■恋したくなるお題 15. 痛む場所にキスを  (九龍×夷澤) 水天宮拓仄

 砂で覆われた階層を攻略した九龍は負傷した凍也を連れて墓を後にした。
 墓守としての能力や治癒力を持ってしても、負った怪我がすぐに回復するほどの力はない。
 まして九龍の攻撃は銃火器であり、普通の人間が受けたら死に至るほどの怪我である。
「凍也、大丈夫か?」
「…大丈夫なわけないでしょ。あんたがやっておいて、よくそんな事が言えますね」
 肩を貸してもらってもやっと立っているような状態の凍也を心配そうな表情で見つめたが、
それは憎まれ口と共に跳ね返ってきた。
「あの場合はやらなきゃ仕方なかっただろ?悪かったって」
「だいたい丸腰のオレに銃なんて使って卑怯じゃないっすか」
 ファントムとして負け、夷澤凍也として挑んでも負けた事を武器の違いだと言うのだ。
「お前だった墓守の力とか使ってんじゃん。俺は普通の人間なんだぞ、武器くらい使うさ」
「それにしても銃は反則っすよ」
 唇を尖らせながら寮への道を片寄せあって歩く二人の顔には笑みも浮かんでいる。
 口では文句を言い合いながらも、勝負を終えてさっぱりとした気持ちが強いのだ。
「はいはい。責任もって手当てしてやるから、俺の部屋まで来いよな」
「当然っすよ。オレは学校を休むわけに行かない身なんで」
 凍也は頬を赤らめた。
「ん?どした?」
「なんでもないっす」
 凍也は勝負を持ちかける前にあることを決心していたのだ。
 普段は九龍が一方的に凍也への好意を押し付けてくるような印象があるが、実は彼らは両想いである。
 ただ、凍也が素直に自分の気持ちを認めることができずに今だに九龍は自分の片想いだと思っているふしがあった。
 二人きりになった時、何度か迫られた事があったが九龍は一線を越える前に“冗談だよ”と止めてくれるのだ。
 いっそ、強引にでも一線を越えてくれたらと思った事があった。
 だがプライドが邪魔をしてなかなか素直な気持ちを伝える事ができずに、今日の日を迎えてしまった。
 そして、凍也はある程度は覚悟していた。
 自分が全力で勝負を挑んでも、九龍には勝てないだろう…という事実を。
 そんなわかりきった勝負の行方にきっかけを求める自分を愚かだとも思う。
 だが、自分の担当する階層は最下層に近い。
 九龍はあと数日のうちに最下層までたどり着くだろう。
 後に控える生徒会長の阿門や化人に勝って生き残るとは限らないし、
勝ったとしてもすぐに姿を消してしまう可能性だってある。
 この機会を逃すと一生後悔すると決意したのだ。


