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| ■恋したくなるお題 28. ずっと君を見てたのに ( 九龍×夷澤 )水天宮拓仄 |
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今、夷澤凍也は温めの湯に浸りながら斜め前にあるシャワーの前で
砂だらけになった頭を洗い流す背中を不思議な面持ちで見つめていた。
さきほどまで二人は深い地下で闘いを終えてきたばかりった。
それなのにこうして仲良く風呂に入ったりしている。
「なんなんだ…この展開」
背中から視線を逸らして凍也はボソリと呟いて、先ほどまでのやりとりを顧みた。
地下からやっとの思いで這い出てきたのは、制服の上から風変わりなベストを身につけ、
頭にはこれまた変わった形のゴーグルをかけ、肩からはマシンガンに腰には日本刀をぶらさげた葉佩九龍だった。
その後から、気まずそうな表情をしながら傷ついた体を引きずって寒空の下に姿を表したのは夷澤凍也である。
二人の全身は、まるで砂漠を横断してきたのか?というほど服や髪、顔に至るまで砂まみれだ。
その後、九龍は凍也からの協力との申し出と仲間の証となっているプリクラを手渡され、寮へ帰ろうかと提案した。
「すっかり砂まみれだな俺達」
笑いながら服や髪についた砂を無駄と知っていたが、パンパンと払う。
九龍は顔を逸らし続ける凍也を振り返った。
「寮に戻って、一緒に風呂でも入るか?」
「なっ…な、なんであんたと風呂になんか入らなきゃなんないんすか?」
思いもよらなかった言葉に狼狽した凍也が墓を出てから初めて九龍の方を向いた。
「いや、だってこのままベッドになんて入れないし。別に二人で入ったって問題ないだろ?広いんだし」
そう言うと、先に寮へ向かって歩き出す九龍を小走りに追いながら凍也は抗議の声をあげる。
「だってオレ達、さっきまで闘ってたんすよ?オレはセンパイを殺そうとして、センパイはオレを殺そうとして!」
「何言ってんの?俺はお前を殺そうだなんて思ってないよ。お前が俺を本気で殺そうとしてたとしてもな」
歩きながら語る九龍の背中を見つめ、その言葉に嘘がないと確信すると凍也は視線を自分の足元に落としていた。
自分は、本気で殺そうと思って闘っていたのだろうか?
口ではそう言っているし、心の中でも何度もそう思っている。
だが、本当に目の前を歩く男が死んだところなど想像したこともない自分にも気づいていた。
「それに、お前が俺を本気で殺せるとは思えないしね」
その言葉がズシンと心に杭を打ち込んだ、そして一気に頭に血が昇ると凍也は九龍に向かって走り出した。
前を歩いていた九龍の前に回りこむ。
両手で胸倉を掴むが身長の違いで、目一杯両腕を上にあげても九龍のかかとが地面から浮くこともない。
そんな所にまで、頭に血が昇っている凍也には疎ましく思えてくる。
「オレは本気であんたと殺したいと思ってる!今だってそうだ!」
「へぇ?」
とても本気にしているとは思えない表情と口調の九龍を睨みつけてギリっと唇を噛んだ。
自分は葉佩九龍を殺したいと思っていたはずだ…いや、今だってその気持ちに変わりはない。
だが、この男が自分の足元に血まみれで倒れるような様はどうやっても想像できなかった。
それは、心の奥では自分では無理だとわかっているから?
それとも、そうしたくない自分がいるのか?
