■恋したくなるお題 24. ごめんね ありがと さようなら (九龍×夷澤←皆守) 水天宮拓仄

 ずっと九龍が目指していた遺跡の最奥に俺達は向かいあっている。
 九龍の後には「手を出すな」と言い聞かされて不満そうな顔を浮かべ、
俺達を見つめる生意気な後輩が腕組をして佇んでいる。
「甲太郎・・・」
 申し訳なさそうな表情で九龍が俺の顔を見ていた。
 言い難いなら促してやる。
「いいぜ、遠慮はいらない。言えよ」
「俺は、お前とはずっと親友でいたかった。それは今も変わらない」
「無理な相談だな。それはお前もわかっていたはずだ」
「それは・・・そうだけど。俺達はそれだけじゃない」
「ははっ!今までずっとわかっていたくせに、お前は親友のふりをし続けた。
俺の気持ちを知っていながら見ない振りをしていただろう?」

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 秋から冬に移り変わり始めて、九龍はすでに遺跡の九割を解放していた。
 今や九龍を慕う人間は学園中に増えている。
 生徒会と一人で立ち向かう<<転校生>>の力と魅力に生徒達は魅せられていた。
 それは遺跡を守る役目を負った者達も例外ではなく、
生徒会に所属する人間までも九龍と行動を共にするようになっていた。
 生徒会副会長補佐の夷澤凍也と九龍は同じ部活という事もあり、だいぶ親しい間柄になっている。
 周囲を決して近づけなかった凍也が変わっていくのを一般生徒達も歓迎していた。
「センパイ!今日こそ、オレの足元に這いつくばらせてやるっ」
「まだまだお前にやられるほど落ちぶれてないよ」
 昼休みになると三年の教室にも物怖じせず入ってきては、九龍と昼食を食べたり、
ボクシングや勉強の話を楽しそうにしていく後輩。
 いつものように机につっぷして、二人のはずむ会話を耳にしていると体中がザワザワとする。
 屋上へ行く気にもなれず、昼食も食べないまま、午前の授業中からずっと同じ体勢だった。
 さすがに九龍が甲太郎の様子が気になったのか、振り返って声をかける。
「コータ、昼飯食べないのか?金無いなら貸してやってもいいぞ」
「いい。腹減ってない」
 枕にしていた自分の腕から顔を上げてギロリと瞳だけで九龍を睨み、
自分に向かって正面を向いていた凍也にも同じ瞳を向けた。
 敵意に満ちた視線を受けて凍也は眉間に皺を寄せながら、強い視線を甲太郎に返してきた。
「体調でも悪いのか?なんか顔色もよくないぞお前」
「いいから、放っておけよ!」
「何怒ってんだよ・・・なんか変だぞ?」
「別に怒ってねーから気にすんな。俺は・・・」
 顔を完全に上げて九龍を見あげた視界に、怪訝な顔をした凍也が入り、
かぁっと体の血が顔に集まるような感覚を味わう。
 これ以上、ここにいるのも辛くなって甲太郎は椅子から立ち上がった。
「保健室行って寝てる。帰りに声かけてくれ」
 もう午後の授業は完全にさぼるつもりで甲太郎は荷物を手に持ち、教室の出入り口へ向かう。
 凍也が座っている横を通ると、チラリと自分を見上げる目線を感じたが無視して廊下に出た。

 九龍と出会ってから、監視のつもりで近づいたが、
共に行動しているうちに彼の魅力に惹かれている自分に気づくのは早かった。
 過去の辛い感情が自分の中に蘇り、九龍に対する感情はすぐに自覚した。
 特殊な環境で生活し、生徒会という柵に囚われているせいなのか、
同姓に特別な感情を持っても「不自然」だと思わなかった。
 だが、この感情は封じ込めなければならない。
 どんなに気持ちを伝えて、伝わったとしても、甲太郎は九龍と最後まで共にいることは許されない。
 途中で倒れたとしても、最後までたどり着けたとしても結果は同じなのだから。

