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| ■ 『 あなたしか見えない 』 水天宮拓仄 |
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※この小説は、参加中のSNS「cris」内のあしあとキリリクにて書いた小説です。
crisにて天月さんへ献上済み。
墓守りの役目から夷澤凍也を解放した。
戦いで疲労しきった体を引きずりながら、九龍と凍也は互いを支えあいながら
月の見える外へ這い出てきた。
月を見上げ、目の前に立つ九龍に照れ笑いを向けながら凍也は生徒手帳を取り出し、
無造作に自分のプリクラをはがす。
「これ、可愛い後輩からのプレゼントっす!
何かあったらオレも協力しますから、いつでも呼んでください」
「トーヤ、いいのか?俺にプリクラ」
いくらクラブ活動で親しい間柄になっているとはいえ、凍也は生徒会役員の幹部だ。
墓を荒らす自分とは敵対している者同士、さっきまで本気で殺し合いをしてきた。
そして、負ける事が何よりも屈辱と感じるはずの凍也が自ら協力を申し出るとは予想していなかった。
墓から外に出るまでの間中、九龍はどうやって凍也を仲間にしようかと考えていた位である。
「別にいいっすよ・・・センパイが要らないなら、捨てても結構っすから」
少し上目使いで見上げられて、思わずその視線から逃れるが、
ここで何か言わないのも自分らしくない。
「ああ、じゃあコレはありがたくもらっておくよ。
お前のプリクラ貴重だもんなぁ!なんせ、プリンスだし?」
凍也の指先から、プリクラを受け取りニヒヒと笑みを浮かべて、
自分の指先にあるプリクラをじっと見つめ、にやける九龍。
「誰がプリンスだ!も・・・マジ要らないなら返してくださいよ!」
手を伸ばす凍也が届かないように手を上に上げ、ヒラヒラとプリクラを指先で揺らす。
その時、強い風が九龍の指先をかすめた。
「あっ!」
「ああ!」
2人はほぼ同時に叫んでいた。
凍也のプリクラが風に飛ばされ、あっという間に見えなくなってしまった。
この暗闇で、あの小さなシール1枚が宙に舞う姿を追うのは至難の業。
「あーあ、せっかくのプリンスが・・・」
「だからプリンス言うな!って・・・オレのプリクラどうしてくれるんすか?
誰かの手に渡ったら・・・オレ、どうすりゃいいんです?」
自分よりもだいぶ背の高い九龍の胸倉を、背伸びをするような形で
掴みゆさゆさと揺さぶる凍也は、墓場で怒鳴り散らした。
「おいおい、声でかいってトーヤ。先生達に見つかったら、お前も立場上良くないだろ?」
「そ、そりゃそうっすけど・・・オレのプリクラ、あれが最後なんすからね!」
「え、そうなのか!それ、早く言えよ!」
「センパイが悪いんじゃないっすか!」
キャンキャンと吼える凍也に両手を広げて”どうどう”と沈める仕草を繰り返し、
九龍は得意そうな表情で笑った。
「なんすか?急に気持ち悪いっすねセンパイ」
「ふっふっふ、君は忘れてないかね?この俺様の職業はなんだと思ってるんだい?」
胸を張り、凍也に自信たっぷりな笑顔を向け続ける。
そう、葉佩九龍は今や一流のトレジャー・ハンターに名前を連ねていた。
「センパイの職業?ただの墓荒らしじゃないっすか」
ーボグッー
鈍い音がして、凍也のボディに九龍の拳が入っていた。
「うっ・・・ぐ」
思い切りの力で、無いにしろ油断した所にボディを入れられ、それなりの痛みと衝撃が凍也を襲う。
叩かれた部分を両腕でかばうように身体を曲げ、九龍をうらめしそうに見上げた。
