■ 選択式お題より10個抜粋

 04.一生かけて償って (ゾロ×ナミ) 水天宮拓仄
 アラバスタの危機を救った英雄達は、傷ついた体を癒す為に国王と王女の好意で城に身を留めていた。
 英雄達は今や高額賞金首に名を連ねる麦わら海賊団の事。
 船長のモンキー・D・ルフィは、王下七武海の1人に数えられるクロコダイルとの死闘を終え、
今は死んでもおかしくないような大怪我を癒す為に食も忘れて昏睡状態にある。
 戦闘が終わった直後は、倒れている所をアラバスタ王と城の兵士達に保護された麦わら海賊団の一行は、
ルフィを除く全員が丸一日の眠りの後、目を覚ました。

 目を覚ましたナミはアラバスタ城の地下にある資料室に足を運んだ。
 今回のアラバスタ全土を巻き込んだ闘いにおいて、普段は戦闘には加わる事のない航海士・ナミも
クロコダイルが組織したバロック・ワークスの幹部との闘いで、大変な怪我を負っている。
「さすが一国の城にある資料の数はハンパじゃないわね」
 蔵書目録だけでも、百科事典ほどの厚みがある本で数冊。
 滞在できる期間は僅かしかない。
 できるだけ多くの蔵書に目を通し自分の知識に蓄えたいと傷も体力も癒えないまま、
ナミは目を覚ました途端にビビと国王に資料室への入室を希望したのだ。
 目録に目を通し、自分に不足している知識を補う事ができる蔵書を数冊選び、
資料室の管理を任されている人物に取り出してくれるように頼む。
「これと…これと…あと、これとこれ。とりあえず4冊頼むわね」
「はい!しばらくお待ちください。時間かかりますので、そこで寛いでいてくださいね」
 資料室の管理人は、ナミが伝えたタイトルをメモに書き留めて部屋の奥にかけて行く。
 これだけ広い資料室で、数千冊もある蔵書。
 取り出すだけでも時間がかかるのだろう。
 部屋の出入口付近には、ちょっとした寛げるスペースが設けられたいた。
 椅子に腰かけ、近くにあったポットから冷水をカップに注ぎ飲み干した。
「ふ〜地下は涼しくていいわね〜私のベッドここに移動してもらおうかしら?」
「何言ってやがる…こんな所に篭ってたら治るもんも治らねーだろ。冷えすぎる」
 いつの間に現れたのか、扉を開けて呆れ顔を見せる男が立っていた。
「ゾロ!あんたがこんな所へ来るなんて珍しいわね」
「涼しい場所を聞いたら、ここだと教えられたもんでな」
 ポットを手にとり、そのまま口をつけてゴクゴクと勢い良く飲む。
「ちょっと、カップ使いなさいよ」
「全部飲んだし、別にいいだろ」
「ったく…私もまだ飲みたかったのに」
 頬を膨らませるナミを見つめるゾロの表情がゆっくりと変わっていく。
「どうしたの?」
「お前さ…もう、やめろよ」
「何?なんの話し?」
 開けた扉に背を預け、ゾロが言い難そうに口ごもる。
「今回みたいな事、をだよ」
「今回って…だから、何よ?」
 その言葉に怒ったような表情を見せたゾロがツカツカと近づいてくる。
 椅子に座ったまま、その迫力にナミは思わず後ろへ逃げたい気持ちになった。
「この傷…残ったらどうするつもりだ」
 顎を掴み、ぐいっと自分の方に向けさせると、綺麗なナミの左頬に浅い筋のような傷。
「別にかまわないわよ。海賊に身を置いているんだから、傷が無い方がおかしいじゃない」
「お前は女で航海士だ…戦闘には向いてねぇ」
 今度はこの言葉にナミが眉を吊り上げた。
「仕方ないじゃない、ウチは少数なんだから。
全員が自分にできる限りの事をしなければ生き残っていけないのよ!」
 顎にかけられたゾロの手をバシっと叩き落し、正面に立つ男を下から睨みつける。
「私…女だって、自分の信じるモノに命をかけるわ!馬鹿にしないでよ!」
