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■ 無自覚な二人へ10の言葉
07:あぁもう見ていられない。 (皆守×阿門)水天宮拓仄 |
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2月も終わりに近づきある日。
クリスマスの夜以降に、全校生徒に”副会長=皆守甲太郎”と知れ渡った頃から、
皆守は頻繁に生徒会室へ訪れるようになった。
「よぉ」
「・・・また、来たんすか。特に用事も無いんでしょう?」
次期生徒会長の座を見事に射止めた現副会長補佐である夷澤凍也が、扉から入ってきた人物にチロリと視線をむけた。
「別にいいだろ?俺だって生徒会役員なんだし、教室にいると落ち着かないんだよ」
相変わらずアロマパイプをくわえ、ダルそうな表情にダルそうな口調でソファの所まで足を進めると、
迷わず現生徒会長である阿門の隣に腰を下ろす。
生徒会室にある応接セットには2人掛けのソファが2つに1人掛けソファが2つあり、
双樹や神鳳は阿門の両脇にある1人掛けソファを愛用していた。
阿門の正面にある2人掛けソファは誰も使用していないのに、皆守はあえて阿門の隣を選ぶのだ。
「もう生徒会長の引継ぎは終わったのか?」
隣に座っている阿門へ自然に話しかけ、くつろいだ表情を見せる。
「ああ、特に引き継ぐような事も無い」
「そうか・・・それも、そうか・・・4月からは新しい生徒会に生まれ変わるんだからな」
穏やかな表情になり、阿門の横顔を見つめながら、ふっと笑みを浮かべる皆守。
その様子を見ていた双樹と神鳳が”やれやれ”という表情を見せ、ほぼ同時にソファから立ち上がった。
「阿門さま、お茶でもお淹れしましょうか?ついでに皆守にも淹れてあげるわ。双樹さん特製のハーブティーよ」
「ああ、頼む双樹」
顔を上げ、皆守が座っている方向に視線を向ける。
阿門の視線が横顔を見つめていた皆守の視線に絡む。
「・・・っ」
ぱっと頬が朱に染まり、少し慌てた様子で視線を外す皆守に神鳳はクスリと小さく笑った。
生徒会長席に座って書類整理をしていた夷澤の方へ足をむけた。
「夷澤、ちょっと」
「はい?」
生徒会長席の前に立ち、夷澤を手招きして耳打ちをする。
その内容を聞いた夷澤がぎょっとした表情を見せ、ソファに並んで座る生徒会長と副生徒会長の後ろ姿を見た。
「あの2人ってそういう関係なんすか?」
「気づいていないのはお前くらいですよ・・・他人の事を観察し、的確に把握するのも生徒会長の役目だと思いませんか?」
「いや・・・こんな事実は把握したくないっすよ」
コソコソと話す2人を横目に、生徒会室の奥から双樹がティーカップをトレイに乗せて現れた。
「さ、どうぞ阿門さま」
「ああ、ありがとう」
「いいえ、茶うけが用意できずに申し訳ありません。・・・ほら、皆守もよかったら飲んでいって・・・ね?」
にっこりと笑顔を皆守に向け、目の前にあるテーブルに静かにカップを置く。
トレイをテーブルの上に置き、扉に向かう双樹に皆守が頭をかしげた。
「おい、俺達の分だけか?お前らも・・・」
「いいのよ、私達の分は。そのお茶はあんたと阿門さまのために淹れたのよ」
片目を瞑って、扉を開けると廊下に出る双樹。
不思議そうな表情でそれを見つめていた皆守は、横で優雅な仕草でカップを手に持ち、
沸き立つ香りを楽しみながらハーブティーを飲む阿門から視線を外せない。
その様子を見ていた夷澤が青い顔をして神鳳を見つめた。
「うわ・・・マジですか、あの人ら」
「何を驚いているんですか、夷澤。我々も出ますよ」
「え・・・なんでですか?俺は今日中にこの書類を片付けたいんすけど」
