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| ■ 『 フラワー 』 水天宮拓仄 |
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(やっと静かになったぜ…)
海上レストラン・バラティエの副料理長であるサンジは、全身傷だらけになって眠っているルフィを、ベッドの横で見つめていた。
『おい!お前、仲間になってくれよ!』
『まーいいや、仲間になってくれよ、お前』
『いやだ!断る!』<…何がだ>『お前が断ることを、おれは断る!お前はいいコックだから一緒に海賊やろう!』
今まで、自分の顔を見ると必ずルフィが発するセリフ。こんなにじっくりと、ルフィの顔を見たことがなかった。ちらっと聞いたが、まだ十七歳。戦っている姿からは、想像できないくらいあどけない寝顔を自分にさらしている。
「口開けば、仲間仲間って…クソばかやろうが…」
煙草に火を灯して軽く吸う。ルフィに煙がかからないように、ゆっくりと吐き出した。改めで寝顔を見つめるサンジ。いくつもの傷をつくってまで、己の命を危険にさらしながら、夢と信念にそって突き進むルフィをうらやましく思える。
最初は、バカだとばかり思っていた。しかし、数日間の付き合いでルフィの本質を見た。自分は、この命知らずの少年に、ひかれはじめている。
「おれだって…行ってやりてぇんだよ…でもなぁ…おれはジジィに返さなきゃならねぇもんがありすぎるんだ」
ルフィに語りかけていながら、自分に言い聞かせている。かつて夢見た“オールブルー”。
最後にルフィの頭を軽く撫でると、ベッドから離れた。突然、海を見たくなって、すぐ側の窓を開ける。自分は窓の外へ出た。ベッドに背を向けて、海を見ながらタバコをふかした。こうしていると気分が落ち着く。
「ん?」
背後でルフィの気配を感じる。
「帽子っ!」
起きるなり、心配することは帽子。それほど、大切なものなのか。なんとなくつまらない気分でサンジは、ゆっくりと振りかえった。
「あるだろ、そこに。目ェ覚めたかよ」
しばらく何気ない会話。そして、お決まりのセリフが…
「ところでお前…」
「おれは行かねェぞ。海賊にゃならねェ」
間髪入れずにセリフをさえぎった。これ以上この呪文のようなセリフを聞かされたら…。
(いっその事、ジジィに言って…もらえたら)
自分の気持ちと裏腹に、口から出た言葉は反対の意味を持っていた。
「ここでコックを続けるよ。クソジジィにおれの腕を認めさせるまで…」
でも、本当は行きたい。この無謀とも思える少年の夢と、自分の夢は同じから。一緒に夢を見たい。
(そういえば、こいつにおれの夢を教えてねェな…)
ルフィに“オールブルー”を楽しそうに語るサンジは、少年に戻っていた。
その後、サンジは、ゼフやコック仲間からの気持ちで、ルフィと海へ出ることになる。レストランから離れる時は、ゼフに恩を返した時だと思っていた。まだ、自分は、何ひとつ返していない。
(まあ、いいさ。この航海が終わったら…ここへ戻ってこよう。もちろん、こいつたちもな)
「また遭おうぜ!クソ野郎ども!」
「いくぞ!出航!」
ルフィ、サンジ、ヨサクをのせた船は、海上レストランを後ろに見ながら旅立った。
新たな夢をのせて…。
― 海上レストラン・バラティエにて、念願の“海のコック”サンジを仲間に引き入れ、船はゆく ―
ヨサクは、今だに号泣している。レストランから離れて、もうだいぶ経っているというのに…。サンジは、一人になりたくて船室にこもっていた。ルフィは、ヨサクの様子を眺めていた。
「…サンジの奴、大丈夫かな?」
ふとサンジが気になって,船室に入って行く。
「…何だよ?」
船室の床に座って、煙草をふかしながら入ってきたルフィを下から睨みつける。
「元気になったか?」
「うるせェよ。しばらく一人にしてくれって言っただろ?」
その言葉もおかまいなしに、ルフィはサンジの正面に腰を下ろす。何を話すわけでもなく、ただ座ってサンジを見ているルフィ。
(…ひょっとして慰めてくれてんのか?)
