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■ 無自覚な二人へ10の言葉
09:そういうのを惚れてるって言うんだ (九龍×夷澤)水天宮拓仄 |
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「九龍・・・」
寮の自室で皆守甲太郎は、目の前に座る隣人をやや下方から睨んだ。
「何?」
「何、じゃねーだろ。
夜中に訪ねてきて何事かと思えば・・・人間関係の相談ってなんだよ?」
ベッドから降りて、テーブルの前に座った九龍の正面に
どっかりと腰を下ろしていた。
「だってさ〜今日初めてバディ指名して・・・墓から帰ってきたら、
口きいてくんないんだよ、トーヤが!」
「機嫌悪いだけなんじゃないのか?
あいつ、結構そういう所ある奴なんだろ?」
真剣に見つめてくる視線から自分の視線を逸らし、ベッドに背を預ける。
眠くて仕方ないのに、九龍がベッドへ戻る事を許してくれない。
「最初はすごく嬉しそうだったんだよ。
子犬みたいに俺の後ろから小走りで駆け寄ってきたりすんだぜ」
思い出してニヤニヤした九龍だったが、すぐに帰り際の
凍也を思い出して、情けない表情を浮かべていた。
「じゃあ、何か思い当たる事ないのか?
あいつが気に食わない事を言ったとか、やったとか」
「うーん」
腕を組み、首を捻り少し考えるが、頭を左右に振る。
「思い足らないから、悩んでるんだよね」
外人のジェスチャーのように大げさな、
リアクションを取ると九龍はガックリと肩を落とした。
その様子がさすがに気の毒になってきたのか、甲太郎は腰を上げた。
「お前、風呂入ったのか?墓からこの部屋に来ただろう?」
「え、うん・・そうだけど。なんで急に風呂なんだよ?」
「まだ、そんなに時間経ってない事だし・・・
風呂にあいつ居るかもしれないぜ?」
「でもなぁ・・居ても話しかけられるような雰囲気じゃないと思うぞ?」
ポリポリと耳の裏をかきながら視線を宙にさまよわせる。
らしくない九龍に甲太郎はほんの少し眠気が覚めた気がした。
「それに、お前もスッキリして来いよ。モヤモヤしてる気分も
少しは洗い流せるかもしれないしな・・・俺も付き合ってやるよ」
立ち上がって、ハンガーにかけてあったタオルを
手に持つと扉に向かう甲太郎を慌てて九龍も追いかけた。
「あ、おいっ待てよ、コータ!」
浴場へ続く曇りガラスの扉を開けると、案の定先客がいた。
「トーヤ」
「ほら、な」
扉の前で、耳打ちしあう2人の方にシャワーの前で
髪を洗う凍也と思われる人物がビクリと背中を揺らした。
この時間に予想していた人物以外の生徒が風呂へ来るとは
思っていなかったのだ。
2人の声は小さい上に、シャンプーをする為にシャワーを
出している凍也の耳には、入ってきたのが誰なのか判断できない。
「あの、冷えるんで戸を早く閉めてくれませんか?」
当たり障りの無い物言いに、九龍がぐっと息を呑むのが
隣に立っていた甲太郎にもわかる。
「ああ、悪いな」
短く答えた甲太郎が後ろ手に戸を閉め、戸の近くに
積み重ねてあるプラスチック製の洗面器を手にとって湯船に近づく。
無言で続く九龍は複雑な表情で凍也の後ろ姿を見つめていた。
「コータ、やっぱり嫌われたんだ・・・あんな他人行儀なトーヤ、
入部した日以来だし」
洗面器に湯船の湯を掬い、肩から浴びると甲太郎は
温めに調整されていた温度に顔をしかめるが、
そのまま湯船に肩まで浸かった。
一方、九龍はエチケットとして湯船に入る前に、
湯船に一番近い位置にあるシャワーのコックを捻り、
頭から足の先までの泥や化人の返り血なんかを洗い流す。
その間に、髪を洗い終わった凍也がタオルを腰に巻いたままの姿で
湯船にゆっくりと浸かるのが甲太郎の視線に入ってきた。
「夷澤」
「え・・・はい?あの・・・なんですか?」
浴場の湯気でひどい近視の凍也は、至近距離で
同じ湯船に浸かる人物が誰だかわからないのだ。
声だけで甲太郎だとわかるほども親しくは無い。
「お前、転校生の葉佩九龍と喧嘩したって噂だけど本当かよ?
