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| ■同居同棲10題 02:こんなことで徹夜してしまった ( 未来捏造 ) 水天宮拓仄 |
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不動産屋と共に見学へ来て、その場で借りる事を決定。
即日現金で敷金礼金を支払って契約した東京郊外の家賃が月十万円の2DKアパート。
運良く一階の角部屋が空いていた為、そこを借りる事になった現役<<宝探し屋>>葉佩九龍と、
元プロボクサーの肩書きを持つ高校の数学教師な夷澤凍也。
九龍が明日にでもすぐに部屋へ入りたいと言ったが、部屋の設備点検や清掃等があると説明を受け、
二人は契約した一週間後に入居可能となった部屋へ来ていた。
暢気に部屋を歩き回っている九龍を尻目に凍也は頭を抱える。
自分の荷物は良いとしても、九龍の荷物が入るとは思えない。
凍也の荷物は一般的な一人暮らし用のコンパクトな家具が主であり、不要な物はほとんどない。
一方の九龍は家具等は持っていないのだが、各国の遺跡で手に入れた不思議アイテムやら
銃火器といった仕事道具が決して厚くない部屋の床を突き抜けそうな程持っている。
現在は、数箇所の倉庫や貸し金庫を借りて保管しているらしいが、
面倒なので自分が住む部屋に引き取りたいと希望しているのだ。
「おい、トーヤ。早く荷物運びこもうぜ」
一通り部屋の中を見て回った九龍が能天気に声をかけてきた事によって
凍也はイラついた表情を隠そうともしないで顔を上げた。
「誰のせいでこんなに悩んでると思ってるんすか」
息を吐いて大きな声を出さないように気をつける。
今は夜の十一時過ぎなのだ。
凍也は近所との騒音トラブル等を考えて小規模なアパートを選んでいた。
部屋数は全部で六つあり、隣りと真上は空いていたが、他の部屋は住民がすでに生活をしている。
さらにアパートの周囲は静かな住宅地で、大きな音が響く立地条件なのだ。
「何悩んでんの?」
「センパイの荷物が多いって事です。それに今は夜なんで荷物なんて運べないっすよ」
「えーなんで?」
不満そうに唇を尖らす九龍を見つめて、肩をがっくりと落とした。
あまりの世間知らずさにうんざりしてしまう。
今までの生活がどれだけ特殊だったのかを物語っているわけだが、それでも少しくらいは・・・と期待してしまうのだ。
「普通、引越しってのは昼間にやるもんなんです。夜にガタガタやってたら近所迷惑になるんすよ」
子供に物を教えるような気持ちで望んだ方が良いと気を取り直す事にした。
それに、いつもなんでも知ってる風な顔をしている九龍に、自分が何かを教えるというのも新鮮で面白いと感じている。
「じゃあいつ運ぶんだよ?」
「荷物は引越し業者に頼んであるんで、明日の昼までには荷物が届きますよ」
凍也は明日の昼間に今まで住んでいた部屋にある荷物をすべて引越し業者に運んでもらうように手配し、
荷造りも休日を使って済ませていた。
明日は仕事があるが午前中は授業が無い為、遅れて登校すると申請してある。
「それはお前の荷物だけじゃん。俺の荷物は?」
まるで子供のように唇を尖らせて、頬を膨らませた九龍に軽くイラっときたが、ぐっと我慢する。
まだ一緒に暮らすという段階まで来ていないのに、ここで喧嘩をするわけにはいかない。
それに相手は引越しの仕方もわからない人だ。
ここは自分が大人にならないと・・・。
それがいつまで保てるかわからないが。
「センパイの荷物は部屋に入らないんで、今のまま預けておいてもらいたいんだけど、いいっすよね?」
強めに言うと反感を買うと直感的に知っているので、少し甘えるような声で上目遣いで窺ってみる。
少しくらいの反論を予想していたが、それが訪れる事はなかった。
にこにこと笑顔を浮かべた九龍はあっさりとその件を了解したのである。
どうやら、凍也の態度が気に入ったらしく機嫌もかなり良くなっていた。
ーこの人、もっと扱い難かったはずなのにな。
高校の時はわがままを押し通そうとする九龍とよく言い合いをしたものだったのに。
「あ、でも最低限の武器は持ち込むからな」
「武器って・・・まさか銃火器っすか?」
「当然だろ。今の世の中物騒なんだから、お前にも一丁貸してやろうか?」
ははっと笑いながら恐ろしい事を言い始めたので、またもがっくりと肩を落とす凍也だった。
”世の中”と”九龍”のどちらがより物騒なのかと思ったのは言うまでもない。
「いえ、遠慮しておきます」
丁重にお断りすると凍也は何も置いていない床にストンと腰を下ろして、改めて部屋の中に視線を巡らす。
2DKという事は、一部屋を居間にして一部屋を寝室にするか、一人一部屋にするかのどちらかしかない。
