■恋したくなるお題 27. 幼稚な気の引き方(九龍×夷澤) 水天宮拓仄

 ひょんな事で墓の地下で言い争った九龍と凍也は、寮や校内ですれ違っても視線すら合わせない。
 この二人が喧嘩する事は滅多に無く、だいたいが凍也が腹を立てて九龍が受け流すというスタイルだった。
 だが、今回の言い争いは少し質が違うようだと一番身近な甲太郎が気づくのは当たり前なのかもしれない。
 この頃は凍也と二人で探索に行く事が多くなり、
九龍が甲太郎を誘う事が減って喜んでいた矢先にメールが携帯に届いた。
「ったく、まだやってんのかよ」
 メールの文面を読むと今夜の探索に同行してくれと書いてあり、今日で連続三日目。
 自室でくつろいでいた甲太郎は約束の時間には、だいぶ早いがベッドから足を下ろして廊下に出て、
すぐ隣の扉をノックもしないで開ける。
 部屋の中では今日使う武器の手入れをする九龍が驚いた顔を見せた。
「お前・・・そんなもんいじる時は鍵閉めとけよ」
 呆れ顔で後ろ手に扉を閉めると、九龍の横をすり抜けてベッドに腰を下ろす。
「鍵しめたと思ったんだけど、開いてたみたいだな」
 失敗したという表情を見せて、手に持っていた銃を床に広げていた布の上に置き、
両手を天井に向けて体を伸ばす。
「お前ら、まだ喧嘩してんのか?いい加減にしろよ、ガキじゃねーんだから」
「喧嘩なんてしてねーよ」
「してんだろ?だから俺を呼び出してんだろうが」
 拗ねた顔をしてそっぽを向く九龍の頭を上から抑え付けてグリグリとかき混ぜる。
 九龍と墓の地下へ潜るのも残り僅かだと思うと、
こうして最初の頃みたいに付き合うのは嫌じゃなかった。
 だが、夷澤凍也の代わりに誘われている事実に腹が立つのだ。
「だって、今回はアイツが悪いんだよ。あっちから謝るまで終らねーよ」

 喧嘩の原因は些細な事だった。
 ある夜に二人で墓の地下へ潜って、浅い階層という事で
九龍と凍也は化人撃破数を争う事になった。
 同じフロアでどっちがより多くの化人を拳で倒せるかを競っていた時に、
ちょっとした油断で九龍が未解除のトラップにかかり傷を負った。
 その時に九龍が男の意地か何かで凍也の手当てを断った事から、
だんだん言い争いがエスカレートして、最後には目を合わせるのも不快になったとか。
 それを聞いた時の甲太郎はあまりの馬鹿馬鹿しさに、大きな溜め息をついたものだ。
 二人が喧嘩別れしてから二日目に同じクラスの八千穂に話してみたが、
彼女は明るく笑って「あの二人なら大丈夫だよ」と告げただけで、
自分も探索に誘ってくれるように九龍に頼んでいた程だ。

「喧嘩なんつーのは、だいたい両方悪いんだよ。お前の方から折れろ」
「嫌だね」
「意地っぱりにかけちゃ夷澤も相当だぞ。お前が折れなきゃ、
このまま口きかないまま卒業とかになっちまうぞ」
「べ、別に俺は平気だし。トーヤが仲直りしたいってのなら、してやらなくもないけど」
 見つめてくる甲太郎の視線から逃れるように布の上に置いておいた銃を手に取って、
解体されていた銃を順々に組み立てていく。
 いつもの手つきより若干覚束ないのは、甲太郎との会話で九龍が動揺しているせいだ。
「ったく、幼稚な気の引き方しやがって」
 ボソリと甲太郎が呟いた言葉を九龍が耳ざとく拾って、顔を上げて大声をあげた。
「うっさいな!だったら今日はいいよっ一人で行ってくるからっ・・・痛ぇ!」
 ガチンと金属同士がぶつかった音がすると、九龍の手から銃がゴトリと床に落ち、
敷いておいた白い布にポタポタと赤い斑点が滲む。
「おいっ血が出てんじゃねーか!」
「あちちっ余所見してたらドジった」
 バツが悪そうな表情を見せて、血が滴る左手の親指を咥えながら口元を歪めた。
 甲太郎はベッドから立ち上がると、勢い良く廊下に出てバタバタと走っていく。
 いつもマイペースな彼とは思えないほどの勢いに
取り残された九龍はぽかーんと口を開けて目をぱちくりさせていた。

 そして、しばらくすると再び廊下からバタバタと足音が聞こえてきた。
 その足音は甲太郎の者ともう一人別の人間がいる事に気づく。
 まさか、わざわざ保険医の劉瑞麗を呼んできたのかと驚いたが、その割には戻ってくるのが早すぎる。
 甲太郎が出て行った時と同じくらいの勢いで扉が開くと、
そこに立っていたのは息を切らせた夷澤凍也だった。
 床に座りながら親指を咥えている九龍を目にして、
がっくりと両肩を落とすと横に立っているはずの甲太郎の方に顔を向けたが、
彼はすでに廊下から自室に戻った後のようだ。
「トーヤ?」
「あ・・・み、皆守先輩にセンパイが大怪我したって聞いて、オレ・・・」
 かあっと顔を赤くしながら言い淀む凍也を見つめて、九龍は嬉しくなって自然と笑顔が浮かぶ。
「あははっ怪我って、これの事だよ。せっかく来てくれたんだし、中入って手当てしてよ」
「はい」
 気まずそうに俯きながら、救急セットが入れてある箱を漁る凍也の後ろ姿に九龍は声をかけた。
「トーヤ、この前の事だけどさ」
「・・・オレ、まだ許してないっすよ」
「うん。だから、俺が謝るよ。ごめんなトーヤ」
 笑いながら謝ると背後から凍也を抱きしめた。
 ビクッ全身を震わせて、それでも悪態をつく。
「全然、心がこもってないですね」
「ごめんなさい!」
「・・・まったく、あんたって人はガキみたいですね」
「俺がガキならお前もガキだよ」
 くくっと笑い声を漏らすと背中から回されていた九龍の腕を取り、
左手を自分の唇に引き寄せて親指をぺロリと舐める。
「うわっ」
「なんて声出してるんですかセンパイ」
「お前が急にそんな事すっからだろ!」
「消毒です」
 もう一度唇を寄せようとする凍也を右手で顎を掴んで強引に後ろへ向かせて唇を合わせた。


end


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