だが、彼は謝罪もせずに偉そうな態度で語りはじめたのだった。
「誰が墓荒らしだ!俺は、超一流のトレジャー・ハンター葉佩九龍様である!俺に見つけられない宝は無い!」
まるでドラえもんが四次元ポケットから道具を取り出す時の効果音が聞こえるようなノリで、
九龍は自分の首に下げたままの暗視ゴーグルを両手で持ち、ぐいっっとひっぱって凍也に示した。
「”暗視ゴーグルー!!”このゴーグルはどんな暗闇でも視界を確保できるという優れもので・・・」
「や、説明は結構っすから、早く見つけてくださいよ」
もはや怒鳴る元気もなくなったのか、肩をおとし呆れた表情を浮かべた凍也が九龍に背を向ける。
「あれ?お前も一緒に探してくれるんじゃねーの?」
暗視ゴーグルを頭部まで引き上げ、定位置とも言える両目にスチャッと装備した九龍は凍也を引き止めた。
「センパイが失くしたんだから、探すのは当然そっちでしょ。オレはもう疲れたんで帰ります、あとヨロシク」
後ろを振り向きもせずに、重い足取りで寮へ向かう凍也を見送り、
九龍は装備したばかりの暗視ゴーグルを再び首の位置に戻した。
「あーあ、帰っちまった・・・飛んでいった方向と風の強さから、だいたいの場所は見当ついてんだけど」
そう呟いて、めぼしのつけた場所に足を向ける。
凍也が立ち去った方向に目を向けると、すでに彼の姿は無く、墓場には九龍だけが残された。
翌朝、九龍はいつもより早く起きて凍也の部屋を訪ねた。
扉の前に立つと、左手の甲でコンコンと叩き返事を待つ。
まだ寝ているようなら、勝手に鍵を開けて進入する術も持っているので、
本来ならノックをして返事を待つ必要もないのだ。
だが、昨夜の事がある為に九龍はできるだけ凍也が怒らない手段で彼を訪ねる事にしたのだ。
ノックをして、しばらくすると中からダルそうな声が返ってきた。
「朝からなんだよ?」
おそらく同級生が訪ねてきたと思ったのだろう、ぶっきらぼうな返事をする凍也。
「トーヤ、ちょっといいか?俺、葉佩だけど」
次の瞬間、ガタガタと部屋の中で音がしたと思うと、慌てた様子の凍也が扉を開けて出迎えてくれた。
「おはよ、トーヤ。よく眠れたか?」
「おはよーございます・・・朝っぱらから、何すか?用事なら後でダメなんすか?」
「じゃーん!これ、見つけておいたからさ、報告に」
自分の生徒手帳にしっかり貼り付けた状態で、凍也にそのページを開いて見せると、
凍也を押しのけて部屋の中に入った。
意外にも九龍がこの部屋に入るのは今日が初めて。
「ちょ、センパイ!勝手に何入ってんすか!」
そう言いつつ、廊下に起床しはじめた同級生が行きかい始めた為、凍也も部屋に戻り、扉を閉じた。
学園内では、恐怖の対象として君臨している生徒会役員の自分が、上級生とは言え、
転入してきたばかりの一生徒に振り回されている姿を見せるわけにはいかない。
「お前の部屋って結構何もないな」
キョロキョロと部屋の中を見回して、ベッドに腰を下ろすとそのまま倒れこむ。
まだ凍也のぬくもりが残るベッドに頬を埋めて九龍の口元が緩む。
「帰ってきて眠れれば問題ないっすからね、寮なんて・・・センパイの部屋だって似たようなもんでしょ」
凍也も九龍の部屋を訪ねた事は一度もないが、高校生男子の部屋なんてどこも一緒だろうと思ったのだ。
それに九龍は3ケ月前に転入してきたばかりで、あと3ヶ月もすれば卒業を迎えるのだ、
道具なんて持ち込んでも邪魔になるだけだろう。
「いや、俺の部屋は足の踏み場もない状態かな?遺跡で手に入れた秘法やら、探索、戦闘用武器とかさ・・・
