■ 『 想いは共に 』  水天宮拓仄 (双樹&神鳳)

「お茶が入りましたよ」
 不機嫌な様子で生徒会役員で唯一の2年生である夷澤凍也が応接セットのテーブルの上に
カチャンと音を立てて湯のみを置き、振り返った。
「ありがとう夷澤。では、一服しましょうか」
 神鳳が穏やかな表情を浮かべ、金魚を眺めていた双樹に声をかけた。
「そうね。夷澤も一服したら?」
「結構です。今やアンタ達と俺は敵同士なんすから・・・転校生の仲間になっておいて、
よくもノコノコとここに顔を出せますね?」
 フンと睨みつけ、双樹がさきほどまで眺めていた金魚が入っていた水槽を持ち上げて、生徒会室から出ていく。
「おやおや水も抜かずに持って行くとは無茶な事を」
 勢い良く締められた扉を見つめ、クスクスと笑う。
「まぁ・・・夷澤の言う事もわかるけどね。でも、私が阿門様を想う気持ちはかわらないわ。神鳳、あなたもでしょう?」
「ええ、もちろんです。さ、お茶が冷めないうちに頂きましょう。今日は桜餅を持ってきたんですよ」
 荷物の中から取り出すと、テーブルの上に包みを広げて双樹に勧める。
「ありがとう。あら、いい香りね」
「葉佩君からの差し入れです。彼は料理が得意なようです」
 その言葉を聞いた双樹は一瞬驚いたような表情を見せ、次に微笑み、そして最後は複雑な表情になり桜餅を手に取った。
「どうしたのです?浮かない顔をして」
「ねぇ、神鳳。さっき言ったでしょう、私」
 目を伏せたままテーブルの上を見つめる。
「阿門様を想う気持ちは不変・・・という事ですか?」
「ええ、そう。そのはずなの、私は。誰よりも阿門様が大切なはず。なのに、私の心の中にもう一人の存在が住みついてしまった」
 桜餅を持ってない手で豊かな胸を覆う制服をぎゅっと握り、瞳を閉じた。
「それは葉佩君ですか?」
「・・・」
 その問いかけに答える事なく目の前でうな垂れる双樹を見つめて神鳳は、
胸にこみ上げる不思議な感覚を感じた事を冷静に受け止めていた。
「僕が彼に力を貸す事にしたのは、この学園を・・・阿門様を救って欲しいと思ったからです。
地下に眠るモノから阿門様や縛られているモノ達すべてを」
 うな垂れる双樹をじっと見つめ、唇を開きかけたが言葉を発する事はしなかった。
”あなたの想いも僕は解放したいのです。その頑なに、一途に、阿門様を想い続けるあなたの心を自由にしたい”
「それは・・・私も一緒よ神鳳」
 少し潤み始めた瞳を開き、じっと目の前にいる神鳳を見つめる。
 自分の発した言葉に対してなのか、それとも言葉にしなかった心に対してなのか。
 都合の良い方へ考えてしまいたくなる。
「私もこの学園を、阿門様を解放したいのよ。だから、九龍に協力している。夷澤や阿門様に非難されても止める事はできない」
「・・・僕もあなたの願いに協力しますよ。その為には葉佩君の力が必要です」
 冷めつつある湯のみを両手で包み、持ち上げると一口お茶を口に含んでゆっくりと飲み込んだ。
「お茶が、冷めてしまいましたね」
「ちょうどいいわ。私、熱すぎるお茶は苦手なの」
「その、桜餅なかなかの物でしたよ。あまり甘くないのであなたの口にも合うと思います」
 胸を掴んでいた手を湯飲みに伸ばし、そっと包み口元に持っていく。
 その動きを瞳で追いながら、神鳳は口を開いた。
「双樹さん」
「なに?」
 桜餅を一口頬張りお茶を口に運びながら、短く答える双樹に問いかけた。
「あなたは葉佩君をどう思っているのですか?」
 ゴクリとお茶が喉を通っていく音が聞こえるような気がした。
 一瞬の間を開けて、双樹はつらそうな表情を見せる。
「わからない・・・以前は、阿門様の為に殺そうと思っていたのに。いつの間にか大きな存在になっていたわ」
「阿門様を想うように?」
 自分はなぜ双樹にこのようなことを聞くのかわからないが、自分自身でも言葉を止める事ができなくなっていた。
「そうね・・・同じかもしれないわね」
 その言葉に神鳳はなぜか安堵する。
 なぜこんなにも安堵するのかもわからなかった。
 いつの間にか緊張していたのだろう、長い髪の間から一筋の汗が背に流れたのを感じ、
湯飲みをテーブルに置くと利き手で髪を軽くかきあげながら、目の前にある桜餅を手に取り頬張る。
「そういう神鳳は九龍の事をどう思っているの?」
 まさか双樹が同じ質問をしてくるとは思っていなかった神鳳はうっすらと瞳を開き、桜餅を頬張る動きが止まった。
「まさか寝首でもかこうと思ってやしないでしょうね?」
 いたずらっぽく笑う双樹を見つめ、くすりと微笑みお茶を口に運んで桜餅を一緒に飲み込んだ。
「さあ、どうでしょうね?それは葉佩君次第ですよ」
「どういう事よ、それ?そんなの私が許さないわよ!」
 テーブルに両手をつき、乗り出してくる双樹に微笑みながら心の中で呟いたのだった。
”彼があなたを裏切らない限りは”
「大丈夫ですよ。僕はあなたの味方ですから、安心してください」
 意味深な笑みを向けられた双樹は怪訝な表情で神鳳を見つめるながら、すっかり冷めてしまったお茶をすする。
 そして、手に残った桜餅を口に放り込んだ。


end