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| ■ 『 友愛 』 ( 八千穂&白岐 ) 水天宮拓仄 |
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屋上から八千穂が足早に階段を駆け下りてきた。
校舎へ繋がる階段の踊り場に静かに佇んでいたのは
足まで届くほどの長い黒髪を背に流す女生徒。
「白岐さん・・・」
堪えていた涙が瞳から零れ落ちた。
「九龍さんは行ってしまったのね」
「うん」
長い間己を縛り付けていた呪縛という名の鎖を解き放ち、
颯爽と学園から立ち去った<<転校生>>の事だ。
「”じゃあ、またな”って明日も会えるみたいに笑って行っちゃったよ」
”宝探し屋”としてこの天香学園に潜入調査をしていた
葉佩九龍がたった今、誰も居ない校庭から所属組織の輸送ヘリに
乗り込み、屋上で見送っていた阿門、皆守、八千穂に上空から
笑顔で手を振りながら学園に別れを告げたばかり。
まだ生徒達が登校してきていない空が明るみはじめた時刻の出来事。
「そう」
軽くなった首筋に触れ、校舎の天井を見上げたが空が見えるはずも無い。
興味を持つことのできた初めての男性。
好意を寄せた初めての男性。
想いを告げた初めての男性。
想いを受け取ってはもらえなかったが、それでよかったのかもしれない。
目の前で涙を流す彼女も彼に好意を寄せていながら、最後の時まで
その想いを伝える事ができなかった。
「八千穂さん」
「・・・・なぁに?」
溢る涙をぐいっと手の甲で拭うと、いつものように笑顔を向ける八千穂。
その笑顔は、彼と再会できる事を信じている表情が見て取れた。
手を伸ばして八千穂の腕を掴み、目元に溜まる涙を指で掬う。
「あなたに涙は似合わないわ」
「泣いてなんかいないよ?やだな〜白岐さん。
これは欠伸が出たからで・・・あれ・・・・あれれ?」
明るく振舞う八千穂の瞳からは勢いを増した涙が次々と溢れ出してきた。
掴んだ腕を引き寄せ、両腕を背中に回す。
「白岐さん?」
「我慢しなくていいのよ・・・あなただけじゃないわ」
八千穂を優しく包みこみながら、瞳を閉じると一筋の涙が頬を伝う。
久しく流す事の無かった涙の温かさを感じ、
そしてまた次の涙が頬を伝い白岐は戸惑う。
これを止める術が自分には無いのだ。
震える腕でぎゅっと八千穂の制服を掴み、
声を殺すが流れ出る涙は止まらない。
「うん・・・うん。白岐さんも・・・わたしも、皆守クンも、阿門クンも・・・
みんな九龍くんが好きだったんだよね」
涙声になりながら八千穂も白岐の背中へ両腕を回して制服を握った。
「また会えるよね、きっと」
「ええ、必ず」
「一緒に卒業できるよね?」
「できるわ」
「九龍クンもわたし達の事、好きだよね?」
「好きよ」
しばらくの沈黙後、この静寂を破ったのは階段に
続く屋上の扉が重い音を発しながら開いた事だった。
さきほどまで八千穂と見送りをしていた阿門と皆守が
静かな足音を立てながら言葉を交わす事もなく下りてくる気配を感じ、
2人はバツが悪そうな表情を浮かべながら一歩ずつ後ろに下がる。
一瞬見つめ合い、同じタイミングで足音が近づく階段の方へ顔を向け、
また同じタイミングで見つめあった。
「ふふっ」
先に噴出したのは白岐だった。
涙を綺麗な指で拭い、もう片方の手を唇に添えて笑い声をあげる。
「へへっ」
八千穂の顔にも笑顔がこぼれた。
踊り場で向き合いながら笑い声をあげる二人の頭上から声が響く。
「八千穂何やってんだ。朝練行くんじゃなかったのかよ?」
呆れ顔の中に少し赤くなった瞳を湛えた皆守。
クスリと笑う白岐に視線を向け、不機嫌そうな表情を作る。
「なんだよ白岐」
「いいえ・・・なんでもないわ皆守さん」
白岐の様子に八千穂も彼の瞳が赤いことに気づき、微笑みを浮かべた。
居心地が悪そうに皆守が止めていた足を踏み出し、足早に
二人の傍を通りすぎて行く。
「皆守クン今から寮へ戻るの?」
階段を足早に降りていく皆守に八千穂が明るく声をかけた。
それに振り向かずに足だけを止めた。
すでに姿は見えなくなっていたが階下から声が響き渡る。
「ああ、そうだよ」
不機嫌そうな声に白岐と八千穂は顔を見合わせて笑う。
「これから皆でマミーズでご飯食べない?ね、阿門クンも一緒に」
「そうね」
八千穂の提案に白岐が微笑み頷く。
そして階段をゆったりとした動作で下りていく阿門も
穏やかな表情を浮かべて、賛同の意を表していた。
end
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