サンジはルフィを見つめながら、思いをめぐらす。まだ、信じられない。自分がこうして、海賊として航海に出るなんて。さらに、この無鉄砲な男がキャプテンとは。
(こいつの戦い方は、無謀すぎる。一対一ならいいが、大勢での海戦となると危ねェ…おれが守ってやらねェと)
「おい、ルフィ」
「なんだ?」
話しかけられてうれしいのか、ぱっと目を輝かせるルフィに自然と口元に笑みが浮かぶサンジ。沈んだ気持ちも、だんだんと薄らいできた。これも、この少年の魅力の一部なのだろうか。
「クリークの時みてェな闘い方してっと、死んじまうぜ。いつか」
「おれは、死なねェよ!海賊王になるまではな」
自信満々の笑顔を見せると、自然とルフィの手が帽子に伸びる。帽子を軽く叩くと満面の笑顔が、微笑みに変わっていく。その変化が、あまりにも自然でサンジは、思わず見惚れていた。今の自分をごまかすためにとっさに口を開いたサンジ。
「その帽子、ずいぶん大事にしてるんだな」
「ああ!親友の海賊から預かってるんだ。いつか、海賊王になってコレをシャンクスに返すのが、おれの夢だ」
「シャンクス?どっかで聞いたことあるな…」
思い出そうとしたが、どうしても思い出せなかった。どこで知ったのかも。
「おれもシャンクスみたいな海賊になりてぇんだ」
「ふ〜ん」
(そんなにすげェ奴なのか…シャンクスってのは。おれも、これくれェで落ち込んでらんねェな…)
「グランドラインに絶対、サンジの行きたい“オールブルー”もあるぜ」
「ああ。連れてってもらうぜ、キャプテン」
「まかせとけ!」
ルフィは、サンジの横に移動して肩を組む。突然の接近に、サンジはどきりとした。レストランにいた時に、ルフィへの感情を理解したばかりだった。自分は、今まで女の子ばかり追いかけていたが、ルフィは純粋に好意を寄せる存在だ。
「よしっ。おれが海賊王になれるようにまじないしてやるよ」
「んっ?」
ルフィの顎を捕らえると、クィっと上げた。きょとんとした目でサンジを見つめるルフィの、唇に軽くキスを送る。それは、ほんの一瞬だったが確かに触れ合っていた。
「これでいいぜ」
「へへっ!これで海賊王になれるなっ」
無邪気に笑うルフィを見つめて、目を細める。この笑顔を守らなければと、サンジは心の中で誓うのだった。この笑顔を消してはいけない。
「…ありがとな、ルフィ。おれなら、もう大丈夫だ」
「そっか、サンジはキスすると元気になんのか?」
「い、いや、そういうわけじゃ……えっ?」
今度は、ルフィの方からサンジへキスを送る。頬にルフィの唇を感じて、サンジの頬から全身へ、電撃のような力が走る。
あまりに思いがけないことで、サンジは何も言えなかったし、動けない。しばらくして、ルフィが離れていった。
「これで、大丈夫だろ!外、行こうぜ!ヨサクにもしてやろっと!」
「ま、待て!これは、俺にしかきかねぇんだ!ヨサクは大丈夫だからっ!」
慌ててルフィを止めて、立ちあがるとルフィを促す。その表情は照れ笑いが浮かんでいた。
翌朝。一人、早く起きたサンジ。やはり、コックとしての行動になっている。当然、レストランにいた時の仕込みは早朝からだ。これからは、こんなに早く起きなくてもいいと、喜んでいたのに…。
「ちっ…何もすることがねェ。こいつら、いつまで寝てるんだ?」
甲板の上に腰を下ろすと、煙草を取り出して火をつける。
「…それにしても、ルフィの奴。本当にわからねぇで、あんな事やったのか?」
普通、十七にもなれば性への関心も、知識もある程度あるはずだ。なのに、男同士のキスを疑いもしない、あの態度。そこまで純粋な心なのだろうか?
「仲間か…俺としては仲間以上になりてェけどな」
(でも、あいつの気持ちがシャンクスって海賊にある限りは…俺はただの仲間なんだろうなぁ…)
煙草を大きく吸うと、青空に高く上っている太陽を見上げる。
「まあ、いいさ。あいつの夢もおれの夢と同じ。必ずおれが叶えてやるさ」
太陽を見上げながら、サンジの目が細められた。
おわり |
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