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| ■ 『 可愛いヒト 』(3-Cメンバー) 水天宮拓仄 |
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女子寮で八千穂が自室のベッドに腰をかけている。
いつも元気な彼女が青白い顔色を浮かべて、沈んだ表情になっているのは理由があった。
今日、彼女は学校で貧血のような症状で倒れてしまったのである。
その理由に彼女も彼女の周囲にいる友人達も気づいていた。
『隣人倶楽部』と呼ばれるセミナーに参加してからの変調だったのだ。
部屋の窓をコンコンと叩く音に八千穂は顔を上げた。
「あ、九龍クン!どうしたの?」
ベッドから立ち上がって明るい顔を見せると八千穂は九龍の佇む窓際へ駆け寄り、窓を開け放った。
「やっぱり心配でさ、様子を見に来ちゃった。大丈夫、八千穂ちゃん?」
「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
まだ優れない顔色で明るく笑う八千穂を切なそうに見つめ、九龍は笑顔を作る。
「今日で君の体調も良くなるはずだから。ゆっくり休んでて」
「九龍クン、あそこへ行くんならわたしも連れて行ってよ」
九龍が遺跡へ潜る時、八千穂は毎回ほとんど強引についていくのが常になっていた。
彼女のスキルは戦闘能力に長けており、探索に役立つ面も多々あるが、武装もしていない上に、墓守達のように特殊能力を持たない。
八千穂が九龍にとって普通の女の子であることには変わりが無いのだ。
「ダメに決まってるだろ。お前は今日学校で倒れたんだ。今だって、真っ青な顔してフラついてるだろーが」
九龍の背後から現れたのは同じくクラスメイトで遺跡探索の仲間でもある、甲太郎だった。
「皆守クンも来てくれたの?」
以前の甲太郎なら、他人を心配してわざわざ女子寮まで足を運ぶような事は無かった。
その彼が、九龍という存在によって変わりつつあるのが八千穂にもわかる。
「九龍に連れて来られたんだよ」
照れ隠しなのか鼻を指でこすり、ぷいっと八千穂から視線を逸らす。
「へへっ二人ともありがとね。よかったら少し上がっていく?お茶くらい出すからさ」
「え、いいよ。ゆっくり休まないとダメだってルイ先生にも言われたんだろ?」
九龍が頭を振り遠慮したが部屋の中で八千穂が目を伏せた瞬間を見て思い直した。
「いや、やっぱり少しお邪魔しようかな。な、甲太郎?」
「ったく仕方ねぇな・・・ってどこから入る気だお前!」
「だって、まさかこの時間に真正面から入るわけにも行かないし」
靴を窓の外に脱いで九龍はすでに窓枠に足をかけていた。
「あはは、それでこそ<<宝探し屋>>だね」
笑顔を見せる八千穂に微笑み返すと九龍が先に部屋へ入り、続いて甲太郎も窓を乗り越えてきた。
「お茶って言ってもペットボトルのお茶なんだけど。はい」
「サンキュー」
八千穂からペットボトルを受け取って口をつける。
しばしの沈黙が部屋に流れたが、それを破ったのは部屋の主である八千穂だ。
「今から墓場へ行くんだね」
「うん。早く解決しないと八千穂ちゃんや他の生徒達がもたないだろうし」
「こんな面倒はさっさと解決しないと、保健室が満員で俺が困るんだよ」
「皆守クンらしい理由だね。でも、ありがと・・・あたしの事心配してくれたんだよね」
いつもの笑顔より幾分元気が無い八千穂を見て甲太郎は何かを言いかけたが唇を閉じた。
後頭部をぼりぼりとかくと、八千穂や九龍から視線を外した。
こういう時の甲太郎はたいがいの場合照れている時なのだと八千穂と九龍は気づいている。
二人で顔を見合わせてクスクスと笑い合うのを恨めしげに見つめる甲太郎。
「何笑ってんだよ」
「いや、何でもないよ。甲太郎って案外可愛いよな」
「うん、可愛いね皆守クンは」
「な・・・何が可愛いだ!男に向かってその言葉は褒め言葉でも何でもないんだぞ?」
不満な表情を浮かべて軽く拳を突き出し、九龍はそれを難なく受け止めて笑う。
「いや、だってねぇ?八千穂ちゃん」
「うんうん、すごく可愛いと思う!」
「いい加減にしろお前らっ」
思わず大声をあげた甲太郎の口を八千穂と九龍が同時に塞いだが、すでに遅かった。
部屋の外、廊下からざわめきが三人の耳に入ってくる。
「八千穂さんの部屋から男子の声が聞こえたわよ!」
「明日香、今日学校で倒れたのに大丈夫かしら?」
そんな言葉が聞こえてくると、九龍はすばやく窓の外に飛び降りた。
「甲太郎、早く!」
「くそっお前らのせいで余計な手間が・・・」
ブツブツ文句を言いながら窓の外に身を乗り出し、一瞬動きを止めた甲太郎が振り返って口を開く。
「今日は大人しくしてろよ?帰りにまた寄るから心配すんな」
「え・・・うん!」
甲太郎が窓の外に飛び降りた直後に扉を叩く音が部屋中に響いた。
「明日香!大丈夫?男子の声が聞こえたけど!」
「あっえと・・・だ、大丈夫だよ!今、テレビ見てたんだ!」
「そう?ならいいんだけど・・・具合悪くなったら呼んでね」
「うん、ありがとう!」
慌てた様子で手元にあるリモコンでテレビをつけて音量をいつもより大きく設定すると、窓の外に視線を向けた。
そこにはすでに二人の姿は無く、墓場の方へ走っていく二つの背中が小さくなっていくのが見える。
「2人とも大好きだよ」
小さく呟く八千穂の部屋には空になったペットボトルが2本転がっていた。
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