その通りになったので、それはそれで面白くない凍也である。
ぶすっとした表情を九龍に向け、無言で下に投げ捨てたカバンを拾って武道館に足を向けた。
「あ、おい、トーヤ!」
「・・・・」
呼びかけてくる九龍の言葉をあえて無視することにした。
会話をすると、なぜかさっきのように所かまわず殴りかかりたくなる。
そして、ほとんどの場合、力の差を見せ付けられて惨めになるだけだ。
「無視すんなって!」
「別に無視なんてしてないっす。部活、始まる時間なんで急いでるだけですから」
チラリとも九龍に視線を向けず、まっすぐ正面を見て歩き続ける。
その凍也から数歩遅れて歩いてくる九龍が、恐ろしい事を呟いた。
「あ、さっきの事なんだけどさ。ファンクラブの写真担当の子達が撮っていったけど、別にいいよな?
俺とお前のメモリーって事でv」
「な・・・・なんだって!」
武道館を目の前にして、再び凍也が振り返って怒りで顔を真っ赤に染める。
「別にいいだろ?興味ないって言ってたのお前じゃん」
嬉しそうに笑う九龍をギッとにらみつけて、今きた道を戻ろうとするが、
それは腕を掴まれて止められてしまう。
「辞めておけよ。ファンクラブの子達だって、お前と俺の仲が、”仲の良い先輩と後輩”だってわかってるしさ。
この年頃の女の子って、何かと仲が良い男子の事で騒ぎたいんだよ」
「迷惑なんすけど・・・それにセンパイと”仲良し”なんて思ってないっすから」
「まあまあ、お嬢さん達が幸せならいいんじゃない?結局は想像の産物なんだしね」
「センパイは平気なんすか?ホモ疑惑なんて騒がれたら、女好きの名が廃りますよ」
その言葉に九龍は困ったような、楽しいような表情を浮かべた。
「いや、俺は別に平気・・・っていうか、むしろ嬉しいくらい?
だってお前の事、結構好きだしさ。俺、女も男も愛せるよ?」
「・・・ちょ、ちょっと・・・マジっすか」
今までも、過剰なスキンシップに”ホモなのかもしれない”と思った事はあったが、
普段の九龍を見ていると女子に愛想を振り撒き、女子からの人気も絶大。
男子からの妬みも人一倍買っている九龍が・・・まさかホモとは思えない。
しかも、自分が好きだと言っている。
ーつうか、どっちも良いって!バイセクシャルって奴かよ!ー
「そ、そういう冗談嫌いなんすけど、俺」
わずかに震える声をなんとか搾り出し、後ずさりながら距離を取ろうとしたが、
すぐ後ろは武道館への扉が立ちはだかっていた。
だんだん近づいてくる九龍から、逃げたいのにこれ以上逃げられない状況に凍也は焦る。
横に逃げれば良い。とかは、パニクッた頭では思い浮かばず、伸ばされてきた腕にビクリと思わず目を瞑った。
だが、その腕は自分の横を素通りして、武道館の扉を押した。
「あっ!」
扉に思い切り体重をかけていた凍也は開いた扉と共に、武道館へ背中からバランスを崩しながら入って目を開ける。
目の前には、悪戯っぽく笑う九龍。
「いくら俺でも、同意を得ないまま何かするとでも?見損なうなよトーヤv」
通りすぎ様にウインクして、目をぱちくりさせる凍也の耳元に唇を寄せて囁きかけた。
囁かれた低い声と、耳にかかる息にゾクリとする感覚を覚える。
「・・・っ!!」
真っ赤な顔で、思わず持っていたカバンを胸に抱きしめたまま、更衣室に向かう九龍の背中を見つめた。
「なんなんだ・・・あの人は」
ブツブツと呟きながら、後から歩いてくる凍也にチラリを視線を向け、九龍は幸せそうに微笑んでいた。
ーま、近い将来。俺が好きだって自覚するよな・・・凍也?ー
end |
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