■ 2007年Christamas SS 『 Exploration Christmas 』 水天宮拓仄

 ここは薄暗く、辺りも静寂に包まれている。
 まるでこの空間に存在するのは、オレと九龍さんだけのようだ。
「おいトーヤ。何をボーッと突っ立ってるんだ?」
 聞き慣れた声にはっと顔を前に向けると、そこには泥で汚れた頬に
新しくできたであろう小さな擦り傷が少々。
 顔をしばらく見つめ、オレはわざと大きな息をついた。
「はぁ〜何が悲しくてオレは今こんな所にいるんでしょうね?九龍さん」
 肩を落としてがっかりとした仕草を見せて自分の気持ちを少しでも伝えてやりたい。
 本当なら今頃は二人で洒落たレストランで美味しいディナーにワインを楽しみ、
互いの気持ちを確かめあっているはずだったのに。
 いや・・別にディナーとかワインは無くてもいいんだ。
 せめて二人きりで静かに過ごす時間が欲しかっただけなのに・・・。
 何が悲しくて外国の・・・しかも遺跡に潜る事になってんだオレは!
 少しくらい不機嫌になったってバチは当たらないでしょう?九龍さん!
「仕方ないだろう?お得意様からの特別褒賞つきだって言うんだもんよ」
「何も今日じゃなくても・・・」
 ブツブツと唇を尖らせて抗議するが九龍さんは全然気にしちゃいなかった。
「今日じゃなきゃ、こんなに美味しい仕事もないぜ?
難易度は俺とお前のタッグなら楽勝もんだ。それに報酬は普段の2倍なんだぞ?」
「でも・・・今日はオレとの約束が先だったじゃないっすか」
 狭い通路が続いていたが、今オレ達が話しこんでいる場所はだいぶ開けており、
長身の九龍さんが直立できるほどの天井もある。
「まだ文句言ってんのか?嫌なら日本に残ってても良いって言ったのに付いてきたのはお前だろ?」
 これが普通の日ならオレだって喜んで遺跡だろうが、ジャングルだろうが
海底だろうがどこへでも付いてきた。
 九龍さんが決めた事に少しくらい文句をつけても、結局は一緒に協力しながら
数々の依頼や調査をこなしてきたけど。
 でも、今日はオレ達にとって特別な日なのに。
 前日に協会から急に入った仕事を無断で引き受けるなんてあんまりだった。
「そんなのできない規則じゃないっすか・・・
基本的に遺跡探索はバディと同行を義務付けられていますから」
 唇を尖らせて頬を膨らませて、精一杯の不満をぶちまけてやる!
 オレを納得させる言葉をくれたら、今度こそオレは素直に九龍さんに従ってもいい。
 目をそらし、九龍さんが近づいてくるのを待つ。
 しばらくの沈黙の後、九龍さんが動いたのが空気の流れでわかった。
 だが予想を反してオレから少しずつ遠ざかっていく。
 顔は背けたまま、視線を九龍さんへ向けるとオレに背中を向けて
ゆっくりと遺跡の奥へ入っていくのが見えた。
「ちょ・・・九龍さん!」
「もう、いい。お前はそこで待っていろ!後は俺がやってくるよ」
 振り返りもしないで九龍さんがオレに向かって手を軽く上げた。
 今までかろうじて見えていた背中が通路に入ったせいで見えなくなる。
 1人分の灯りが消えて、薄暗い空間がいっそう暗くなり、さらなる静寂が辺りを包み込む。
「・・・・置いていくこと無いだろ・・・ちくしょー」
 でもここでオレから折れるのも嫌だった。
 確かにオレは九龍さんの事が好きだし、できるだけあの人と一緒に過ごしたいと思って、
ロゼッタに入って専属バディの座を手に入れた。
 でも、今日だけはオレが納得できる答えを聞くまでは絶対に許せない。
 だいたい、今の関係になったのだって元々はあの人から言い出したんだし・・・
オレの方が主導権を握っているはずなんだ。
 あの人の好きにばかりしてられない・・・これはオレの意地。
 譲れねぇ。


