■ 選択式お題より10個抜粋

 03.言うべきか言わざるべきか (ナミ×ルフィ+ 麦わら海賊団) 水天宮拓仄
 今日は7月3日。
 麦わら海賊団の航海士であるナミの誕生日だ。
 一向は航海中にも関わらず、サウザンド・サニー号の甲板で朝から誕生日パーティの準備に忙しい。
 主に忙しいのは料理を担当しているサンジとそれを手伝うロビンとチョッパー。
 次に忙しいのは、会場設営を負かされたフランキーとウソップである。
 ブルックはパーティの会場で流す曲を選び、楽譜を確かめたり楽器の手入れに余念がない。
 ゾロは相変わらず見張り台兼とレーニングルームで、見張りをしつつ筋力訓練中だった。
 この船の船長である、このパーティの主催者でもあるルフィに至ってはやる事が見つからずに甲板から海へ釣り糸をたらしていた。

「ナミにすっげー美味い魚食わせてやるから」

 これが釣りを始める前の気合だったが、釣りを始めて一時間以上経過してもルフィの竿に何も反応が無い。
 いつもなら面白いように釣れる海なのに今日に限って魚が寄り付かない。
 それは落ち着きの無いルフィの気を敏感に察知した魚達が彼の手に繋がっている糸へ近づかないからである。

「あー!全然釣れねぇな!みんなで引越しちまったのか?」

 背中から甲板に倒れて手に持っていた釣り竿を放り投げて空を見上げると、急に視界が暗くなるのを感じた。
 くすくすと笑いながら近づいてきた人影がルフィの顔にかかったのだ。

「釣れた?私へご馳走してくれるんでしょう?」

 オレンジ色の髪を揺らしながら笑う女は、今日の主役であるナミ。
 ショートパンツにキャミソールという格好で寝転ぶルフィを見下ろしていた。

「ナミ!魚がみんなで引っ越しちまったみてぇで全然引っかからねぇんだ」

 申し訳なさそうに詫びるルフィに少し意地悪い顔を作ってしゃがみこんで顔を上から覗きこみながら唇を開いた。

「困ったわね。私の誕生日パーティでプレゼントが無いなんて・・・次の港で・・・ってのも良いけど利子がつくわよ?」

 悪びれもせずに自分へのプレゼントを要求しても、かえってそれが彼女らしい。
 ルフィもプレゼントの要求を本人からされても特に気にしない性質だった。

「魚じゃなくてもいいか?」
「あら、私はルフィから何か貰えるなら・・・とっても嬉しいわよ?」

 にっこりと笑ってからスクッと立ち上がると踵を返して自室の方向へ向かっていく。
 ナミの背中を寝転びながら見送ると、ルフィはガバリと上半身を起して足と腕を組んで頭を捻った。

「うーん・・・俺って何も持ってないもんなぁ」

 しばらく青空の下で何をプレゼントしようか悩んでいるルフィの背後から、再び近づく人影がある。
 目を瞑りながら悩んでいるルフィは敵意の無い気配には疎く、あっさりと背中をとられてしまった。
 両肩から伸びてきた細い二本の腕がルフィの閉じられた瞳を上から塞ぐ。
 そんな芸当ができるのは、この船には一人しかいない。

「わっ!ロビンっ何すんだよ!今、考え事してんだから!」
「ふふ・・・その考え事は、ナミへのプレゼントでしょう?私に提案があるのよ」

 瞳を塞いでいた腕を消すと、座りこんでいたルフィの高さにあわせて腰を屈めて、そっと耳元で囁いた。
 その言葉にルフィの瞳は輝きを取り戻す。

「そっか!それ、いいな!ロビンありがとう!」
「どういたしまして。準備、手伝いましょうか?」
「いいのか?サンジの手伝いしてたんだろ?」
「ええ、もう私が手伝える事は終わったから一休みよ。あとはサンジとチョッパーがやってくれるわ」

 ルフィに手を指し伸ばすと、躊躇もなくその手を握られる。
 ぐっと引いて立ち上がらせると、普段ロビンが書斎として使っている部屋ではなくて男部屋へ向かう。
 ロビンが使っている部屋へ行くということは、ナミがいるのでプレゼントを用意するには不向きだという事だ。



 その夜。
 サウザンド・サニー号の甲板を豪華に飾り立て、大きなテーブルを囲んだ麦わら海賊団のメンバー。
 料理や飲み物もすべて準備してあり、一同はグラスを手に持ち主役のナミに注目していた。
 ただ、ブルックだけはパーティ会場のBGM係でピアノを弾いている為にグラスを持つ事はできなかったが。