 廊下に出て大きな息を吐く。
 直後に凍也の声が耳に届いた。
「今日は部活に出るって言ったじゃないっすか」
「うーん、でもコータ本気で具合悪そうだったからなぁ。寮まで送ってやらないと」
「じゃあ、部活どうするんすか?」
 二人の会話だけが甲太郎の耳に届く。
 教室や廊下は昼休み中の雑踏があるのに、なぜか二人の声だけを敏感に捉えてしまう自分の鼓膜が呪わしい。
「拗ねた顔すんなよ、ったくお前は俺の事大好きだよな」
「な・・・なっ!!そ、そんな事無いっすよ!」
 ガタガタと大きな物音がしたと思うと、バタバタと足音が近づいてきて廊下に小柄な少年が飛び出してきた。
 まだこの場所に留まっていた甲太郎を驚いたような、怒ったような表情で見つめる凍也の顔は真っ赤になっていた。
「・・・まだいたんすか皆守先輩」
「悪りぃかよ。お前こそいいのか、まだ昼休み終ってないぜ」
「なんだっていいでしょ!オレの事なんか興味ないんじゃないっすか?」
「ああ、興味ないな」
 二人の険悪な空気を感じ取った生徒達が遠巻きに見守っている中、二人の睨み合いは続いた。
 先に視線を逸らしたら”負け”だと思っているせいもある。
「九龍さんのダチだからって、オレにそんな態度取ってると今に痛い目にあいますよ先輩」
「そんなつもりはねぇよ」
「だったら、その反抗的な目をなんとかしてもらえませんかね?」
 ずいっと進み出てきた凍也の目線を受け止め、
更に口を開こうとした甲太郎は教室からこっちに向かってくる九龍を認めて踵を返した。
「悪かったよ。帰り、迎えに来なくていいって九龍に伝えておいてくれ。じゃあな」
 荷物を持っていない右手を上げて、痛いほどに睨みつけてくる凍也をその場に残し保健室へ向かった。


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「お前が俺に好意的だったのは出会った頃から知ってた」
「俺の好意をお前は利用した」
「違う!」
「お前はかなり早い段階で俺が生徒会関係者だと気づいていたはずだ。態度には表さなかったがな」
 唇をかみしめると口の中に鉄の味が広がる。
 両の拳を握り締めると爪が掌に食い込み、鈍い痛みが広がった。
 こうでもしないと何をわめきはじめるか自分自身でもわからない。
「生徒会に関係ある俺と親しくなれば、遺跡の解放も早くなるしな」
「甲太郎、なんでそんな風に考えるんだ・・・俺はお前の事を信じていた、その好意に甘えていた」
「なのに、お前は俺じゃない人間を選んだ」
 ジロリと九龍の後に控えている凍也を睨み、ちっと舌打ちをしたが今回は強い瞳が返ってくる事もなかった。
 その事がひどく自分にとって屈辱的に感じ、一歩、二歩と後ずさりながら、戦闘に入る体勢を整える。
「どうしても俺達は闘わないとダメなのか甲太郎」
「当然だ。俺は副会長だぜ。そしてお前は墓を荒らす侵入者」
「俺がお前の気持ちを裏切ったから?」
「・・・違う。これが俺の義務だからだ」
「わかった」
 すっと視線を落とした九龍の表情に心臓がドクリと高鳴る。
 こんな時にも、この男に魅了されてしまう自分の愚かさに笑みがこみ上げる。
 唇の端を上げ、堪え切れなかった声が広間の中に響いた。
「甲太郎」
「くくっ・・・なんだ?」
「ごめんね、ありがと・・・さようなら」
「ああ」
 九龍の言葉が合図となって俺は両方の足を使って、軽く跳躍を踏む。
 滲み始めた視界の中で、九龍が武器を床に捨てるのが見えた。


end