|
 |
|
 |
|
| ■恋したくなるお題 06.その沈黙の意味は「Yes」? ( 九龍×夷澤 ) 水天宮拓仄 |
|
「トーヤ」
「・・・・・・」
「トーヤってば!」
「・・・」
天香学園の男子寮前で黙々と雪かきをしている夷澤凍也に自室の窓を開け放って大声で呼ぶ生徒がいる。
生徒会副会長補佐の役職に就いている彼を馴れ馴れしくニックネームで呼ぶのは一人しかいない。
寮の玄関前から門までを適当な幅に雪を除けて道を作りながら、思わず振り返って怒鳴りそうになる自分を抑える。
ここで呼ぶ声に反応してしまったら”雪かき”を命令した先輩の時間に間に合わなくなってしまう。
まだ生徒が眠っているような時間に二階の奥近くにある凍也の部屋を長髪で切れ長の目が特徴の生徒会会計係の神鳳が訪ねてきた。
当然、その時間は凍也もベッドの中で熟睡していた事は言うまでもない。
扉を叩く音に気づき、眠たい目を擦ってサイドテーブルに手を伸ばし、デジタル時計を手に取り現時刻を確認する。
「・・・まだ五時前じゃねぇか」
しかし、こんな時間に部屋を訪ねてくるという事が”緊急事態”なのかもしれないと、
まだ眠ったままの肉体を無理に動かしベッドから足を下ろした。
ペタペタと薄暗い部屋の中を横切り、扉へ一直線に向かう。
「はい・・・」
ガチャリと小さく音を立てて扉を開けると、すでに制服に身を包んだ生徒会の先輩がいつもの様子で目の前に立っていた。
「おはよう夷澤」
「神鳳さん・・・おはよう・・ございます。なんなんすか、こんな時間に?」
明らかに迷惑そうな表情を浮かべながら口を開き、こんな朝早くに起された不平をもらす。
「昨夜に雪が降ったみたいなので、寮の玄関から門までの雪かきを部活動の朝練習が始まる前までにお願いします」
「へ?」
こんな朝早くから雑用を当然のように命令され凍也が大人しく従うはずもない。
「なんで、そんな事オレがやらなきゃならないんすか?用務員のじいさんがやってくれますよ」
それじゃ・・・という言葉を残して扉を閉めようとしたが、それは神鳳がすばやく伸ばした手によって止められた。
ちっと舌打ちをして、すっかり覚めてしまった強い視線で神鳳を睨みつける。
「用務員さんは校庭や寮から校舎へ続く通路で手一杯になりますから。自分達が生活する寮の前くらいは我々がやらなければね」
「じゃあ、あんたがやればいいんじゃないすか?」
「僕はこれから弓道部の早朝練習がありますので。君はボクシング部で朝練習はやっていないでしょう?」
「・・・一人でやれって言うんすか?」
「まだ朝練習が始まるまで二時間近くありますから、充分終わりますよ。じゃあお願いしますね」
言い終えると扉から手を離してスタスタと歩いて行く背中を恨めしく睨みつけながら、部屋に戻って仕方なく制服を身につける。
「なんでオレが朝っぱらから、こんな事やんなきゃなんねーんだ」
ブツブツと悪態をつきながらも生徒会における上下関係は絶対的なものがあり、それに逆らう事はできなかった。
それができなかった事にもイラつきながら、コートとマフラーを身につけて外での作業用に持っていた軍手を手に持ち廊下に出る。
まだ寮の生徒達は眠りの中で、廊下はシンと静まり返っていた。
夷澤が寮の玄関から出ると、寮から門へ続く足跡が二つあり一つは真新しい所を見ると神鳳が出て行った時のものだと容易に知れる。
だがもう一方の足跡は半分ほど埋まっていて、形を見ると外から寮へ帰ってきたようにも見えた。
しかも半分埋まりかけている足跡は玄関ではなく、一階の部屋に続いていた。
「・・・ったく、また昨夜もでかけてやがったんだな。オレを連れて行けって言ってんのに」
頬を膨らませながら、寮の脇にあるボイラー室から大きなスコップを持ってくると埋まりかけていた足跡をざっくりと掬い上げた。
やっと明るくなってきた外からサクサクと規則正しい音が聞こえてきて、朝方に眠りについた葉佩九龍は目を覚ました。
まだ眠ってから二時間も経過していなかったが、少ない睡眠時間でも活動できるように訓練を積んでいる彼に苦痛は無い。
「なんだ・・・こんな朝早くから」
ベッドから降りて窓にかかっているカーテンを引くと眩しい朝日が昨夜のうちにずいぶん積もった雪に反射して九龍を照らした。
「・・・ん?あれはトーヤじゃないか」
ガラリと窓の開いた音を聴いて振り返りそうになったが、誰が自分を発見したのか想像ができて寸での所で耐える事に成功した。
「・・・っち」
舌打ちだけをして脇目も振らずに積もった雪を掬っては遠くに投げ、掬っては投げ、それを繰り返す。
窓を開けた事に気づいたはずの凍也が振り向きもせずに作業を続ける様子に九龍は唇を尖らせた。
「おーいトーヤ」
早朝の為、やや遠慮がちに声をかけるがその声は無視をされる。
聞こえないはずは無いのにと首をかしげ、今度はもう少し大きな声を出す。
「トーヤ何やってんだ?」
その声にも反応を返さない凍也は黙々と雪を投げては少しずつ門へ近づいていく。
理不尽な雑用もあと少しで終わりに近づいていた。
