■ 『 孤独な宣戦布告 』 水天宮拓仄

 日々、穏やかな航海が続いている…とある晩。ふと、サンジは目を覚ました。ほんの少し、布ズレの音を聞いたからだ。
「…?」
 ゆっくりと視線を周囲に向けてみると、ルフィがこっそりと部屋から出て行く背中が見えた。
(あいつが夜中に目を覚ますなんて…具合でも悪りぃのか?)
 ほんの少し、心配になってサンジは静かに部屋を出て行く。部屋を出て、耳を澄ましてみた。ルフィがどこへ行ったのか気になる。ルフィ率いる、海賊稼業もだいぶ軌道にのりはじめ、今や立派な賞金首になっている海賊だ。船も、それなりに大きくなっている。
「どこ行きやがったんだ」
 いつものように懐に手を運ぶが、途中で思い出したように手を止める。いつものジャケットは部屋の中。今のサンジの姿は、ジャケットとワイシャツを身につけていない半裸状態。眠るときは、脱ぐ習慣がついているのだ。
 適当に甲板を歩くと、すぐにルフィの姿を見つけた。声をかけようと、一歩踏み出そうとした足が空中で止まる。何か、様子が変だ。
「…ふっ…あっ……んぅ…」
(そういや、最近してねぇもんな…仕方ねぇんだが…)
 見て見ぬふりをして立ち去ろうと、足音を立てないように踵を返そうとしたサンジの耳に、ルフィの口から思いがけない人物の名前が聞えた。
「ぁ…シャ…ンクスぅ…んんっ」
「!」
 すぐに振りかえって、今度はわざと足音を出す。その音にルフィの息を呑むのがわかる。その反応にも、サンジはむかついた。
 一応、自分とルフィの関係は、まがりなりにも“恋人同士”だと自負している。何度も唇を重ね、体も上陸するたびに重ねてきた。その恋人が、他人を想って一人で己を慰めているのだ。サンジの表情は険しい。ルフィのいる甲板へ現れると、座りこんでいるルフィを睨みつけた。
「サンジっ!」
「…てめぇ。そんなに、“シャンクス”がいいのかよ?」
 まだ服が乱れたままのルフィの胸倉を掴んだ。サンジが怒っている理由がわかるうえに、自分の今の行為を見られたせいで、ルフィはサンジを見返せない。
「何とか言えよ!ルフィ!」
「ごめん」
「ごめん?ふざけんなっ!」
 胸倉を離してルフィの首を掴む。苦しそうに表情を歪めるルフィ。
「く…くるし…離せっ」
 サンジの手を振り払う。
「…ルフィ。もしかして、てめぇ。オレの事“シャンクス”の代わりにしてたんじゃねぇだろうな?」
 幾分、冷静になったサンジはルフィを問いただす。あいかわらず、表情は厳しいままだったが。一方、ルフィは困ったような表情でサンジを見つめている。
「…最初は…そうだったかもしれない…けど、今はちがうぞ」
「じゃあ、なんでてめぇは、“シャンクス”思い出して一人でやってんだよ?」
「ゆ、夢に出てきて…それで…」
 その言葉にサンジの眉間にいっそうしわがよる。次の瞬間には、ルフィを甲板に押し倒していた。
「何すんだ!いてぇだろっ」
「るせぇ!黙ってろ!」
 ルフィのシャツを破ると自分の後方へ放る。
「サンジっ!やだっ」
「夢で“シャンクス”としたんだろ?夢じゃたりねェだろーが。オレがやってやるよ、“シャンクス”の代わりにな」
 ルフィが今まで見たこともないような、冷ややかな笑みがサンジの表情に浮かぶ。自分の腕を押さえつける指の力も、いつもと違う。いつものやさしいサンジの指ではなかった。
「やめろっ!ここ、海の上なんだぞ!」
「…関係ねぇよ」
 ルフィの口を手のひらで塞ぐと、早急にサンジはルフィの下半身へ指を這わせる。いつもの時間をかけて施してくれる愛撫もなく、サンジの指はすぐに奥まった部分へ辿りつく。そして、潤いもなにもない硬いつぼみへ、指を突き立てる。「んんっ!ううぅ…」
 ルフィの表情が痛みのために歪められる。その顔に少々の罪悪感もわくが、サンジは行為を続ける。男の嫉妬は情けないと思うけど、どうしても許せない。相手が、自分よりも大きな存在だとわかりきっているだけに、サンジはこの気持ちを止めることができない。今、ルフィと一緒にいるのはシャンクスじゃなく自分。
「ルフィ…そんなに“オレ”が嫌なら目閉じればいい。そして、想像しろよ…今、てめぇを抱くのは、“オレ”じゃねぇ。おまえの大好きな“シャンクス”だ」
 涙目のルフィにゆっくりと、この残酷なセリフを聞かせる。
(くそっ!我ながら情けねェぜ…)
「ぅぅううっ」
 サンジの言葉に、溜まっていた涙を流してルフィは首を振る。サンジの目を見つめると、更に大粒の涙を流している。
「…ルフィ?」
 こんなに泣いたルフィを初めて見た。さすがに、これ以上は気が引けてきた。そっとルフィの中にあった指を引きぬく。そして、口を塞いでいた手を外した。
「ちがうんだっ…オレはサンジが好きだ!シャ…ンクスとはちがう」
 今も止まらない涙を腕で覆い隠すと、ルフィは必死に言葉を発する。
「でも…お前、今…誰を想像したんだよ」
 ルフィの腕を取ると体を起こしてやる。
「ごめん…としか、言えないけど…」
「それじゃわからねぇだろ?わかるように言え」
「オレにもわからないんだ。なんでシャンクスなのか」
 見つめるとうそを言っているとは思えないし…元より、ルフィはうそが言えない人間だ。無意識に…といったところなのだろう。
(無意識にか…やっかいだぜ)
 あまりにも、ルフィの中にある“シャンクス”の存在の大きさを知って、サンジはひたいに手をあてて、大きなため息をついた。
(まずは、シャンクスよりも“オレ”の存在をでかくしねぇとな)
「サンジ…ごめん」
「…ああ、オレも悪かったな。痛かったか?」
 ルフィの涙を舐めてやる。一通り涙を消すと、唇を奪う。それに素直に従うルフィを抱き寄せた。自然とルフィの腕が、自分の背中へ回ってきた。
(今はこれでいいかもな…まだまだ先は長いんだ。勝負はこれからだぜ!なあ?“赤髪のシャンクス”さんよぉ)
 ルフィの唇を堪能しながらの宣戦布告に気づいた者は、誰もいない。


おわり