「それでは、ナミさん。主役から一言お願いします」

 優雅な身のこなしでナミに声をかけるのはサンジ。
 グラスを持つ反対側の手には大きくて綺麗な花束を抱えて瞳を輝かせている。

「ええ。−今日は私の為にありがとう。これからも、よろしくね!それじゃあ、乾杯!」

『乾杯!』

 ブルック以外の全員でグラスを星空へ掲げてからグイっと飲み干すとパーティが始まった。
 次々とナミの元へプレゼントを携えたクルー達が歩み寄ってくる。

「おめでとうございます、ナミさん!この花束・・・君の美しさには叶いませんが僕の気持ちです」
「ありがとう、とっても綺麗な花束ね。後で私の部屋へ活けるわ」


「ヨホホ〜私からは、この曲を!」
 さきほどまで弾いていた静かな曲を止め、楽しそうで聴いているだけで嬉しくなるような曲を心を込めて弾く。


「おめでとう、ナミ。これ、私達からの気持ちよ。喜んでもらえるかしら?」
 ゾロとチョッパーを後ろに従えて、リボンのついた小さな箱を両手でナミに差し出すのはロビンだ。
「三人で選んだんだぞ!つまんねーもんだけどな!」
 ロビンの後ろで頭を隠しながら尻を出すチョッパーがツンデレっぽい事を言いながらニコニコと笑う。
 その横にはいつもの無愛想な表情に変わりは無かったが、こういう場に慣れていないゾロが鼻の頭をかきながら、
一瞬視線だけをナミに向け、その視線に微笑み帰されて慌てた様子を見せた。
 くすりと口元に笑みを浮かべてナミは受け取った箱のリボンを解き、中身を取り出すとそこには金色のイヤリング。

「可愛い!オレンジね?」
「似合うと思うわ。ね、ゾロ?」

 そっぽを向いていたゾロに話を振ったのはロビンの親切心である。
 そうでもしないと、この大いに照れ屋な部分がある剣士は自分からお祝いの言葉等はかけられないだろう。
 案の定ロビンを一瞬睨んだゾロだったが、自分を見つめるナミの視線に気づくと唇を開いた。

「つけろよ、それ」
「ありがとう、ゾロ。それにチョッパーとロビンも!大事にするわ」


 ロビン達がナミの前から離れるとウソップが駆け寄ってきた。
 どうやら手には何も持っていないようだ。

「ナミ!」
「ウソップ。何も持っていないようだけど?」

 椅子に腰掛けて足を組み、首をかしげて下から見上げるナミを前にウソップは苦笑する。

「お前なぁ。普通、自分へのプレゼントを要求するか?」
「ふふっ当然でしょ。だって今日は私の誕生日よ?みんなから何かを貰えると考えただけでもワクワクするわ」

 にっこりと笑ってウソップを見上げる。
 そして、その視線を受け止めたウソップがその厚めの唇をニヤリとゆがめて右手をさっと掲げた。

「これが俺とフランキーからのプレゼントだ!」
「おうよっ」

 次の瞬間、星空に向かってヒュルヒュルと何かが昇っていき、一瞬見えなくなった。
 その直後にナミの真正面に大輪の華が次々と大音響と共に開いていく。
 最後にあがった華はナミが腕に刻んだ蜜柑と風車をモチーフにした大輪が夜空を彩った。

「おめでとうナミ。どうだ?俺とフランキーの特別花火は」
「・・・びっくりした・・・すごく綺麗だった。ありがとう二人とも」

 少し涙ぐんでしまったナミはそれを誤魔化すためにグラスに残っていた酒をいっきに煽っていた。


 最後にナミの元へやってきたのはルフィである。
 何がそんなに自信満々なのかわからないが、とにかく満面の笑顔を浮かべながら近づいてきた。

「ナミ誕生日おめでとう!」
「ありがとう、ルフィ。で、私へのプレゼントは何にするか決まったかしら?」
「おうっこれやるよ!」

 元気よく返事をしてズボンのポケットに手を突っ込むと、ちょっとよれてしまった一枚の紙きれ。

「・・・”願い事が叶う券”?何、これ」

 ルフィに手渡された紙切れには、下手な文字と下手な絵がカラフルな色で描かれていた。
 ピラピラとさせながら目の前に立つルフィを見上げる。

「だから”願い事が叶う券”だ!お前の願い事を一個だけ俺が叶える券なんだっシシシッ」

 後ろ頭に両腕を回して、足をクロスさせて、その表情は眩しいほどの笑顔。
 目を細めて眩しいものを見つめるかのうように目の前の男を見上げ、紙切れをぎゅっと握り締めた。

ーどうしよう・・・今なら、言えるかもしれない・・・でも・・・言ったら・・・ルフィは?みんなは?

 ナミの瞳に迷いが浮かぶ。
 それを敏感に感じ取ったルフィがずいっと一歩足を踏み出して、座っているナミを覗き込むように腰を曲げた。
 間近に迫った真っ黒な瞳。
 高鳴る心臓に、紙切れを握った掌がじんわりと汗で滲んでくる。

「ルフィ・・・」

 何かを言おうと決意したナミが真っ黒な瞳に自分の姿が映るのを不思議そうに見つめ、唇を開いた瞬間。
 再び、夜空を明るくした大輪と、ブルックのピアノや会話をかき消すほどの大音響が響いた。

「・・・・・・って!」
「え、何・・・聞こえなかったぞナミ!」

 ナミが言葉を発した瞬間、その声は花火の大音響でかき消されてしまった。
 何を願ったのか聞き逃してしまったルフィは困り顔だ。

「もう一回言えよナミ。今の聞こえなかったから」
「願い事なら、もう叶ってるからいいわよ」
「・・・?・・・?」
「ありがとう、ルフィ」
「俺、何にもしてないぞ?」

 まったく理解できないという顔で浮かべるルフィにナミは綺麗に微笑んでみせる。

「うん。もう、私の願い事は叶えてもらっているから。そう、たった一つのお願い事」

 ふふっと笑みを零すナミ。
 彼女の目の前で困惑顔をするルフィの背後で、また一輪の華が夜空を鮮やかに彩っていた。

ー私の唯一の願い事・・・それは、あなたと共に・・・これ以上は何もいらない。


end