■ バレンタインデー小説 『 promise? 』 水天宮拓仄

「ねぇねぇ、あの人かっこいーよ。声かけてみようよ」
「え〜でもぉ」
 周囲にざわめく小鳥達に軽く視線を流し、おまけに抜群の笑みを送ると奇声が周囲に響く。
 暗い色の衣服を身に着けた長身の男が遠くから近づいて来きた人物に気づくと軽く手を上げた。
「トーヤっこっちこっち!」
 上げた手をぶんぶんっと振ってまだまだ遠くを歩いている夷澤凍也を大声で呼ぶ。
「・・・・っ!」
 自分を呼ぶえらく目立つ男の存在に気づいた凍也は、顔から首まで真っ赤にして全力失踪で駆け寄ってくる。
「セ・・・センパイっ大声で呼ばなくたって!恥かいちまったじゃないっすか」
 先ほど九龍に声をかけようとしてた小鳥達が、くすくすと笑っているのを目にして随分高い位置にある九龍の瞳を見上げた。
「悪い悪い、お前に会うのも久しぶりだったから嬉しくてさぁ」
 全然反省していない九龍を目の前に凍也は大きなため息をつき、相変わらずの”センパイ”に会えた事が何よりも嬉しい。
「ったく、一体なんなんです?外出許可取るの大変なの知ってるっすよね?」
 ここは、新宿にある中央公園内。
 周囲は恋人達や多くの女性達で賑わっていた。
 今日はバレンタイン・デー。公園内は、プレゼントを男性に渡す女性の姿が多いようだ。
「仕方ないだろ、俺は天香学園には入れない身だし・・・」
 そう、九龍は昨年のクリスマスを境に学園内から姿を消した。
 それ以来、凍也の心にはぽっかりと穴があいたが、日々は平穏に過ぎて・・・。
 そして数日前に、凍也へ一枚のメッセージが届けられたのだ。
ー2月14日 中央公園にて待つ。 九龍ー
 メッセージを受け止めた凍也は学園に外出届けを提出し、九龍と会う為に公園へ来た。
 2月14日世間はバレンタイン・デー。
 この日が指定された事は、凍也にとって何を意味するのか・・・期待してはいけないと思いつつ、
凍也は九龍の言葉を期待せずにはいられなかった。
「な、何言ってんすか。あんたは、どこでも勝手に入りこんでくるくせに」
「えー?そんな事ないだろ、人を泥棒か何かと一緒にすんじゃねぇよ」
 そう言うと九龍は、会った時から気になっていた紙袋に視線を流すと、それに気づいた凍也がさっと自分の影に隠した。
 頬を赤らめ、上目遣いで自分を見つめてくる凍也に極上の笑顔を見せると、紙袋を持っていない腕を掴み歩き出す九龍。
「ちょ、ちょっと、センパイ?どこ行くんすか?」
「いーから、いーから」
 腕を掴んだまま長い脚ですたすたと歩く九龍と、リーチの差で駆け足になる凍也。
 公園を横切って人もまばらな通りに来ると、九龍が突然凍也に抱きついた。
 屋外で突然の事に咄嗟に抵抗もできない凍也を抵抗される前に解放すると九龍は手に持っていたカバンから小さな箱を取り出して、凍也の前に差し出した。
「な・・・なんすか、これ?」
 先ほど抱き締められた事を攻める前に差し出された小さな箱。
 うまく九龍に反撃を封じられたとは自覚できずに、凍也は目を丸くして指指すとクスリと九龍の唇から笑いが漏れた。
「はい。凍也にバレンタインのプレゼントっ俺から愛をこめてな」
 片目を瞑って魅力的な表情を向けられ、更に真っ赤な肌を晒すことになる。
「あ・・・ありが・・・とうござ・・・す」
 真っ赤なまま九龍から箱を受け取る。
 凍也が持った箱の蓋をあけて中身をひょいと持ち上げて、悪戯っぽく笑う九龍に心臓が高鳴る。
「俺の手作りvかわいーだろ?」
「・・・・・っ」
 大きな手、綺麗な指先に摘まれた自分そっくりなチョコレート・クッキーを見つめ凍也はコクリと小さく頷く。
 九龍からの気持ちを充分に感じ、不覚にも目が潤みそうになってくるのをぐっと堪えながらも、
 また、遠くへ行ってしまうであろう愛しい人を目に焼き付けたくてじっと見つめる。
「トーヤからは?」
「俺は・・・お、女じゃないっすから」
 バレンタイン・デーと言えば、”女性が好きな男性に想いを伝える日”と昔から決まっている。
 とは、言いつつも凍也は九龍へのプレゼントを用意していたが、どうしても自分のプライドが邪魔して素直に渡す事ができないでいた。
「なんだ〜そっか、残念だな。学園の女子にでも貰ったのか?お前、もてるもんな」
 チラリと凍也が持っている紙袋を見つめながらも、無理にそれを奪い取ろうともせずに九龍は凍也に背を向けて、足を踏み出した。
「あっ!」
「何?」
 立ち去ろうとした九龍を思わず呼び止めてしまった凍也は立ち止まって振り返った九龍の視線から思わず視線を逸らす。
「どうした、トーヤ。俺、もう行かないと次の仕事に遅れそうなんだよな」
 あきらかに会った時よりも声のトーンが低くなり、九龍の雰囲気が一変していた。
「せ・・・九龍さん。俺も・・・俺もあります」
 数歩離れた場所に立っていた九龍に今まで隠していた紙袋をボスっとたたきつけながら、目一杯背伸びをしながら唇を合わせた。
「俺、九龍さんが好きです!そ・・・卒業式、待ってますからっ」
 一方的に気持ちを告げ一方的な約束を九龍に残し、凍也は全力で九龍の前から駆け出した。
 押しつける約束の返事を今は聞きたくなかったから。
 また一ヵ月後に会える期待をして・・・・


Happy・・・?