■同居同棲10題 04:レンタルDVD ( 未来捏造 ) 水天宮拓仄

「なあ、これ借りていいか?」
 真面目な表情でDVDがズラリと並ぶ棚を見つめていた葉佩九龍が一枚のDVDを指差しながら尋ねると、
隣りに立っていた夷澤凍也がそのDVDケースを手に取って裏書きにさっと目を通す。
「こんな古い映画借りるんすか?」
 冒険物の洋画だったが、二人が生まれているか生まれていないか位に製作された時代遅れな代物だ。
 日本でも大ヒットした映画で、もう何度もテレビで放映されているタイトルを、
わざわざお金を払って借りなくてもと不満そうな顔が物語っている。
「だって俺見たことないし。冒険物って仕事柄興味あるんだよね。いいだろ?」
「・・・ったく。まあ、別にいいっすけどね。自分が借りるのは自分で払ってくださいよ?」
「わかってるよ」
 そう言ってスタスタと立ち去る九龍の背中を見送り、自分が見たいDVDを探そうと踵を返したが、
彼の背中が消えたDVDのコーナー名を見て急いで追いかけた。
 コーナーの前まで来て足を踏み入れる事を躊躇したが、連れの九龍はすでに奥まで入り込んでいる。
「なんで俺があの人の為にこんな所に・・・」
 ブツブツと文句を言いながら、顔を下に向けている凍也の頬は紅潮し、顔には汗が浮かんでいる。
 意を決して九龍がいるコーナーに足を踏み入れて周囲を見渡す。
 どうやら今は自分達しかいないようだ。
 ホッと胸を撫で下ろすと、目を吊り上げて一直線に棚を熱心に見ている九龍に向かって歩き出した。
 数歩で背中に手が届くほどの距離になり、肩を背後から掴む。
 小声で怒気を含んだ調子で唇から非難の言葉を紡ぎ出す。
「ちょっとセンパイ!何借りようとしてんすか・・・そんなもんウチでは禁止っすよ」
「えー!お前、こうゆうのに興味無い?それでも健全な男なのか?」
「そうゆう問題じゃないっす。そんなの男二人で観たって空しいだけですから!」
 ますます顔が赤くなり、正面にある顔を見ていられなくなった凍也は踵を返した。
 後ろ手で九龍の腕を掴むとコーナーの出口に向かって歩き出す。
「それって”オレがセンパイの相手をするから必要ないっす”って事?」
 凍也の口調を真似ると、その直後に噴出した九龍の腕を離した。
 AVが並ぶコーナーからは数歩離れた位置である。
 そして、一人でズンズンと邦画が並ぶコーナーへ立ち去ってしまった。
「あーあ、あんなに赤くなっちゃって・・・二十四歳とも思えない可愛さだね」
 ニヤニヤしながら小さくなった背中を見つめ、唇から小さく舌を覗かせた九龍の手にはしっかりと一枚のDVDが握られていた。


 結局、九龍が適当に持ってきた例のDVDは凍也会計するという時に背後から素早く店員に提出された。
「ご一緒ですか?」
 聞かれた後にすごい勢いで九龍を振り返ったがDVDをレジに出した当人はそっぽを向いていた。
 数歩先にある新作コーナーへ歩いていく九龍が、笑みを浮かべて棚を見ている事に拳を震わせながら小さな声で応えた。
「・・・はい。お願いします」
 店員の顔をまともに見れなくなった凍也は、そ知らぬ顔で新作コーナーを眺めている同居人を
心の中で思いつく限りの言葉で罵倒していた。



 レンタルDVD屋からの帰り道。
 時間が遅い事もあって人の気配もせず、周囲の家から洩れる灯りもチラホラという程度。
 二人の住んでいるアパートは店から徒歩で十数分という近所にある。
 いつもなら、何かしろ話ながら仲良く帰るのだが、今回はレンタルしたDVDで
九龍が凍也を怒らせてしまった為に重苦しい空気が流れていた。
「なあ、凍也。そんなに怒るような事か?俺達は十八歳以上なんだし、たまにはさ〜。お前だって観た事くらいはあるんだろ?」
 困った表情を見せながらレンタルDVDの袋を持ち、凍也の少し後ろを歩く九龍が軽い調子で話しかけてくる。
「・・・」
 予想した通り凍也からの返事は無いし、振り返りもしない。
 背後から見る両肩からは彼の怒りがかなり大きい事を示している。
(あーあ、こりゃ家に帰ったら雷が落ちるな。それもでっかいのが)
 ふーっと大きく息を吐いて、見えてきたアパートを前に九龍は口を噤んだ。
 この後、家に帰ったら小一時間程度の説教が待っているのだろう。


 帰宅後、九龍を待っていたのは・・・予想的中であった。
「センパイ・・・オレは禁止だって言いましたよね?」
「うん」
「あのレンタル屋のカードはオレ名義なんすよ?借りるのも返すのもオレですよね?」
「そういう意味で借りるの禁止なの?」
「・・・それだけなはずないでしょ!」
 つい声を荒げてしまってから、我に返って口を押さえる仕草を見せる。
 今の時刻は午前一時過ぎだ。
 近所や同じアパートの住民は眠りについている時間帯。
 居間に正座をして座る九龍と、その正面に仁王立ちで説教中の凍也という構図は人が見たら相当おかしな光景であろう。
「それだけじゃないって?」
「店でも言ったじゃないっすか。こんなのは男二人で観ても仕方が無い・・・くだらないモンなんですよ」
 九龍の視線から逃れるようにそっぽを向いて、言い捨てる凍也の顔は再び赤くなりはじめていた。
「じゃあお前が学校行ってる時に俺一人で観れば問題ないだろ?レンタルだって、俺がレジに持って行っても別に問題ないし」
 横を向いて赤くなっている凍也を見つめて、今まで愁傷にしていた九龍の表情に笑みが浮かぶ。
「何笑ってんすか。オレは怒ってるんですから・・・少しは反省してくださいよ」
「ん、ごめんな。で、結局、観てもいいのか?お前が絶対にダメって言うなら観ないよ。約束する」
 こんなくだらない問題に真面目な表情や声で問われてしまい、凍也は何も言えなくなってしまう。
「好きにしてください。オレはあんたが何を観ようと関係無いっすから」
「わかった。観ないから、もう許してくれよ凍也」
 正座を崩して膝でチョコチョコと歩きながら凍也に近づくと両腕を伸ばす。
 困った表情になったが体は逃げようとはしなかった。
 大人しく伸ばされた腕に囚われて引き寄せられるままに任せる。
「ご機嫌とりのつもりっすか?」
「うん?まあ、そうかな」
「図々しいっすね・・・らしいっすけど」
「そうだよな。お前がいるのに、あんなの観てもつまらないよな」
 小さく笑い声をあげながら近くにあった耳に唇を寄せると、わざと音を立てて舐めた。
 その瞬間に腕の中の凍也が硬直する。
 慌てて腕から逃れようとする凍也をぎゅっと抱きしめて、益々九龍の笑みが深くなっていくのだった。


つづく?