■ 無自覚な二人へ10の言葉

  08:頼むからあっちいってやってくれ! (九龍×夷澤) 水天宮拓仄

 今、俺は自分の存在理由を疑いたくなっている。
 目の前には、親友の葉佩九龍と副会長・・・つまり俺の補佐役の
夷澤凍也が肩を並べ、弾むような足取りで歩いていた。
 ここは遺跡の中、今夜は俺・皆守甲太郎と夷澤凍也がバディに呼ばれ、
浅い階層で九龍のクエスト消費に協力を頼まれている。
 実際、協力する事と言ったら化け物共からの攻撃を避けてやったり、
軽い荷物持ちやら、会話相手といったところだ。
 戦闘について自信があるだけあって、九龍が相当の腕前なのはわかる。
 銃器の扱いも上手く、格闘術も剣術も一通り体得しているらしく、
何を持たせても強い男だ。
 素手での戦闘で、夷澤を負かす人間はそう居ない。圧倒的だった。
 俺はそんな親友の事を嫌いじゃない。
 むしろ副会長という立場でなければ、本当の親友にも成れたかもしれない。
 だが、今目の前で繰り広げられている自分の補佐役と親友のやり取りに
俺は半ばうんざりしていた。数メートル離れた後ろから足を引きずり、
できるだけ前の二人が視界に入らないように一歩ずつ足を踏み出す。
「あーだりぃ」
 つい、口を出てしまった言葉が聞こえたのか前を歩く九龍が振り返り、
足を止めると当然のように隣を歩いていた夷澤も立ち止まり、振り返った。
「おーい、コータ!あんまり俺達から離れるなよっ
 浅い階層とはいえ危険だぞ!」
「そうっすよ、皆守センパイ。あんたがやられるのは勝手だけど、
 センパイに迷惑かけないでくださいよ」
 夷澤・・・お前、本当に生徒会副会長補佐なのか?と問い詰めたくなる。
 その衝動を抑えながら、俺は立ち止まったままの二人の下へ向かった。
 ただでさえ眠いのに、自分が居る意味もない遺跡をひっぱり回され、
さらに、2人の最強バカップルを見せられるのかと思うとグッタリだ。
 さっきから見てりゃ、九龍が何かの罠を解除した時に指を切ったとかで、
夷澤が大騒ぎするし・・大げさなんだよ、歩いてりゃ勝手に怪我も病気も
治るような男に、数ミリ単位のキズの心配してどうすんだって思う。
 九龍も九龍で、自分と俺が飛び越えられる空間を凍也が1人
飛び越せない場所なんて、お姫様だっこで夷澤抱えて飛びやがった。
 まあ、当然だが・・・下のフロアまで落ちたがな。
「ったく、見てるこっちがうっとうしいんだよ。お前ら」
 思わず、今までの思考から引き続き2人に文句をつけてしまう。
 足を止めて、うんざりした様子で顔をあげると2人は相変わらずだった。
 九龍の右手と夷澤の左がしっかりと握られ・・・ラブ握りってヤツかよ。
 指先には、さきほど九龍が負った傷に夷澤が大げさな位巻いた布。
 そして、姫抱っこで九龍が夷澤を抱えて飛んだ時の失敗で
 びりびりに破かれてしまった夷澤の制服の変わりに、
九龍が自分の制服を与え、ぶかぶかの制服に嬉しそうな様子で
包まれている夷澤。
 ほんの頬が赤く見えるのは、やつが九龍にベタ惚れって事だ。
 わざと首をすぼめて、九龍の匂いにでも緊張してんのか、若干呼吸も荒い。
「何がうっとうしいってコータ?」
「そうっすよ、一体なんなんすか?
 気に入らないことがあるなら、はっきり言ってくださいよ!」
 2人の声に俺は大げさに身振り手振りを加えてため息をはいてやる。
「お前ら、人の前でよくもまあ・・・そんなにイチャイチャしてられるな?
 恥はないのか?こっちは意味もないのに連れてこられて迷惑なんだよ」
 今まで、個人恋愛は自由だと思って何も言わなかったが、
さすがに毎晩のように続くと俺だって文句を言いたくなるのは当然だろう。
「迷惑なんて言うなよ、コータ。
 お前がいるおかげで、俺はトーヤと遺跡デート楽しめるんだからさ」
「・・・デートだったんすか、コレ」
 引きつった笑いを浮かべつつ夷澤が呟いたが、無視する事にした。
 俺が文句を言いたいのは、とにかく九龍だ。
「お前ら2人のデートなんか見たって全然おもしろくないし・・・
 まだ寮でワンパターンな恋愛ドラマでも見てた方がマシだよ」
「え、お前も見てんの?”眼鏡の瞳に恋してる”あの主人公が、
 またトーヤに似てて可愛いんだよな〜ツンデレなのも一緒だしさ」
 ウキウキとドラマについて語り出す九龍に、本気で蹴りを食らわせて
やろうかという気持ちが湧き上る。
 耐えろ俺・・・今ここで、蹴りなんて見せたら今までの苦労が水の泡だ。
「あ、だから、センパイ毎週金曜は遺跡行かないんすね」
 どうでもいい情報を夷澤から入手し、俺は脱力した。
 なんか・・・もう、こいつには何言っても駄目だと確信する。
 でも、この俺のたった1つのささやかな願いくらいは・・・。
「なあ、九龍」
「ん?」
 ドラマの話しで、自分を放置気味に2人で楽しそうに
会話が盛り上がっている中、タイミングもくそもないが声をかけた。
 さすが、まがりなりにも<<宝探し屋>>耳は良いみたいで助かる。
「頼むからさ・・・いちゃつくのは、俺の見えないとこでやってくれ」
「そんなの、コータが見なきゃいーじゃん。なぁ、トーヤ?」
 ぐいっと引き寄せて、照れて暴れる夷澤を強引に抱きしめて
チラリと俺に視線を向けてニヤリと笑った。
 コイツ、俺が嫌がっているのを知りつつわざとやってやがるんだな。
 フツフツと怒りがこみ上げてくるが、ここもぐっと我慢しなければ。
 俺は、役職も役目も持たない”ただの”皆守甲太郎。
 九龍のクラスメイトで親友というポジション。
「夷澤は九龍と2人の方がいいんじゃないのか?」
 主導権を握っている九龍を諦めて、夷澤を説得し、
そして夷澤に九龍を説得させる事に作戦変更だ。
「いえ・・別に、センパイとだったら、なんだっていいっすけど」
 コイツもか!このホモバカップルめ・・・
「そうそう。俺とトーヤにとって、他の世界なんてあって無い存在」
「だったら、俺なんか誘わないで2人っきりで遺跡デートやらを楽しめよ」
「だって、もし油断して化人にトーヤが襲われて怪我したら大変だろ!」
「そんな、センパイ。オレがセンパイを化け物共から守ってあげますよ」
 また2人の間に濃い空気が流れそうになった事を察知して、俺は叫んだ。
「あーもー!あっちいってやってくれ!頼むからっ」
 ばっと指を差した先には、とても便利な魂の井戸。
 あそこなら、九龍の部屋にある道具を取り出し放題で化け物も出ない。
 おまけに怪我も回復してくれるという、優れ部屋だ。
「そ、それもそうだな〜俺の部屋だと壁薄いから、声とか音漏れちゃうし、

