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■ 無自覚な二人へ10の言葉
10:安堵と嫉妬と祝福と (皆守×夷澤)水天宮拓仄 |
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「よお、トーヤ。今から昼飯か?」
「あ・・・センパイ!」
売店に向かう途中で声をかけられ、振り向くとそこには同じクラブに所属している葉佩九龍と親友の皆守甲太郎が立っていた。
明るい笑顔で自分を見つめてくる九龍に反して、皆守甲太郎は相変わらずダルそうな表情で窓の外を眺めている。
自分の姿などその目に入っていないようだった。
「センパイ達も今からっすか?」
「ああ、マミーズにでも行こうと思ってさ。お前も一緒に行く?」
嬉しい誘いにぱっと顔を輝かせたが、この時点で昼休みは半分ほど経過しており、
今からマミーズへ行くと午後からの授業に遅れてしまうのは確実だった。
「今からっすか?午後の授業遅れちゃいますよ?」
「ま、それはそれ、別にいーじゃん?なぁコータ」
窓の外を眺めながら二人の会話が終わるのを待っていた甲太郎を振り返る九龍。
話しを振られた甲太郎は軽く伸びをして、顔を凍也に向けた。
ードキリー
なぜか凍也の鼓動が跳ね上がる。
「次の授業から出れば問題ねーだろ。さっさと行こうぜ九龍。誘ってもどーせ来れねーよコイツは優等生だ」
唇に加えたパイプをピコリと動かして自分に向けられ、今の言葉がカチンと感じられ、眉を吊り上げた。
「別にそんなつもりないっすよ。いいですよ、オレも一緒に行きますよ!」
「おいおい、何ムキになってんだよ?別に遅刻してまで付き合わなくていいんだぜ?・・・誘った俺が言うのも何だけどさ」
笑いながら両の掌をどうどうと凍也の前で動かしながら口を開くが、もう耳には入らないようだ。
「いいえ、オレもご一緒します!いいっすよね、皆守先輩?」
「勝手にすればいい。さっさと行くぞ、腹減った」
「ああ。じゃあ、行くか!」
九龍と甲太郎が時々言葉を交わしながら歩く少し後ろを歩きながら、凍也は自分の言葉を少し後悔していた。
ー確実に遅刻か。生徒会の仕事が・・・とか言い訳すんのも面倒だなー
などと考えながら歩いていると、目の前で九龍が甲太郎の耳元に唇を寄せて何事かを囁いているのが目に入る。
そして唇からパイプを取り、柔らかい笑みを浮かべる甲太郎に目が奪われた。
ーこの人、こんな顔もするんだな・・・初めて見たー
じっと見つめていると、ふと甲太郎の視線が自分に向けられて、頬に血の気が昇るのを感じる。
思わず視線を地面に落したまま数歩足を進めて、視線を戻すと九龍と会話をしながら後ろに視線を向けたままの甲太郎と目が合う。
ーな・・・なんだよ?−
今度は目をそらす事もできずに、じっと見つめているとクスリと甲太郎が微笑み、九龍の方に視線を戻した。
ほっと息を吐き、少し早くなった鼓動に凍也は困惑していた。
3人がマミーズに到着すると、奈々子が元気よく出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ、マミーズへようこそ!」
「や、奈々ちゃんv席、どこでもいいかな?」
笑顔で奈々子に受け答えをする九龍を他所に甲太郎は空いている席を探しだし、すでに移動を始めている。
見ると九龍は奈々子と言葉を交わしているので、ここで待っているのもおかしいと凍也は甲太郎の後に続いた。
店の隅にある四人掛け席が空いていたので甲太郎は迷わずそこを選ぶ。
壁側の椅子に腰を降ろしてメニューも広げずに黙って座った。
少し迷ったが隣に座るのも気が引けて、斜め前の椅子に腰をかける。
「お前マミーズって来ないのか?」
「え・・・ど、どうしてっすか?」
確かに凍也はこの学園に入学してきて、初めてマミーズに来店したのだ。
一緒に食事をするような親しい友人もおらず、昼休みはいつも生徒会の仕事などに追われて売店のパンと牛乳で済ませたり、
昼飯自体を食べられない事も多い。
「なんか緊張してるみたいだからな」
クスクスと笑いながら目を細める甲太郎に再び鼓動が跳ね上がる。
「き、緊張なんかしてないっすよ。まあ・・・初めて来たって事は正解っすけどね」
キョロキョロと周囲を見渡すと、昼休みも終わりに近いこの時間帯。
思ったよりも生徒達が店内に残っている事に驚いた。
周囲を観察する凍也の視界に奈々子に手を振って九龍がこちらに向かってくる。
慌ててメニューを手に取り、開くと決して多くないメニューを目で追う。
「トーヤ、何食べるか決めたか?コータはいつものな?」
「ああ」
”いつもの”という言葉を聞いて、なんだか面白くない気持ちになったが凍也はあえて自分の感情を無視して、
メニューを見つめたが何が食べたいのか・・・自分は昼飯を食べたいのかどうかもわからなくなってしまった。
たまに九龍と一緒にご飯を食べる事もあるのに、この違いはなんだろう?