「さ、入れよ。ちらかってるけどベッドの上は綺麗だからさ」
「お邪魔しま…す」
 床に散らばった遺跡で見つけた秘宝や教科書の上を気にせずに歩き、
凍也をベッドに腰かけさせると窓際に置いてあった大きな箱の中を探っている九龍の背中を見つめた。
 改めてみると、やはり自分よりもだいぶ大きな体つき…この大きな体が信じられない速度で動くのだ。
 たとえ、九龍が銃を使わなくても自分は勝負に負けていたと思う。
 ボクシング部でのスパーリングでも凍也の拳が九龍を捉える事は無かったのだから。
 おそらく九龍が墓での勝負で銃を使ったのは、凍也のプライドを保つ為だったに違いない。
 ―銃を使ったから俺は勝てたんだよーと彼は言うに違いなかった。
「よし、救急セット見つかったぞ。さ、ズボン脱げよ。脚に攻撃集中させてたから、だいぶ酷い傷のはずだ」
「…」
 ベルトを外し、痛む足に耐えて腰を浮かすと素直にズボンを下ろして素足を九龍の眼前に晒す。
「お前の肌白いんだな…こんな綺麗な脚に傷つけちまってごめん」
 申し訳なさそうな表情を見せ、お湯で湿らせたタオルで傷口やその周辺を優しく拭う。
「…っ」
「痛むか?」
「…い…痛いです」
 “痛くない”と言おうとしたが、寸前で思いとどまって言い直した。 
 素直な気持ちを伝えるのは今しか無いのだ。
「傷口綺麗にして傷薬ぬるからな…っと薬が切れてら」
 救急セットの中をかき回して困った顔を見せる九龍を見つめ、凍也は意を決して言葉を発した。
「そ…そんなの舐めておけば治りますよ」
 かぁっと真っ赤な顔をしながら目を合わせないように横を向きながらも、それだけをやっと口にする。
「舐めるって…お前、体硬いくせに何言ってんの?」
 クスクスと笑いながら九龍が顔を上げると、そっぽを向いて真っ赤に染まる凍也が視界に飛び込んできた。
 ドキリと心臓が高鳴る。
「俺に舐めて欲しいって事?トーヤ」
 高鳴る心臓を悟らせずに九龍はイヤラシイ笑みを浮かべて凍也の太腿を掌でゆっくりと撫でた。
 そのくすぐったい刺激に凍也の体がびくりと震える。
「ね、凍也?俺にどうして欲しい?」
「…い、痛いんですセンパイ…脚もココもココも。だ…から、痛い所に…」
 脚の次に胸を押さえ、最後の唇に手を触れさせた凍也は九龍の顔を見ることができない。
 精一杯、自分の気持ちを伝えたつもりだった。
「痛い所にキスが欲しい?」
「は…い」
 小さく頷いてベッドの下から自分を見上げてくる九龍の方をチラリと盗み見た。
 てっきり、いつもの笑みを浮かべていると思っていたのに九龍は思いのほか真剣な表情を見せ、
ゆっくりと両手で凍也の右足を恭しい態度で持ち上げて唇を落とす。
 つま先、足首、ふくらはぎ、膝、太腿に唇を這わせていく感触に凍也はどうにかなりそうな気分を味わっていた。
 今までのセクハラのような触り方ではなく、壊れ物を扱うような優しさを感じる。
 ドクリと血流が体の中心部に集まるのを感じる、
同じように左足にも唇を受けて全身が小刻みに震えて力が入らなくなっていく。
 両肩に九龍が手をかけて後ろへ向かって力を少し加えただけで、なんの抵抗も無く体をベッドに横たえさせた。
 頭の中が真っ白で何も考えられない。
「ここも痛いんだったよな?」
 横から腕を伸ばしてきた九龍が指ですっと唇をなぞって覗き込んできた。
「痛いっす、センパイ」
 ゴクリと喉を空気が通り上下する。
 心臓の音がやけに細かくを刺激していた。
「俺のキスは効果抜群だよ」
 魅力的な笑顔を浮かべ、それに見惚れているうちに顔が接近してくる瞳が閉じられない。
「馬鹿。ここは目を閉じるところだろ?」
 クスリと笑うと左手で凍也の瞼をそっと押さえつけて唇を落とした。
 柔らかな唇の感触を楽しみ、唇を舌で優しく舐めるとそのまま口の中を犯すように深く口付ける。
 クチュリと湿った音が部屋に何度も響き、その音でさえ凍也は興奮していた。
 ぎゅっと九龍の背中を握り締め、必死に舌の動きをあわせる。
 しばらくして唇と瞼を解放された凍也は恐る恐る瞳を開けると、そこには頬を上気させながら微笑む九龍の顔。
 濡れた唇がやけに艶かしい印象を受けた。
「もう、痛くないか?」
「は…はい」
 口から心臓が飛び出そうな感覚を抱えながら凍也はそれだけをやっと口に出す。
「そっか。でも、今度は俺もココが痛くなってきたんだ。凍也、治してくれるか?」
 自分の唇に指で触れる九龍に凍也は両腕を伸ばしてぐいっと引き寄せた。
 不器用に先ほど交わした口付けを思い出しながら夢中で九龍の唇を貪る。
「センパイ…オレもまだ痛いです」
 一瞬離した唇の隙間で呟くと、今度は九龍が凍也を引き寄せていた。


End