調合道具も溢れてるし。それに加えてバディのみんなから貰ったプレゼントもあったりして」
その言葉に凍也の眉が少し動く。
「プレゼントっすか?まさか、オレにも仲間になった証拠に
何かを貢げなんて言うんじゃないでしょうね、センパイ?」
軽蔑したようなまなざしを受けて、九龍は首を振って否定した。
そして、ゴロリと転がって横向きに体勢を替えたかと思うと、
懐の中から包みを取り出して凍也に向かって放る。
反射的に放られた物を受け止め、凍也は包みを見つめた。
次にベッドで横になったままの九龍を見つめ、首を傾げる。
「これ、なんすか?」
「ま、開けてみな」
ガサガサと包みを解き、床に包み紙を放って中身を取り出した凍也は唖然とした。
「・・・これ、オレにどうしろと?」
包みの中から取り出したのは、昔何かの番組で見たことがあった。
プロレス選手がつけていた覆面・・・しかも虎。
「タイガーマスク・・・?」
マスクを広げた状態で首をかしげ、再びベッドの方に視線を向けると、
そこにはニコニコと笑顔を浮かべ、期待に満ちた顔を凍也に向ける九龍がいた。
「まさか、今・・・かぶれと?」
その言葉に九龍はベッドの上で頷く。
「は・や・く」
「早くって・・・ど、どうしてもっすか?」
「うん!どうしても!それ、俺から愛しのトーヤにプレゼントだから。もちろん常に使ってくれるよな?」
「い・・・嫌です!こんなの・・・しかも、なんか臭いますよ、コレ」
鼻先にマスクを近づけてクンクンと嗅ぎ、顔をしかめる凍也に九龍はにこにこと笑顔全開で答えてくれた。
ベッドから身を起こし、床に足を下ろす。
「そりゃ、そうだ。俺がこの前まで遺跡で使ってたんだよ、ソレ」
「えっ!これ・・・センパイのお古っすか?な、なおさら嫌っす」
マスクを両手で広げるように持っていた凍也だったが、今の言葉を聞いて床に叩きつけようと
右手にマスクを持ちかえて、右腕を振り上げた。
「まあまあ、待てよ!」
ベッドから降り立った九龍が振り上げた凍也の右腕を掴み、手からマスクを取りあげて、両手で持ち直す。
「・・・・さ、トーヤ!ありがたく、先輩からの贈り物を頂戴しろ。昨夜の詫びもかねてんだからさ」
両手でマスクを広げ、ジリジリと迫ってくる九龍から後ずさりで逃げるが、逃げる方向がまずかった。
数歩下がれば、この狭い寮の個室。
凍也のすぐ後ろには窓が、正面には満面の笑みを浮かべて迫る九龍と
お古のタイガー・マスク・・・しかも、ちょっと臭い。
「詫び・・・そんなのいらないっすよ・・・オレ、何もいらないっすから・・・
センパイの手伝いやりますから・・・・ああっ!やめっ」
ついに追い込まれた凍也は目の前に迫ったマスクの内側を恐怖の表情で見つめ、
そしてスッポリとマスクを顔にかぶらせられていた。
「うん、やっぱり似合うなトーヤにぴったりだ」
「・・・・・・っ」
拳を握りしめ、ぶるぶると怒りに震える。
パジャマ代りに着用している青色のティーシャツに中学時代のジャージのズボンに、タイガー・マスク。
この姿を見て、”似合う”と発言できる人間は彼以外にはいないだろう。
「どうだ?これで、俺のように強くなれるぞ」
はっはっはと笑う九龍に拳を繰り出すが、それは軽くかわされる。
頭に血が上って両腕をブンブンと振り回しながら九龍の後を追うタイガー・マスク・・・もとい、夷澤凍也。
今の凍也の目には九龍の姿しか映っていなかった。
この数分後、寮中に大爆笑が沸き起こったことは言うまでもない。
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