しかし、これを自分が聞くというのも変に誤解されそうで気が進まないのである。
九龍は黙ったまま床に視線を落とす凍也を見つめながら、クスリと口元に笑みを浮かべて床にゴロリと寝そべった。
頭の下には胡坐の交差された二本の足があり、ちょうど床を見つめていた凍也と視線が絡み合う。
高校の時と違って、急に接近されても照れない程度には耐性ができていた凍也は寝転んでいる九龍の顔を両手で挟んだ。
それを待っていたかのように九龍も両手を上げて凍也の頭を挟むと、上半身を浮かせて顔を寄せる。
軽く唇を触れ合わせて満足したかのように、再び頭を足の上に戻す。
「センパイ・・・二部屋あるんすけど、一緒に寝ます?」
今の軽い口付けに後押しされて凍也は口を開いた。
そうだ、自分達は恋人同士なのだから寝室が一緒でも不自然ではないはずだ。
同性同士という点は不自然だったが、それはとうの昔に理解している事で今更問題にならない。
理解してくれる友人達もいるのだ。
凍也の両親は、まだその事は知らされていないが時を待って、二人で新潟へ行こうとは考えている。
「それ以外になんかあんの?」
当然とばかりに笑う九龍の頭を持ち上げて、照れ隠しに少し荒っぽく床に下ろすと勢い良く立ち上がった。
「いてぇ」
「さ、寝転がってないで立ってくださいよ」
腰を屈めて手を差し出すと、すぐにそれを九龍が掴む。
ぐいっと引き上げて、立ち上がらすと尻についたであろう埃をポンポンと落とした。
「じゃあ今日のところは何もできないのでそろそろ行きましょうか」
「どこに?」
「どこってセンパイが泊まってるホテルに」
「え?」
その反応に凍也の頭から血の気が引いた。
「今日引越しすると思ってチェックアウトしちまったぞ」
「ええ!?」
確認しなかった自分も悪いが、まさか部屋を借りるその日に引越しが済むと思っていた九龍に愕然とした。
九龍は引越しする部屋が決まった際に、最寄り駅の近くにあるホテルに宿泊先を移していた。
そして、凍也は部屋の荷造りを今日の昼間に終わらせて明日の着替えだけを持って部屋を出てきたのだ。
今から部屋に帰るにしても終電も終わってしまい、歩いていけるような距離ではなかった。
住宅地の中には、ホテルらしいものも無い。
ラブホテルの類は駅前に行けば数軒あったが、この時間では行くだけ無駄と思えた。
そういえば九龍も大きなバッグを抱えて部屋に来ているではないか。
両手で頭を抱えてヘナヘナとその場にへたりこむ凍也を見つめて、さすがに申し訳ないと思ったのか、
九龍は自分が持ってきた荷物をガサガサと漁り、何かを掴み出した。
「大丈夫だ、凍也。寝袋貸してやるからお前はこれ使えよ」
にかっと笑いながら、ずいぶん使い込んでありそうな寝袋をへたりこんでいる凍也に向かって投げる。
床にドサリと落ちた寝袋を見つめ、少し離れた位置にカバンを持ったまま立っている九龍を見上げた。
彼らしい優しさにジーンと来たが、さすがにこの寝袋を使って一人で眠るのも気が引けた。
「センパイのなんだから、センパイ使ってください。オレは床で寝れますから」
「いいって。お前は明日仕事あるんだし、俺は起きてるの平気だから遠慮すんなよ」
「じゃあ、オレも一緒に起きてます。一日くらい寝なくても平気っすよ」
寝袋を拾い上げて九龍に向けて軽く放った。
それを受け取った九龍が手の中に戻ってきた寝袋を見つめて、また投げ返してきた。
「駄目だ。お前はしっかり寝ないと・・・ほら、寝る子は育つって言うし」
「・・・その喧嘩買いましょうか?」
少し強めに投げ返して立ち上がり、右手の拳を握り締めて左掌にパシリと叩きつけると一歩を踏み出す。
「ご近所迷惑なんでやめときます。だから、大人しく寝ろって」
「だから、一日くらい平気だって言ってるじゃないっすか」
丸められた寝袋が二人の間を行ったり来たり。
最初は丸められていた寝袋の紐が解けて、広がったままでも二人の間を行き来していた頃。
カーテンも何もつけていない窓から眩しい光りが差し込んでくる。
乱れた前髪を掻き上げて凍也はずり落ちそうになっていた眼鏡を利き手の人差し指で押し上げた。
「・・・朝に、なっちまいましたね」
手に持っていたボロボロになった寝袋をボトリと床に落として、九龍はあんぐりと口を開ける。
二人はそのまま床に崩れ落ち、まるで合わせたかのように呟いた。
「こんなことで徹夜しちまった・・・」
東京郊外の長閑な住宅地に建つ小さいな木造アパートの周りは、すずめ達が賑やかに飛び回り、
窓から容赦なく入ってくる朝日が疲れきった二人を更に追い討ちをかけた。
つづく? |
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