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| ■恋したくなるお題 10. そんな顔もするんだね ( 九龍×皆守 ) 水天宮拓仄 |
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2004年12月24日 午後11時55分
「そんな顔もするんだな、お前」
目の前に立つ甲太郎を見つめながら、こんな言葉が口をついて出た。
こんな事を言っている場面じゃない事くらい俺にもわかっている。
でも、思わずにはいられなかった。
俺は、苦痛に歪むお前の顔を見て興奮していた。
2004年12月24日 午後9時前
自分で決めた。
今日ですべてを終わらせる。
この学園で過ごせる最後の夜、俺はいつもより早く甲太郎の部屋へ出向いた。
―コンコンー
いつものように扉を叩くと中から声がする。
「入れよ」
「よっまだ時間早いけど来ちゃった」
いつもの調子で笑いかけると甲太郎もいつものように微笑んでくれる。
もう、いいのに…俺にそんな微笑みを向ける必要はないはずなのに。
「コータ。突然なんだけどさ…」
なんの前振りもなく、俺はベッドに背を預けたままの甲太郎に近づくと抱きしめて、
むき出しの鎖骨に唇を当てて軽く吸い付く。
「おい?どうしたんだ、急に」
突然の抱擁に最初だけ体がびくりと動いたが、一瞬のうちに力が抜け俺の背中に両腕が回された。
穏やかな腕、穏やかな吐息、穏やかな声に俺は唇を噛み締めた。
「抱いてもいい?」
抱きしめながら耳元に低く呟き、そのまま耳たぶに軽く歯を立てる。
ぴくりと抱きしめている体が小さく反応を返す。
「今からか?今日も…行くんだろ?」
心配そうな声で、心にも思っていない事を言わないでくれ。
もう俺にはすべてわかっているんだよ?甲太郎。
背中を抱きしめる手に力をこめて黙っていると、俺の肩に乗っていた頭が動く。
耳元に甲太郎の妙に艶っぽい声が響いた。
「いいぜ、抱けよ…。ただし、加減しろよ?」
クスリと笑ったのが気配でわかり、俺の体温が急激に上昇した事を自覚した。
甲太郎の服を背中から勢い良く脱がし、ベッドの脇に押し倒す。
―ゴツッ
「って…肘打ったじゃねーか…加減しろって言ったのに」
背中を打たないように両肘を床に打ちつけ、甲太郎から苦情が漏れる。
だが、その表情はまだ柔らかい。
「加減なんて…できないの知ってるだろ?」
馬乗りになって、自分の上半身を包んでいる服を脱ぎ捨てるとじっと見つめてくる甲太郎から視線を反らした。
「そうだったな、お前は。いつも俺の都合はおかまいなしだ」
苦情は言っても抵抗はしない。
これもいつもの通り。
少し垂れている目が細められ、甲太郎の両手が俺の両腕を掴む。
ぐいっと下方向に引かれると、少し頭を浮かした甲太郎とラベンダーの香りが微かに残る口付けを交わした。
―くちゅり
湿った音を立てながら、だんだん深くなっていく口付けに俺は自分の体が熱くなっていく事を恨めしく思った。
2004年12月24日 午後11時40分
「…ついに、ここまで辿り着いたな。九龍。おめでとう」
背後からゆっくりと歩いてくる甲太郎が立ち止まった。
俺も立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
そこには、いつもの穏やかな表情をした甲太郎が俺をまっすぐ見つめていた。
「甲太郎…ありがとう」
この言葉が、どんな感情で出たのかは俺にもわからない。
「そうだな…俺も…。いや、まだすべてが終わったわけじゃない。気を抜かないようにするんだな」
無言で頷くと、甲太郎はゆっくりと瞳を閉じ、またゆっくりと開いた。
いや、実際は普通の瞬きだったのかもしれない。
「さて…これからどうする?」
「もちろん奥へ行くさ」
問いかけに自分でも驚くほど冷静に即答をしていた。
まるで俺ではない誰かが俺の唇を動かしているかのようにも感じる。
「ああ…そうだな。お前はその為にこの学園へやってきたんだ」
無意識に踵を返そうとした俺を甲太郎が制す。
「ちょっと待ってくれ。アロマの火が消えちまった」
制服のポケットを探りマッチを取り出し、アロマに火をつける甲太郎を俺はぼんやりと見つめていた。
マッチの揺れる火が自分の心のように感じられる。
自分がこれ以上奥に進む為には、何をすれば良いのか確信を持っていた。
甲太郎がこれから何を語るのかも承知の上でこの場所に留まっている。
懐かしい表情で初めて出会った日を語り終わると、ゆっくりと目を開き俺の方を向く甲太郎。
「……!」
今まで、何をしてもその顔を歪ませる事はできなかった。
ベッドの上で、無理をさせても。
強姦まがいの事をしても甲太郎を壊す事ができなかった。
なのに、今になってお前は俺にそんな表情を見せるんだな。
2004年12月24日 午後11時56分
「お前…」
甲太郎が歪んだままの表情で俺を…いや、俺の下半身を見つめていた。
その視線の先を見ると、制服のズボンを持ち上げる俺自身が目に入る。
自分でも気づかなかった。
ここへ潜る前に甲太郎を抱いた後なのに、今また俺は甲太郎に興奮している。
あまりにも似つかわしくない存在に俺の唇からは自然に笑い声が漏れた。
「ふふっ…ははっ…俺、馬鹿みたいじゃね?」
笑いながら、一歩一歩後ろに足を進める。
探索用のベストを脱ぎ捨て、頭につけていた暗視ゴーグルも床に投げた。
「本当にな」
甲太郎も笑う。
いつもの微笑みとはどこか違う。
両肩に吊るしていたガンホルダーも外して床に落とした。
ぎゅっと拳を握りしめ、床に視線を落すと瞳をゆっくりと閉じる。
―トクンッ…トクンッ…−
少しだけ通常よりも速く脈打つ心臓の音を聴きながら、ゆっくりと顔を上げて瞳を開く。
そこには“天香学園生徒会副会長”が最後の部屋を護る為に立ちはだかっていた。
「さあ、始めようか?」
end |
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