 広場の真ん中に仁王立ちをしたまま、凍也は瞳を閉じて周囲の気配を
すぐに察知できるように神経を研ぎ澄ませていた。
 この遺跡には、天香学園の地下と違って危害を加えてくるような生物や仕掛けはほとんどない。
 だが、万が一の事もある。
 待っている時に専属バディが怪我なんてしたらハンターの九龍に迷惑がかかるからだ。
 富豪の依頼主は、数日前にこの遺跡に眠っている宝石の結晶を
クリスマスプレゼントとして妻に贈りたいとの事でロゼッタ協会に急遽依頼してきたらしい。
「ったく・・・冗談じゃねぇ。他人のせいでオレの・・オレ達の時間をめちゃくちゃにしやがって」
 瞳を開けて、思わずぼやいてしまう。
 おまけに足元に転がっていた石を思い切り蹴り飛ばすと、
奥から戻ってきた九龍が頭をひょいと動かすだけで避けた所だった。
「危なねぇなぁ・・・俺がまだ通路にいたら顔面血だらけだったぞ?お待たせvさあ、出ようぜ」
 さきほどまでの凍也を怒っているふうでもなく、九龍はいつも通りに笑いかけて声をかけてくる。
 その普段となんら変わりない九龍に凍也は拳を握り締めて、出しかけた足を止めた。
 数歩歩き出していた九龍が不思議そうに振り返る。
「どうした?ここで待っている間に何か起きたりしたのか?」
 心配そうに近づいてくる九龍から目をそらし、なんだかひどく惨めな気持ちになった。
「九龍さんは・・・今日の事、なんでもないって事っすか?
他人のためにオレ達の時間を壊すのはハンターとして当たり前の事なんすか?」
 悲しみなのか怒りなのか自分でもわからない凍也の体が、小さく震える。
 地面を見つめている凍也の視界に九龍のブーツが入り、すぐ目の前で止まった。
 今、九龍の顔を見たら涙が出そうで凍也はずっと地面を見つめ続ける。
「馬鹿・・・大事じゃないわけないだろう?」
 両手で凍也の肩を引き寄せて胸に頭を抱え込んで、ポンポンと優しく叩き、
クスリと自分の上で笑う気配を感じた。
「お前、頭に血が昇って忘れてただろう?この遺跡は、どこの国かな?」
 胸から顔を上げた凍也を見つめて九龍が片目を瞑り「ん?」と頭をかしげる。
 その言葉に凍也は顔を真っ赤に染めた。
「あ・・・・っ!」
「だろ?」
 クスクスと笑いながら真っ赤な顔をした凍也に何度も何度も音を立てて唇を寄せた。
「可愛いなぁトーヤ・・・やっぱりお前は最高だよ」
「・・・・うっ・・・ううっ」
 恥ずかしさのあまり凍也は何も言い返せないし、九龍の成すがまま。
 数分間をかけて接吻の雨を頬や額、首筋にまで受け続けて膝の力が抜けた凍也は、
遺跡の真ん中でヘナヘナと尻餅をついた。
「現地時間で12月25日0時まで・・・5,4,3,2,1・・・」
 地面に尻餅をついたままの凍也にあわせて身を屈めると力強く両腕をつかんで
強引に自分へ引き寄せて唇を合わせる。
 さっきほどの軽いものではなく、深く互いを食い尽くすかのような口づけ。

 音を立てながら唇を離すと、今だ焦点が定まらない凍也に九龍は微笑みながら唇を動かした。

『Merry Christmas 凍也』


日本時間 12月26日1:00
現地時間 12月25日0:00

Happy Christmas?


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■設定案内■
天香学園卒業から6、7年後で夷澤がボクシング界で
日本フライ級王者獲得後(数回防衛成功後→引退)を経て、
ロゼッタ協会に入りトップハンター・九龍の専属バディに
なっているという捏造未来設定でお送りします。
個人誌【modo avanti・・・】の続編的な話ですが、読み切りもできます。