■ 『 ある日のオフ 』(九龍 × 皆守) 水天宮拓仄

 天香学園男子学生寮の週末放課後。
 廊下、談話室、風呂場の脱衣所の壁にチラシをペタペタと貼って歩く二人の生徒が目撃された。
 貼ってあるチラシを見ると
『葉佩九龍を破って豪華賞品をゲットトレジャー!!参加者は3−C葉佩まで。メール:***@co,jp』
 自分の部屋を開けた瞬間にそれが目に入り大きな溜め息をついたのは、
チラシを貼り付けて回っている葉佩九龍の隣人であり、クラスメイトであり、親友の皆守甲太郎だ。
「はぁ〜また馬鹿な事始めやがって・・・まあ、俺には関係ない・・・ん?」
 チラシの中央に書かれている”豪華賞品”に目を奪われる。
『葉佩九龍を討ち取った方には”葉佩特製地上最強カレー” or ”マミーズ日替わり定食”一週間分プレゼント!』
「九龍の作った・・・地上最強カレー・・・」
 どうもターゲットが自分に絞られている気がしなくも無いが、九龍の料理は評判も良く、
いつだったかカレー鍋のお礼にとご馳走になったカレーライスの美味を思い出した。
 扉を開け放し、チラシの前で腕組みをしながら悩む。
 地上最強カレーを作った時に味見を要求したが、それはあっさり断られた事も思い出し、甲太郎は歯軋りをする。
 参加してみようか・・・だが、九龍を討ち取るには本気を出さなければならないだろう。
 それはつまり、生徒会副会長としての力を使うことになりかねない。
 悩み続けている甲太郎の横でガチャリと扉の開く音がする。
 嫌な予感がして音がした方を振り向くと九龍がにこにこと笑って近づいてきた。
「コータも参加するだろ?地上最強カレーが賞品だよ、しかも一週間分」
「まだ参加するとは言ってないだろ。それに、勝手にこんなチラシ貼り付けて生徒会の連中が黙ってるはずないしな」
「そんなの気にしてたら楽しめないだろ?つうか、トーヤも参加するって言ってたから、いいんじゃね?
生徒会副会長補佐が参加するんだから、生徒会公認みたいなもんだよ」
 笑いながらいつも持っている小型コンピュータを開いて
次々に届く参加申込みメールを見ながら、ほらと受信画面を示す。
 確かにそこには夷澤凍也からの参加申込みメールがあった。
「あいつ何考えてんだ・・・」
「ははっちょっと挑発してやったら、二つ返事で参加するってさ。あいつからかうと本当面白いよなー」
「俺は参加しないからな」
 嬉々として九龍のゲームに乗ってくる生徒達が意外に多い事で、甲太郎の気持ちは冷めていった。
 それに参加者が多いという事は自分の正体がバレる可能性も高くなる。
 だが、そんな一言で九龍が諦めるはずがなかった。
「ダメ。コータは参加するって決まってんだからさ」
「なんで勝手に決めてんだよ。俺の意志は関係ないのか?」
「うん」
 あっさりとすごい事を言ってくれた親友の顔をジロジロと見つめて、がっくりと肩を落とした。
「人権無視もいい加減にしろよ」
「参加しろって!絶対、そっちが有利なゲームだしさ」
「どういう事だよ?」
 九龍が言うにはこうだ。

 サバイバルゲームで「うさぎ狩り」というゲームを九龍流にアレンジしたものを次の土曜日に正午から1時間行う。
 場所は男子寮敷地内全部だ。(ただし個人の部屋は立ち入り禁止)
 ”サバイバルゲーム”という事で、参加者は全員ペイント弾が6発詰められたモデルガンを墨木と九龍から支給される。
 ゲーム前にはモデルガンの扱い方についての講習を墨木が行う予定もあり、触ったことがない者も参加できるらしい。
 ゲームとしては「葉佩九龍 vs 墨木隊(参加者全員)」という圧倒的に九龍が不利なルールとなっている。
 墨木は参加者を指揮する隊長となって武器は弾が1発だけ入ったハンドガンを持つのみで、
後は参加者達をフォローする役目だ。
 墨木隊の誰か1人がペイント弾をターゲットに打ち込んだら墨木隊の勝利で、
時間内にペイント弾をくらわなかったら九龍が勝ちというルール。
 賞品はペイント弾をターゲット・・・この場合は葉佩九龍に当てた人間が貰えるのだ。