あそこなら、防音ばっちりだし・・・道具も色々用意できるしね。
名案じゃん、コータにしてはvさては、経験ありか?」
 そうこう言いながら九龍は夷澤の肩を抱き、魂の井戸に向かう。
「お前じゃないんだ。こんなところで、愛を語るような真似はしねーよ」
「じゃ、今日はここで解散vトーヤは俺と一遊びして行こうぜ」
 魂の井戸に手をかけた九龍が俺を振り返り、ニシシとやらしい笑みを
浮かべ、手を口に当てて叫んだ。
「コータ、俺とトーヤの愛の営み覗くなよー!」
 誰が覗くか、そんな趣味の悪い人間に見えるか、この俺が。
「俺はもう帰るからな。あんまり遅くなりすぎて、ここで泊まるなよ」
 踵を返し、3人で降りてきた道を1人で戻る。
 耳に重い扉が閉じられた音が響いた。
「・・・ったく、なんの当てつけなんだよ九龍・・・っち」


 パタパタと飛んできたコウモリに似た形をしている化人が近づいてきた。
 甲太郎の周囲に光る弧が描かれる。
 次の瞬間、その化人は真っ二つに裂けるとサラサラと消失する。
 アロマパイプを前歯で何度もガチガチと噛み、モヤモヤした感情を抱え、
甲太郎は自分の頭を過ぎる情景を振り払おうと頭を何度か振った。


end