「だから、いつだって挑んでくればいい。ボクシング部にだって毎日顔出すしさ。
これから一緒に墓に潜る機会だってあるんだ、その時に隙を狙ってもいい」
制服を掴まれた両手にそっと手を添えて、軽く掴むとたいした抵抗も無く凍也は胸倉から手を離した。
「くそっ!その余裕がむかつくんだよ!」
掴まれたままの手を振り払うと寮に向かって早足で歩き出す凍也。
九龍はしばらくその場で凍也の背中を見つめ、小走りで追いつくと首に腕を巻きつけて自分にひきつけた。
「なっ!なんなんだよ、一体!」
すっかり口調がタメ口になっている事に目を細めながら九龍はにっこりと笑った。
「ま、さっきのお前は正常じゃなかった。だから、あの勝負は無効さ。今後もお前の挑戦を断る事はしないよ、俺。
だから、とりあえず今は一緒に風呂へ行こうぜ?」
一方的に決められて凍也はそのまま九龍に捕まった状態で寮まで帰るはめになった。
二人でそれぞれの部屋へ移動して着替えやらタオルやらを持つと、今は一緒に風呂場の脱衣所にいた。
「センパイ…さっきの話ですが、本気で言ってるんすか?」
「ん、さっきの話って?」
汚れた制服を脱いで、軽く砂を払いながらまだ服に手もかけていない凍也を振り返る。
「いつでもオレとの勝負をするって話」
「ああ、あれな!もちろんだよ。お前との勝負は面白いからな」
“面白い”と言われた事に多少カチンと来たが、九龍の実力がそれだけの事は認めている。
実際、ボクシング部でのスパーリングでも凍也が九龍に拳を当てた事は一度もなかった。
だが、それでも初めての手合わせの頃に比べれば九龍もそれなりに凍也の拳をかわす事に真剣になってきているのはわかる。
最初の頃は、スパーリングを終えた後に汗もかかずに呼吸も乱さなかった九龍だったが、
最近は額に汗を浮かべて肩で息をするようになっているからだ。
「センパイが卒業するまでには絶対に勝ってみせますからね」
「……そうだな。楽しみにしてるよ」
変な間が入り、その瞬間に少し寂しそうな表情をする九龍。
だが、着ていたシャツに手をかけて背中を向けた凍也にはそれは見えなかった。
「その余裕たっぷりな態度も今にとれなくなりますよ」
自信たっぷりに言い放つ凍也は服も下着も一気に脱ぎすてて、脱衣所から風呂場へ続く扉を開けて中に消えていった。
「うん・・・間にあうといいな」
扉を見つめながら、シャツや下着を脱ぐと九龍も風呂場へ向かった。
中へ入るとすでに凍也はシャワーで髪を洗っている。
その隣りに腰をかけて、シャワーのコックを捻った。
熱めのお湯を全身に浴びて砂を洗い流し、小さいが新しく作った傷口を洗い流しながら凍也を横目で見つめる。
小柄で華奢に見えるが、ボクシングをやっているせいか筋肉が良く発達している肉体。
腹筋を見てもそれは明らかで、普通の高校生とは比べ物にならない。
それは、彼が今まで努力してきた結果なのだ。
努力してきた事によって、凍也は自分の力に自信を持っているのもわかっている。
九龍もそれなりの努力はしているが、特殊な訓練を施されたせいで自分が身につけた技術は通常の格闘技の上をいく。
その事を承知の上で九龍は凍也に何も告げずに勝負を受け続けていた。
力を何よりも欲する凍也に自分が何をしてやれるかと考えた時、勝負を挑みつづける凍也を実戦で鍛える事。
それが自分の愛情表現だと思ったからだ。
思わず形の良い腕の筋肉を指先でなぞってみた。
「うわっ」
なぞった瞬間に全身を跳ね上がらせて凍也が隣りにむかってギロリと視線をあげた。
眼鏡が無い今は隣りに座っている人間の顔は見えていないはずだが、今この場にいるのは一人しかいない。
「いきなり、何するんすかセンパイ!」
目にシャンプーが入ったのか、慌てて温めのシャワーを顔から浴びて瞬きを繰り返す。
「ごめんごめん。お前がセクシーだったからさ、ついつい手が出ちゃった」
笑いながら言い放った九龍を見えない目で軽蔑の色を浮かているのがはっきりと見て取れる。
「やっぱりセンパイって変態だったんすね…」
「失敬な!俺はお前だけ見てるんだ!それのどこが変態だ!」
「十分、変態じゃないっすか!」
早くこの場から離れようとしているのか、凍也は手早く髪についた泡を洗い流し
全身をシャワーで流すと浴槽の方へ逃げるように立ち去ってしまった。
「俺が茂美みたいに節操無しに誰かれ構わず言い寄るタイプに見えるのか?」
濡れた髪にシャンプーをつけてガシャガシャと洗いながら浴槽に向かって声をかける。
「見えますね!あんたは誰にでもいい顔してるじゃないっすか」
「あれ、ヤキモチか?俺はずっとお前だけを見てたのに」
今の言葉は九龍としては本気だった。
だが、それを悟れるほど凍也は鋭くない。
「ふんっよく言う」
凍也が鼻で笑った気配を感じて九龍は唇を歪ませ、頭から熱いシャワーを浴びた。
―それでいいんだ。あと数日で俺は居なくなる人間なんだから…。
End
※この小説はリクエスト交換で春花さんへお贈りさせていただきました。 |
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