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| ■ 『 二人だけの新年会(前編) 』 水天宮拓仄 |
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三ツ星ホテルの豪華な会場を貸し切って、一流レストランのシェフが腕によりをかけて作った料理の数々が並ぶ中、集まってきた人間はセレブ達…ではなく、まだ学生かと思わせるほどの若者達が十数名。中には、成熟した大人や老人と思われる人物も見えた。
会場に入る前に立ててある看板には、【葉佩九龍主催・大新年会】とある。
その看板の前に一人、拳を震わせながら立ち尽くす小柄な青年…いや、少年がいた。
「…だ、こりゃ」
着慣れないスーツに身を包み、手には脱いだばかりのコートとマフラー。ほとんど会う事のない先輩から突然の招待を受け取ったのが一週間前。
コート類を持っていない方の手で懐を探り、一枚の紙切れを取り出し確認する。
(トーヤへ。来年の1月1日に×××××ホテルへスーツを着て来るように。 葉佩九龍)
ホテルは間違いない。来た事がない…というより、今後も来る機会がなさそうな高級ホテル。
あまりの豪華さに気圧されて凍也は入り口で尻込みをしていたが、ホテルの従業員に丁寧に中へ案内されてしまった。
「お客様、お荷物お預かり致します」
看板の前に立ち尽くす凍也に、斜め後方からホテルマンがにこやかに声をかけてきた。
「え…あの」
ホテルに来る機会は、今までほとんどない凍也はどう対応すればわからなかったのだ。周囲をチラリと見ると、他の客達は皆脱いだコート等をホテルマンに手渡しているのが見えた。
「あの、お加減でも?」
「あ、いえ。お願いします」
コートとマフラーをホテルマンに手渡す。受け取ったホテルマンは、綺麗な身のこなしでロビーの方へ立ち去って行った。
次に現われたのは、女性のホテル従業員だった。にこやかに夷澤に一礼すると、よどみなく言葉をつむぎだす。
「パーティーの時間は間もなくでございます。会場までご案内させていただきます。どうぞ、こちらへ」
案内されて会場内に入った凍也は目を見開いた。
「夷澤クン!久しぶりー!」
ドレスに身を包んだ女性がパタパタと駆け寄って手を取った。普段なら、すぐにでも振り払う凍也だったが、イマイチ今の状況に反応できてない。
「や…八千穂先輩?」
綺麗に化粧を施し髪も自分が知っていた頃とは違い、背に流されていた。
「来てたんだな、夷澤」
八千穂の後から現われたのは、天敵と言っても過言ではない皆守甲太郎、その人だった。
「俺が来ちゃ悪いんすか?皆守先輩」
むっとしながらも、いつまでも手を離さない八千穂に気づき、そっと手を離す。
そして、改めて周囲を見渡す。どうやら、あの人が学園で暗躍していた頃に仲間となった人間が勢揃いしているようだ。
皆それぞれに正装に身を包み、他の仲間達と談笑している様子に夷澤は眉間に皺を寄せた。
(俺だけじゃなかったのかよ)
その凍也の心を読み取ったかのように、目の前にいた皆守が口を開く。
「今日は九龍が主催する“天香学園・大新年会”なんだとよ。自分が過ごした頃にバディをした人間や協力者を呼んだらしいぜ」
「そうっすか…」
先ほどまでの好戦的な気持ちは消え失せ、一様に暗い気持ちが自分の心を支配しはじめた事が不快だった。
「お飲み物をどうぞ」
丸いトレーを片手に持ちながら、スラリとした女性が3人の間に入る。皆守・八千穂は先に自分が好むグラスを手に持つ。
「夷澤クンも早く取りなよ。乾杯はじまるから」
「はい…」
未成年だから酒が飲めないという堅苦しい事は思わないが、自分には酒が口に合わない事を知っている。
だが、この気持ちをどうにか落ち着けたくてグラスを手に取る。
グラスを持ち、グラスの中で揺れる液体を眺めながら凍也は皆守に向けて言葉を発した。
「で、主催者はどこにいるんです?」
「さあ?まだ来てないみたいだぜ?つうか、来れるかどうかも怪しいもんだがな」
それだけを告げると皆守は八千穂を連れ立って、会場の中央へ乾杯のために歩を進めていく。
会場の最奥に一段高くなったスペースがあり、そこには去年まで畏怖していた、元生徒会長の阿門がグラスを持ち、高く掲げた。
会場の所々でカンパーイ!という歓声が上がり、一瞬の沈黙の後に拍手が巻き起こる。
それを横目に凍也はグラスを唇に運び、一気に中の液体を喉に流しこんだ。
「…なんのためにっ」
グラスを荒っぽく近くのテーブルに置く。その音に気づいたのか皆守が凍也に視線を流したが、それには気づかないふりをして会場を出た。
自分はなんのために帰省する予定までキャンセルして、このホテルまで来たのだろう?
ほんの1年前にいなくなった人に会いたい為だった。
それだけの為に、スーツを買い、スーツに合うコートやマフラーまで買い揃えた。
怒りと哀しみを色濃い表情を浮かべながら、凍也はコートやマフラーも受け取る事もせずにホテルから出る。
冷たい風が凍也のほてった頬を掠める。ぶるりと身震いをして、帰路へ一歩を踏み出した。
「おっとっ」
「すみません……っ!!」
ほとんど足元だけを見て歩こうとした凍也は、一歩を踏み出した途端に人にぶつかってしまう。
咄嗟に謝罪の言葉を口にした。その後、顔を上げるとそこには信じられない人が存在して、一瞬にして時間が止まった。
「トーヤ、帰るのか?」
寒空の下、スーツには何も羽織っていない凍也を驚いた表情で見下ろすと、自分の首にまかれていたマフラーを凍也の首に巻いてやる。
自分と同じくスーツ姿の葉佩九龍その人であった。スラリとした長身に、真っ黒なスーツとゆるめたネクタイ、軽く羽織っただけのコートがイヤミな程に良く似合っていた。
一瞬、見惚れた凍也に、九龍のぬくもりが全身に広がった。
「トーヤ?どうした?具合悪いのか?」
何も言葉を発さない凍也に九龍は慌てたように、下から凍也の表情を覗きこむ。
「……っ」
「おい…トーヤ…」
俯き、肩を小刻みに揺らしながら凍也は泣いていた。ホテルの前、人通りもそれなりにある通り。
自分の弱みを他人にさらけ出して、凍也は九龍の前で泣いていた。
「セ…パイ」
九龍に巻いてもらったマフラーを両手で持ち、顔を埋めて幸せそうな表情を見せた凍也に、九龍の心臓が高鳴る。
「トーヤ、寒いからホテルへ戻ろう…」
「嫌で…す。もう、あそこには戻らない」
自分は、仲間同士で集まってパーティーなんてしたくなかった。
そこで仲間全員に笑顔や優しさを振りまく九龍を見るのが嫌だった。
九龍を自分だけのものにしたかった。
「わかったよ。じゃ、俺の部屋にでも行くか?」
「…はい」
九龍に自分の気持ちが伝わってしまったのかと一瞬頬を赤らめたが、凍也はマフラーに顔を埋め、それを隠した。
後編に続く |
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