 石で作られている地下の資料室にナミの高い声が響き渡った。
「それで本当に死んだらどうするんだ!お前が死んでも誰も喜ばねぇぞ」
「生きる為に闘うのよ!あんたと違ってね!」
 椅子から立ち上がって、本気で怒る。
 仲間に向かってなんて失礼な事を言い出すのだろう、この男は。
「だったら!」
「だったら?だったら何よ」
 声を荒げたナミにゾロも同様に荒げる。
「俺の傍から離れるな!」
 細い肩を両手で掴み、少し屈んでゾロは目の前で、驚いた表情を見せるナミの瞳を見つめた。
「な…何言ってんのよ」
 視線の高さを合わせ、まっすぐに見つめられる事に慣れなくてナミは視線を床に落す。
 心臓の音が石造りの資料室に響きそうな程にうるさい。
「お前の命は俺が守ってやるって言ってんだ」
 真剣な表情、真剣な声。
 こんなゾロは、死闘に向かい合っている時にでさえ見たことが無い。
 死闘に臨む時さえ、嬉しそうな表情を見せるような男が本気で自分の身を案じているのだ。
「今回の事、もしかして気に病んでたりする?」
「…うっ」
 下から覗きこむようにゾロの視線に自分の視線を絡めて、意地悪い笑みを浮かべてみせた。
 その視線に今度はゾロがうろたえる番。
「私が怪我したの、自分のせいだって思ってるわけ?」
 ずいっと前に足を踏み出すと、ゾロがあとずさる。
「…」
「ねぇ、そうなんでしょ?」
 問い詰められて後ろにあった椅子に行き先を詰まらせたゾロはそのまま腰を下ろした。
 椅子に座ったゾロに上から被さってナミは笑う。
「そ…そうだよ!悪かったと思ってる」
 頬についた傷をそっと撫でながらゾロが申し訳無さそうな表情で謝る。
「なぁるほど…ね?」
 ニヤリと笑ってゾロの額にチュっと口づけて、ナミは椅子に座ったまま呆然としているゾロから数歩離れて振り向いた。
「ナミ?」
 行動の意図が読み取れなくてゾロは唇の触れた額に手を添えた。
 数歩前に笑顔で立っているナミを見つめる。
「私の体に傷が残ったら、ゾロ。一生かけて償ってもらうわよ?いいわね!」
 そう言うとナミはゾロの目の前で被っていただけのワンピースを脱ぎ捨て、下着姿を晒す。
 突然の事にゾロは声も出せず、体が硬直して椅子から立ち上がる事もできない。
 資料室の奥から、パタパタと人が出入口に近づいてくる足音が2人の耳に入る。
「この、馬鹿!」
 ガタンと椅子から立ち上がると、慌ててナミが脱ぎ捨てたワンピースを拾うと、
裏表も前後も考えずに、頭から力任せに被せた。
「わっ!ちょっと、ゾロ!痛いってばっ」
「わ…わりぃ!」
 乱れた髪に痛みの為にうっすら浮かんだ涙にドキリとした表情を見せるゾロ。
 その表情を読み取ったナミが悪戯っぽく笑みを浮かべ、小さく舌を出す。
 そろそろ管理人が戻ってくる頃だとわかっていたから脱いだのだ。
「ナミさん、お待たせして申し訳ございません!あれ、ゾロさんも何かお探しですか?」
 少し息を切らして4冊の蔵書を抱えた管理人にバツが悪そうな顔を見せ、ふいっと顔をそらして扉に向かう。
「いや、もう見つかったからいい」
「え…?」
「ありがとう。じゃあ、その4冊借りていくわね。ゾロ、持ってちょーだい!」
 2人の様子に困惑する管理人と、部屋から出て行こうとしたゾロにナミは元気に声をかけた。
「何で俺が…」
「あら、私に償いしてくれるんでしょう?傷モノにしたのゾロだものね?」
「人聞きの悪い事言うな!ったく…」
 クスクスと笑いながら耳元で呟くと、耳から顔を真っ赤にしたゾロが重そうな蔵書を受け取り、先に歩き出したナミの後を追う。
「あれは一生尻に敷かれるタイプだね」
 2人のやり取りを見た管理人が笑いながら、資料室の扉を閉めた音が地下に響いた。

End