「俺は天香定食にしよーかな。トーヤはどうする?」
「え・・・えっと・・・オススメって何ですか?」
見てても決められないと悟った凍也の視界に奈々子がオーダーを取りに3人の元に向かってくるのが見えた。
「ん〜どれも美味しいよ、ここのメニューは」
「カレー」
食べ物にあまり執着心の無い九龍と、カレーに異常に執着している甲太郎の言葉がほぼ同時に発せられると、頭上から明るい声が響く。
「お決まりですかぁ?」
「あ、俺は天香定食ね。コータはいつもので・・・トーヤは・・・」
「カ、カレーでお願いします」
焦った凍也が思わず口走った言葉は甲太郎オススメのカレーだった。
「はぁい、かしこまりましたぁ。ご注文を繰り返します。カレーがお2つに、天香定食お1つですねぇ?」
「うん!」
「それでは、少々お待ちくださいねぇ」
手早く注文を取った奈々子はパタパタと厨房に戻り、3人の間には奇妙な沈黙が流れた。
椅子に背をもたれかけ寛いだ様子の甲太郎の正面に座った九龍は当然凍也の隣の席だ。
チラリと横目で九龍を見つめ、斜め前に座る甲太郎を見つめる。
甲太郎は瞳を閉じ、静かに時間を過ごしていた。
「・・・・・・」
さきほど注文を取りに来た時に奈々子が運んでくれたグラスを手にとり、水をぐいっと煽る。
なんだかひどく喉が渇くのを感じた。
「トーヤさぁ」
突然横にいる九龍が耳元に小声で囁きかけてきて、凍也はびくりと腰を浮かせてしまった。
「・・・えっ?」
「今、すっごい緊張してんの?」
少し笑みを浮かべる九龍の表情を見て凍也の頬に朱が昇る。
「そ・・・そんな、事ないっすけど」
緊張していないと言う言葉と裏腹に凍也の言葉はどもり、額には汗が滲んでいる。
「どうしたんだよ?俺と飯食べてる時はいつも楽しそうなのに、な?」
九龍はクスクスと笑いながら、相変わらず瞳を閉じたままの親友に視線を流し、すぐに凍也の方へ視線を戻した。
「あ・・・いえ・・・その、マミーズに来たの初めてなんで・・・勝手がわからないんすよ」
モゴモゴと思ってもいない事を唇に昇らせた所で奈々子がトレイに料理を乗せてやってきた。
「おまたせ致しましたぁ!カレーお2つと天香定食でぇす!ごゆっくりどうぞ!」
コトン、コトン、コトンとテーブルに次々と皿を置き、レジの前で待っている生徒を見つけて慌てた様子で奈々子は引き返して行った。
「コータ来たぞ」
「おお。じゃ、食べるか」
2人が食べ始めたのを見て凍也もスプーンを手に取り、カレーを皿から掬った。
昼休みが終わり、午後の授業が始まってからすでに半刻程経っていたが、九龍と甲太郎と凍也は校舎への道をゆっくりと歩いていた。
「トーヤ、もう俺達に付き合う事ないから、教室戻れよ。お前なら、生徒会の仕事が長引いたとか言えば平気だろ」
自分達の後ろを歩いている凍也を振り向き、九龍は凍也が先ほど考えていた言い訳を使うように薦めてくれたが、
今は教室に遅れていくような気持ちではなかった。
甲太郎推奨のカレーを食べた凍也だったが、ほとんどその味が彼の舌に感じられるも事なく、カレーは食道を通って今は胃袋の中だ。
「いえ・・・もう授業時間も半分ありませんし・・・次の授業までお付き合いしますよ」
「ふ〜ん。まあ、お前がそれでいいなら、いいけど。俺達、これから屋上行くけどお前も来る?」
その言葉に迷った表情を見せる凍也に振り返った甲太郎が表情を緩めた。
「来ればいいじゃねーか?どうせ、生徒会の雑用をこなす時間も残ってねんだろ?」
甲太郎の言葉に即頷く凍也を見て、九龍は複雑な表情を見せたがすぐにいつもの笑顔を浮かべていた。
「今日は晴れてるから屋上は気持ちいいはずだ。絶好の昼寝日和だな、コータ」
「ああ、そうだな」
すぐに凍也から視線を外し、九龍と並んで歩き出す甲太郎。
「・・・・・・?」
仲良く肩を並べる2人の先輩の背中を見つめながら、マミーズに向かう前に感じた気持ちと違ったものが凍也の胸に走る。
だが、それがどんな感情なのか凍也にはわからない。
少し離れて歩いてくる凍也をチラリと見つめ、九龍はそっと息を吐き出した。
ーまあ・・・まだ自覚には至らないかな2人共。
しばらくは、この関係のまま・・・楽しもうか?
2人が自分の気持ちに気づくまで、な−
「なぁ、コータ。俺とお前は親友だよな?」
「はぁ?何、キモい事言ってんだよ」
突然何を言い出すのかという表情を見せる甲太郎にクスリと笑顔を浮かべ、九龍は後ろを歩く凍也が追いつくまで足を止めた。
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