「ルールはわかったが、それじゃ勝負にならないんじゃねーか?寮内どこに行っても敵だらけ、
個人部屋には入れないって事は隠れる場所も決まってくる」
「だから、面白いんだよ」
 活き活きとした表情で楽しそうに語る九龍を前にふうっと息を吐く。
「それ、俺がお前の味方になるって駄目なのか?武器は持たない」
「ん〜そうなると”地上最強カレー”貰えないよ」
 意外な事を言い出す甲太郎を九龍が驚いた表情を浮かべて見つめる。
 甲太郎も自分がなぜそんな事を言ったのかわからずに戸惑っていた。
「別にいいさ。お前とこの先も付き合っていれば1度くらいは食べる機会があるだろうしな」
「じゃ、コータは俺のサポート役って事で参加な。へへっサンキュー!」
 参加する気はなかったのにルールを聞いたら、自然と言葉が口をついて出てしまったのだ。


-決戦は土曜日-
 午前中10時から、サバイバルゲームの参加者20名あまりが寮内の談話室で墨木の下に集まり、
作戦会議兼モデルガン講習会を開いていた。
 この時間帯は両チームの接触禁止で、九龍と甲太郎は談話室への出入りを禁じられていた。
 九龍の部屋。
 無理矢理起こされた甲太郎が不機嫌な様子でベッドに背を預けながら銃の手入れをする相棒を見つめていた。
「おい・・・それ、本物じゃねーか」
「あ、大丈夫大丈夫!これは持っていかないから。昨夜、帰ってから手入れしないまま寝ちゃったから、今やってるだけ」
「そういや、お前は獲物何を持っていくんだ?」
「俺はうさぎだからね、武器は持たないの」
「お前がうさぎって柄かよ」
 甲太郎の言葉にははっと笑いながら、見事な手つきで銃を解体していく。
 そういう姿を見ると、葉佩九龍がただの高校生じゃないのだと改めてわかる。
 学園内では、ただのお調子者のように振舞っているが、夜になるとプロの<<宝探し屋>>の顔になった。
 そのギャップが今だに甲太郎は慣れる事ができない。
 いったい、どちらの葉佩九龍が彼の本質なのだろう?ふと考える時があるのだ。
「さてと・・・そろそろかな」
「もう行くのか?まだ開始まで1時間もあるだろ」
「身を潜める場所ってのは最初が肝心なの。移動するなら、墨木隊が作戦会議している今のうちだよ」
「はぁ〜お前をフォローするなんて言わなきゃよかったよ」
「男が一回やると言った事にグダグダ言うな!さ、行くぞコータ」
「俺らは作戦とか無いのかよ?」
 渋々立ち上がると両手をポケットに突っ込んで、遺跡探索時に使っているベストを見につけ、
皮手袋をはめる九龍の後ろ姿を見つめる。
 いつも夜に見ている姿を昼間に見ると違う姿に見えるから不思議だ。
「作戦?そんなの必要ないよ。ただ1時間逃げ切るだけだし、コータに俺の背中を任せるから」
「任されてもな」
「期待してるよ相棒」
 装備を身につけ終わると、歯を見せて笑って甲太郎の肩をポンと叩く。
「これ終わったら俺にも地上最強カレー食わせろよな」
「それはお前の働き次第かな」
「お前って結構ケチくさいよな」
「そうか?さ、行こう」
 扉を出ると土曜の寮内にしては静けさが広がっていた。
 どうやら参加者以外は巻き込まれるのを恐れて自室に閉じこもっているようだ。

-正午・ゲーム開始-
 談話室に本部を置いた墨木隊。
 参加者・・・隊員達の前で墨木は作戦開始の号令を発していた。
「作戦開始だ!みんな配置につくでありまス!」
「了解!」
 隊長の墨木が手を上げると、次々と隊員達が使い慣れないモデルガンを手に次々と談話室から寮内に散っていく。
 隊員数は墨木を入れて23名。
 23名対2名の戦いがこうして始まった。

