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| ■ 『 二人だけの新年会 後編 』 水天宮拓仄 |
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九龍に連れて来られた部屋は、凍也には一生縁のなさそうな豪華な部屋だった。
ホテルの最上階を1フロア貸切の、いわゆる“スィートルーム”という所だ。
「どうした?入れよ」
勝手知ったるという様子で、九龍はネクタイを片手で取るといかにも高そうなテーブルの上に投げると、備え付けてある冷蔵庫を開けた。
「あ、はい…」
キョトキョトと部屋の中を見渡す様子を背中ごしに感じながら九龍の口元には笑みがこぼれた。
「ほんと、お前って可愛いよなぁ」
「センパイ…それ、誉めてないっす」
九龍は、冷蔵庫から洋酒と思われる瓶とグラスを二つ手に凍也の元へ歩を進め、グラスをテーブルに置く。
「ほれ、座れよ。とりあえず呑もうぜ。二人の再会を祝って」
「はい」
グラスに酒を注ぎながらソファに腰を下ろし、凍也を手招きする九龍は、憎らしいほどに決まっている。
この無駄に豪華な部屋に、違和感なく馴染める青年はなかなかいない。
「じゃ、乾杯」
カチンと小さい音をたて、グラスをあわせて酒を喉に流し込んだ。
「…っげほっ!つ…つよ…っ」
グラスをテーブルに置くと凍也は涙目になって咳き込む。目の前にいる九龍は、うまそうにグラスを傾けていた。
「あれ、そういえば…酒呑めなかったけ?」
「い…いえ…そいうわけじゃなくって…強すぎっすよ、この酒」
「そうか?うまいけどな」
唇からグラスを離してテーブルに置き、九龍はにっこりと笑った。その表情に凍也は胸が高鳴る。
「お前が来てくれてよかった」
「え?」
「正直、来てくれないかと思ったんだぜ?お前との約束が果たさなかった俺を許してくれないと思ってた」
少し俯き加減の九龍を見つめながら凍也は切ない気持ちに包まれた。今日は、九龍にその事を抗議する為に来たと思い出したのだ。
だが、九龍を目の前にして、言えなくなってしまった。
ただ会えた事が嬉しくて。
自分の気持ちを再確認して。
そて、九龍の気持ちを目の当たりにして。
「センパイ。ホントは、オレ、あんたに怒鳴ってやるつもりだったんだ…どうして、何も告げずに学園から去ったのか!なんでオレを残して行っちまったのかっ!って」
ソファから立ち上がった凍也はゆっくりと九龍の目の前に移動して、その場に膝をついた。
体を九龍の膝の間に滑り込ませて両手で九龍に抱きついた。
「でも…そんな事、もういいんです。こうしてまた会えて、触れる事ができたから」
立ち膝の状態で九龍に下から口付ける。
大人しく凍也の口付けを受けていた九龍の両手が、ゆっくりと凍也の背中に回されてぎゅっと力がこめられた。
「凍也…ごめんな」
「もう、いいんです…それより、センパイ…」
九龍の目を見つめてから、そっと瞼を閉じて顎をくいっと上げた。唇を少し開けて次の行為を九龍に促す。
それに応えるように九龍は、凍也の唇を奪った。
さきほどの触れるだけのキスとは違う。舌でお互いの口内を貪るような激しい口付けに、凍也は堪えきれずに声を洩らし、九龍にすがりついた。
「…あっ」
「凍也」
湿った音を立てて唇を離すと九龍は凍也の耳元で低い声でささやいた。
「おいで」
ソファに深く腰を落とし、九龍は両手を広げた。
広げられた両手、自分を受け止めるために開かれた胸。すべてに凍也の動悸が跳ね上がる。
ネクタイをぐいっと強引に緩め、スーツのボタンを外して九龍の胸に飛び込んでいった。
ソファの上で乱れた着衣のまま、九龍と凍也は黙ったまま抱き合っている。
「…そういえば、下の連中に顔見せてなかった」
ボソリと呟く九龍にぎょっとした表情を見せる凍也。
「まさか、今から行くとか?」
「う〜ん、やっぱり主催者が顔見せないってのは変だろ?俺が皆を呼んだんだし」
ソファから立ち上がってはだけたシャツのボタンを留め、ネクタイをしめなおしながら、絨毯の上に落ちたジャケットを薄暗い部屋の中で探す。
思わず凍也も着衣の乱れを直し始める。そして、ある事に気づいてその手が止まった。
「センパイ…オレ達、ぐちゃぐちゃっすよ」
着衣にまったく気を使わないまま抱き合ったものだから、二人のスーツは見るも無残な姿になっていた。どこもかしこも皺だからけ。
「ま…いいんじゃねーの?集まってるのは仲間だけだしさ。さ、行くぞトーヤ」
「ちょっちょっと待ってくださいよっセンパイ!」
ヨレヨレのスーツを身につけた二人。
二人で何をやっていたのかと仲間達に突っ込みを入れられるのは、この後数分後。
何食わぬ顔で事実を告げようとする九龍と、それを真っ赤になりながら必死で止める凍也の姿が葉佩九龍主催のパーティー会場にあった。
The end |
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