いくら雪国育ちとは言え、寒いものは寒い。
早く終わらせて温かいシャワーでも浴びて、温かいミルクを飲んで体を温めたいのだ。
ここで邪魔者の乱入を許してしまうと終わる時間も遅くなり、シャワーもできずホットミルクすら飲めなくなるかもしれない。
それに昨夜の探索に呼んでくれなかった事への怒りもある。
仲間になった時に約束したはずだったからだ。
墓に探索へ行く時は、必ず自分をバディに連れて行くと。
飽きずに自分の名前を呼び続ける九龍を無視し続け、ようやく門を目の前にふうっと一息をつき、最後の一かきを門の上へ放り投げた。
「トーヤ!なんで無視すんだよ?」
ついさっき凍也が雪を取り除いた道をジャージにコートを羽織っただけの九龍が頬を膨らませて歩いてきた。
門の前にスコップを突き刺して校舎の方を見据える凍也の後ろ姿を見つめて、ようやく彼が怒っている事に気がついた。
「あれ?なんか怒ってる?」
「・・・」
「俺、今日はお前に何もしてないよな?」
「・・・」
うーんと頭をかしげている九龍の方に振り向いた凍也だが、顔をあわせないようにそっぽを向いて寮の方へ向かって足を進めていく。
「トーヤ何怒ってんの?俺が悪いなら謝るから、理由教えてよ」
猫なで声で後ろからしゃべりかけるがそれすらも無視され、さすがの九龍もぷうっと頬を少し膨らませながら口を再び開いた。
「今からここでお前にキスするけど、いいな?」
「・・・なっ・・・」
さすがに突然の事で足が止まり、振り返って何かを言い返そうとしたが凍也はぐっと言葉を飲み込んだ。
ここで言い合うと絶対に自分が不利になり、自分が怒っている事すらうやむやにされてしまいそうだと直感で悟っていた。
「・・・・・・」
拳をぐっと握って顔を赤くしたが、唇をかみ締めながら踵を返して再び九龍に背中を向けた。
「そっか、お前の気持ちはよーくわかった!その沈黙は”YES”って意味だな?」
後ろから片方の肩をがっと掴みぐるりと体を回転させて、
両手で抱き寄せようとする九龍凍也は慌てた様子で両手で自分の唇を覆いながら、思わず声をあげてしまった。
「ちょっ!やめてくださいっ」
真っ赤な顔をして上目遣いで見つめてくる凍也に満足そうに微笑んで、すぐに両手から抱きしめようとしていた体を解放する。
あまりにもあっけなく自分が解放された事に怪訝そうな表情を浮かべる凍也はすぐに”しまった”という表情になり、
バツが悪そうに目の前に立っている九龍をジロリと睨みつけた。
「やっと口を開けたなトーヤ」
「・・・なんなんすか、こんな朝っぱらから・・・さっさと学校行く準備でもしたらどうっすか」
ぷいっと横を向いて、自分の腕で己を抱きしめるように腰の辺りで両腕を交差させながら、ぶっきらぼうに言葉を発する。
もう口を開いてしまった後からでは、無視することは難しい。
「で、何怒ってんだ?言ってくんなきゃわかんないだろ?」
「・・・で、昨夜オレに声かけなかったんすか?約束したじゃないっすか・・・それに誰と行ったんだよ」
ぶすっとしたままだが、それを口にした凍也の顔は耳や首まで赤く染まっている。
最後の一言は消え入るように呟いただけだったが、それはしっかりと九龍の耳に届いていた。
「ああ、昨夜か?昨夜は墓に行ってないから声かけなかったんだ。ちょっと礼拝堂に用があってさ」
「礼拝堂?」
九龍と礼拝堂という取り合わせに違和感を感じ、疑いの眼差しを向けた。
「そ、礼拝堂にちょっと・・・な」
「センパイがキリスト教信者だなんて初耳っすけど」
「や、別に礼拝しに行ったわけじゃないんだけど」
珍しく九龍がシドロモドロになり、自分の問いかけの視線から逃れようと宙へ目を泳がせている。
そんな様子を見せられては、ますます自分の中のモヤモヤが広がるばかりである。
思わず目の前にいる十センチ以上も身長が高い男の胸倉を掴むと、羽織っていただけのコートが背後に落ちた。
「ちょ・・・何すんだよ。寒いだろーが。俺、南国生まれなんだからさ」
背後に落ちたコートを足にひっかけて拾い上げて、なんとかこの場をごまかそうとしたが通用する相手ではなかった。
「誤魔化されませんよ。礼拝堂に何をしに行ってきたんすか?センパイ」
先ほどまで可愛く顔を赤くしていた凍也に今度は逆に問い詰められる形になって九龍は晴れ渡った早朝の空を仰いだ。
手に持っていたコートを思むろに凍也の後ろに回し、包み込むようにして身を屈めた。
寮を背にした凍也と門を背にした九龍をロングコートが覆い隠す。
突然の事に呆然と立ち尽くす凍也の耳元に唇を寄せて囁く。
「礼拝堂に今夜一緒に行こう」
「・・・・・・」
「俺の気持ちを永遠に誓う準備をしてたんだ。驚かせたくて黙ってた・・・ごめんな凍也」
「な・・・んで、そんな・・・」
「来てくれるだろう?」
耳元から唇をずらし、正面から瞳を見つめてくる九龍を同じく見つめる。
「・・・」
何も言えない凍也は沈黙のままコクリと小さく頷き、両の踵をついと上げるとそっと目の前の唇に自分のそれを合わせた。
end |
|
 |
|
|
|