 ゲーム開始直後、九龍と甲太郎は談話室の近くにある階段の踊り場に身を潜めていた。
 踊り場から九龍が階下を伺い、敵部隊の散っていく方向を見定めている。
 その中の1名が自分達が隠れている階段を昇ってきた気配を感じて身を翻して階段を昇っていく。
 階段を昇った先で見知った顔が現れた。
「やっぱりここに居ましたね、センパイ」
「トーヤか。さすがいい読みしてんな」
 階段を昇りきった所で凍也が支給された武器を腰のベルトに下げ、両拳を構えた状態で不敵に笑っていた。
「お前、それ使わないとゲーム的には勝ちじゃないぞ?」
 腰に下げられたハンドガンを指差して、階上にいる凍也を見上げた。
「お気遣いなく。センパイをこの拳でぶっとばしてからゆっくり使わせていただきますから」
「おい九龍、下からも敵だ」
「そいつの相手はコータに任せるよ。弾を打ち切らせるか、銃を奪えば戦線離脱になるから」
 階下にいる甲太郎の方を見向きもせずに、凍也に向かって一歩一歩足を踏み出していく九龍の気配を感じる。
「おいっなんで俺が!うおっ!」
 皆守に向かって一発のペイント弾が打たれたが、それは寸でのところで交わす事ができた。
 凍也の脇を通りすぎて、壁にぺちゃっと音を立ててインクがあたりに飛び散る。
 墨木隊にも甲太郎の参加は承認されている為、彼らにとってのうさぎは2匹いることになっているのだ。
 そして、墨木が立てた作戦はまず甲太郎を戦線離脱させる事であった。
『作戦名:二兎を追う者、一兎も得ずであります!』
 隊員達は、まず狙いを甲太郎に絞ってきたのである。
「ちょっ!おいっ俺に弾を当てても賞品貰えないんだぞ!」
 何発かを避けつつも、九龍の後ろにピッタリと身を寄せる甲太郎の身のこなしに、発砲した方も驚愕していた。
 モデルガンと言えども、発砲された弾は視認できる速度ではないはずだ。
 それを目の前の甲太郎が両手をポケットにつっこんだまま避けたのだから当然の反応と言える。
「まずは皆守甲太郎を倒し、次に全員で葉佩九龍を倒すってのが墨木先輩の作戦だからっすよ」
 軽くフットワークを刻む凍也が得意そうに言い放つ。
「夷澤!作戦をなんでわざわざバラすような真似を」
 甲太郎と対面している生徒が残りの弾数が1発になった事に焦り、自分達の作戦を敵に話す凍也に視線を向けた。
 その瞬間、甲太郎が階段を駆け下りるとカッとモデルガンを持つ手に蹴りを放った。
「うあっ」
 ガランっと音を放ち、甲太郎を狙っていた生徒の手から銃が転がり落ちた。
 これでこの生徒は戦線離脱という事になる。
「これで1人片付いたな」
「ちくしょうっなんなんだよ、お前・・・」
 普段のだるそうな動きを見ている彼にしてみたら、甲太郎の見せた身体能力は信じられないものであった。
 今の騒ぎで、まだ他の生徒達がここに集まる気配を感じない事から、
どうやら墨木の立てた作戦が静かに進んでいる事が推測された。
「おい、九龍。さっさと片付けちまえ!モタモタしてると追い詰められるぞ」
「だよね。じゃ、そーゆう事だから始めようか?トーヤ」
「のぞむところですよ!」
 階下に向かって拳を繰り出す凍也。
 それを飄々と避ける九龍の背中を見つめながら、甲太郎は周囲の気配に気を配っていた。
 静かにこの階段に生徒達が集まってきている事が”勘”でわかる。
 早々にここを切り抜けないと、およそ20人の墨木隊に包囲されるにちがいない。
「九龍遊んでないで早くしろ。来るぞ」
「ったく、仕方ないな!もっと楽しみたいのに」
「へらず口を!」
「よっと」
 同じ高さにのぼり、凍也の拳を受け止めると反対側の手を伸ばして、
腰に下げられていた銃を奪い、反射的に自分のズボンにつっこんだ。
「ひ、卑怯っすよセンパイ!」
「何が?銃を奪われたら戦線離脱。ルールは説明受けただろ?卑怯でもなんでもない。じゃ、俺達行くからな」
「センパイ勝負の途中っすよ!」
「悪いな、また部活の時にしてやるから〜」
 そう言いながら甲太郎を従えて廊下を走っていく九龍を悔しそうな視線で
睨みつける凍也の下にバラバラと参加者達が集まってきた。
「なんだよだらしねぇな夷澤。生徒会役員のくせに」
「そうだぜ。普段、いばりちらしてるくせに、てんでたいした事ねーじゃん」
「手も足も出せずに何が”卑怯”だっての」
 口々に普段の鬱憤も含めて文句をつける生徒達を睨みつけ、
凍也の決して大きくない堪忍袋が切れたのは言うまでもない。
「てめぇらにやられるほどセンパイは弱くねぇよ!」
 次々と彼らの顔面に拳をヒットさせる。
 だいぶ加減はしていたが、それでも彼らから意識を奪うには充分の衝撃を与えていた。
 凍也の周囲には6人の生徒達が気を失って倒れていた。
「ちっ・・・やっぱり、こんなくだらないゲームに参加するんじゃなかったぜ」
 右の拳を左掌に打ち付けて、九龍と甲太郎が走り去った方向を見つめた。
 その場に倒れた生徒達を残し、凍也はこれ以上このゲームに参加している意味がないと自室に戻っていくのだった。