同じ部活で仲良くやってたんじゃないの?」
あえて名乗らずに先輩口調で問いかけてみる。
凍也の性格を考えて、九龍に繋がりのある甲太郎に
素直な言葉を返すはずがないと思ったからだ。
近くと言えどもシャワーを浴びる九龍には、声を
すべて聞き取る事はできず、髪を雑に洗いながら不安そうな視線を
湯船の方に向けるのみだった。
普段、人との関係は広く・浅くと公言しているだけに九龍は、
1人の人間に執着する事をしない。
今や自他共に認める親友となった甲太郎さえ、
九龍の笑顔しか見たことがなかったのだ。
いつも笑顔で人と接し、決して自分の感情や気持ちを悟らせない術を
身につけている<<宝探し屋>>だと思っていたのに、
目の前にいるのはただの高校生に見える。
「喧嘩だなんて、そんな事ないですけど?」
九龍に対して、怒りを感じたのはついさっきだと言うのに、
そんな噂が他の生徒に流れる事は、まず無いはずなのに
凍也は知らない先輩らしき生徒に、自分が憧れている九龍の事を
無遠慮に聞かれて焦っていた。
凍也が言葉を発するたびに、こちらを伺う九龍の様子がおかしくて、
甲太郎はさらに問いかけた。
「”葉佩”ってさ、調子乗ってるけど、生徒会でなんとかしねーの?」
ちょうど全身を洗い終わった九龍がシャワーの湯を止める。
「ちょ・・・コー」
質問の内容がほぼ聞こえた九龍が、
批難の声をあげようとしたがそれは甲太郎の手によって止められた。
「センパイの事・・・何にも知らないくせに、いい加減な事、
言わないでください!失礼しますっ」
凍也にとっては、初対面と思っている生徒に、
九龍の事を悪く言われて、頭に血が上った凍也は
勢い良く湯船から上がり、ドスドスとタイルを踏みしめ、
戸をあけると出て行ってしまった。
湯船に浸かった2人はしばらく凍也が出ていった戸を見つめていた。
「うそ・・・あいつがあんな事言うなんてな」
「まあ、そういう事だな」
「よかったぁ、嫌われてるわけじゃないみたいで」
ほっと安堵した表情を浮かべる九龍を見つめたまま、
甲太郎はやれやれと息を吐き出した。
ーそういうのを惚れてるって言うんだろうぜ、九龍ー
視線を感じた九龍が、腰までしか浸かっていなかった自身を
湯船に沈めて、頭まで完全に潜り、またすぐに頭を出した。
もうその表情は、さっきまでの不安なモノでは無い。
いつでも浮かべている笑顔、通常版の葉佩九龍に戻っていた。
「現金な奴だな、お前は」
「なんだよ、それ?」
「あーそれよりも、あいつのせいで温すぎだ。もっと温度上げてくれよ」
さっき思った事を自覚のない人間に言うほど、
親切をする気にもなれなくて甲太郎は言葉を濁す。
「ラジャー!」
すっかり機嫌も良くなった九龍は甲太郎の頼みに素直に動く。
ーこのネタで、当分マミーズのカレーくらいは奢ってもらえそうだなー
・・・などと、親友が考えている事も知らずに九龍は、
鼻歌交じりで湯の設定ボタンをピッピッピッとリズムカルに押していた。
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