阿門と皆守の雰囲気から、大声を出すような事が憚られて抗議すら小声になってしまう。
「そんなのは、明日でも明後日でも良いでしょう?さ、行きますよ」
夷澤が手に持っていた書類を取り上げ、机の上に軽く放ると先立って扉に向かい、くるりと振り返った。
「それでは、阿門様。我々はこれで失礼致しますね。皆守、最後の戸締りだけはしっかりとお願いしますよ」
「俺、鍵なんて持ってねーぞ」
「夷澤が持ってますよ」
慌てた様子で帰り支度をしていた夷澤に視線を向け、目で”早く鍵を渡しなさい”と念じると、
その通りに夷澤が鍵を皆守に渡した。
「じゃ、お願いします・・・後で鍵取りに行くんで、失くさないでくださいよ」
「あ・・・おい!急になんだよ、お前ら」
自分と阿門を残して、次々と生徒会役員達が部屋から出て行ってしまう事に慌てた皆守はソファから腰を浮かせた。
「用事がありますから、お先に失礼しますよ・・・阿門様とごゆっくり・・・」
にっこりと意味深な笑みを浮かべ、扉から出た神鳳に続いて夷澤もバタバタと部屋を後にする。
部屋に取り残された皆守はソファから立ち上がりかけていたが、再びソファに身を沈めた。
「お前と何を”ごゆっくり”やるってんだ?なあ、阿門?」
「せっかく、双樹が淹れた茶が冷めてしまう・・・早く飲むのだな」
「あ、ああ。わりぃ」
少しお茶を口に含み、香りを口内に広げコクリと飲む。
「うまいな」
「ああ」
2人以外は誰もいない生徒会長には、静かな時間が流れていた。
夷澤と神鳳が生徒会室から出ると、先に部屋を出た双樹が2人を待っていた。
「どう?阿門さまと皆守の様子は」
心配な表情を見せながら神鳳に近づく。
「相変わらずですね、あの2人は・・・いっこうに進展しませんねぇ」
ため息をつきながら、さきほど出てきた扉を振り返る。
「え・・・双樹さんも阿門さんと皆守先輩の事・・・いいんすか?阿門さんの事好きなんでしょう?」
先輩役員の2人の会話を聞いて、夷澤は驚いた声をあげた。
「だって、仕方ないでしょう?阿門さまが皆守と一緒に過ごしている時に見せる表情・・・
あの2人が両想いいだって事は、見てればわかるわよ。気づいていないのは本人達とあんたくらいのもんよ」
左腕を細いウエストに絡ませ、右手を頬に当てながら体をくねらせて悲しい表情を見せると双樹も生徒会室の扉を見つめた。
「・・・あの2人が男同士ってのは、つっこまなくていいんすね?俺的には、それが一番気になるんすけど」
ずり下がった眼鏡を押し上げて、夷澤も2人に釣られて扉を振り返る。
「細かい事、気にしてたら生徒会長なんて務まらないわよ」
「そうですよ、夷澤。次期生徒会長なら、広い心を持ちなさい」
「いや・・・それは、そういう問題じゃ・・・」
言いかけて先輩役員の表情を見て口をつぐむ。
「ま・・・この学園なら、そんな常識は無いも同然か」
呟いて1人生徒会室に背を向ける。
唇に笑みを浮かべ、背筋を伸ばし廊下を歩いて行く後輩の後ろ姿を見送る神鳳が双樹に声をかけた。
「双樹さん、我々もそろそろ行きましょうか?」
「そ・・・うね。阿門さまも皆守も・・・あの調子じゃ、まだ自分の気持ちに気づいていなそうだし・・・
せっかく心を豊かにするハーブを選んだけど、今日も何も無いんでしょうね」
複雑な感情を抱えながら双樹は扉に背を向ける。
「本当・・・あのお2人の様子は見ていられないですね・・・まどろっこしい・・・とでも、言えば良いのでしょうか?」
「知らないわよ!」
神鳳の問いかけを少し大きめな声ではねつけると、コツコツと音を立てて双樹が歩き出した。
もう一度扉の方を見つめ、先に歩き出した双樹の後を静かについていく。
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