-12時55分ーゲーム終了5分前。
 墨木隊の隊員達は見事に全滅していた。
 全滅と言っても倒されたわけではない、九龍と甲太郎に弾を撃ち尽くされたり、銃を奪われたりしての戦線離脱である。
 今、墨木隊の隊長である墨木砲介と兎の葉佩九龍、皆守甲太郎は談話室内で対峙していた。
「さすが隊長でありまス。よくぞ我が隊の精鋭達を倒してここまで来れたものでありまス」
「精鋭達って、にわかじこみじゃねーか」
 九龍の後ろに立つ甲太郎がボソりと呟くと、もう勝負はついたとアロマをふかしながら近くにあった椅子に腰を下ろしていた。
「黙れっまだ勝負はついていないでありまス!我輩と隊長ドノでサシで勝負するでありまス!」
「それってサバゲー?」
 苦笑いを浮かべながら、ゲーム開始直後に奪った銃をズボンから取り出してシリンダーを確認する。
 そこにはここへ来る途中に思わず撃ってしまったりして、残り1発の弾が残っていた。
「我輩、一度でいいので真剣勝負を隊長ドノとやってみたかったでありまス!あそこから解放された我輩の力を見せる為に!」
 ホルスターからモデルガンを取り出し、九龍に向かって構える墨木。
「合図は?」
「皆守ドノにお願いするでありまス」
「勝手にやってくれよ。ゲーム終了時間まであと1分もないぞ」
「ゲーム終了で寮内にアラーム鳴るようにしてあるから、それ合図にしようぜ」
「了解でありまス!」
 それ以降二人の間には沈黙が流れた。
 じっとアラームが鳴り響くのを待つ、二人の対峙を固唾をのんで見つめる甲太郎の腰が浮いた。
-ジリリリリリッ-
 寮内に目覚まし時計のアラームが大音量で鳴り響く、その瞬間墨木が動いた。




-戦闘後-
 談話室での対峙を終え、甲太郎は汚れた衣服を脱衣所で脱ぎ捨てて風呂場への扉を開けた。
「よっコータお疲れさん」
「・・・・ふんっ」
 上機嫌な様子で湯船に浸かりながら入ってきた甲太郎に手を上げる九龍を一瞥してシャワーの前に陣取る。
 汚れたのは衣服だけではない、首筋や顔や髪にまで墨木が放ったペイント弾の中身がこびりついていた。
「まさかコータが動くとは思いもよらなかったよ」
「・・・余計な事して悪かったな!」
「いや、余計な事なんて思ってないって。ゲームに負けて勝負に勝った感じ?」
 頭を洗う手を止めて、意味不明な事を言った九龍を振り返る。
「なに言ってんだ。お前は墨木にマミーズの日替わり定食一週間分おごるハメになったんだぜ?」
「そんなの、たいした事じゃないさ」
「まあ、お前は無駄に金持ってやがるからな」
 再び髪を洗い始めた甲太郎を見つめながら、九龍はふふっと笑みを浮かべた。
「そんな意味じゃないんだけどね」
 シャワーの音で九龍が何かを言った事など気づかない甲太郎はガシガシと髪についたインクを懸命に洗い流していた。
「地上最強カレー、今度ごちそうするよコータ」
「何、本当か?」
 その反応にくくっと笑いながら九龍は湯船から立ち上がって、髪を洗う甲太郎の背後にしゃがみこんだ。
「もちろん。コータの愛に応えるためにね」
「え?今なんて言った?」
 聞こえているのか聞こえていないのか、甲太郎の顔は首筋、耳の裏まで真っ赤に染まっていた。



end

※この小説は参加中の九龍SNS内でキリリクとして篠宮さんに贈らせていただいたものです。

イラスト提供:エディさん HP