|
 |
|
 |
|
| ■ 『 続・孤独な宣戦布告 』 水天宮拓仄 |
|
「よぉ、起きたか?」
「ん…んっ」
ベッドから半身を起こしてルフィが目を擦る。その隣にはタバコをふかしながら、やさしく微笑むサンジが居た。今ふたりがいる場所は、航海の途中で立ち寄っている大きくも、小さくもない港街にある宿屋の一室。
「う〜…」
まだ完全に覚醒していないルフィを引き寄せて唇を合わせるとサンジは、吸いこんでいた煙を吐き出した。
「…!うっ!うぅぅぅっ!ぶはぁっ」
無理矢理煙を肺に流しこまれたルフィは、涙目になりながら咳き込む。
「何すんだよっサンジ!」
「さっさと起きろよ、もう出るぜ」
意地悪な笑みを浮かべてサンジは、ベッドから降りると床に散らばったままの衣服を拾い集めて身に着けていく。
「もうちょっとくらい、いいじゃんか〜」
唇を尖らせてルフィもベッドから飛び降りる。ルフィも衣服を身に着けていなかった。裸のままうろつくルフィにサンジが床に落ちていた服を投げつけた。
「早く着ろよ、まだやりてぇの?」
ニヤニヤと笑ってルフィをまじまじと見つめる。その視線に、さすがのルフィも顔を赤らめて、慌てた。受け取った服を身につける。
「もういいっ!」
サンジに向かってルフィが照れ笑いを浮かべている。そう、昨夜二人は船から抜け出して街の中にある宿屋に泊まったのだ。もちろん、船の仲間には内緒だ。仲間たちが起きる前に船へ帰らなければならない。
「よし、帰るぞ」
「うんっ」
宿を出ると二人は、船の停泊させてある港へ向かって歩いていく。夜が明けたばかりの街は、まだ薄暗く肌寒い。露店もまだ出ておらず、人々はまだ深い眠りの中、誰も存在しないような錯覚に陥るほどの静寂。
「麦わらのルフィ!」
その静寂を突如に破る甲高い声が辺りに響いた。その声にルフィとサンジは足を止めて周囲を見まわす。ぐるりと首をまわすと、小さな路地からほっそりとしたシルエットが二つ。
「誰だ?」
呑気な声でルフィがシルエットに呼びかけた。ルフィの声に反応して、シルエットが動く。路地から出てきたのは若い女だった。それも相当の美人が二人。
「何かご用ですか?美しいレディ達」
美女と見てサンジがすかさず一歩踏み出して目を輝かせた。その態度にルフィが、サンジの背中をつつく。
「あ、悪りぃ…つい…な?」
「何がついだよっ」
「無視するなっ!」
いちゃつきはじめた二人に、美女の一人が声を荒げる。その声に、ルフィとサンジが美女を改めて見た。
「あんた、“麦わらのルフィ”だね?」
「そうだけど。あんた達は?」
すごい剣幕の美女を前にして、至って平静なルフィに、ナンパの腕がうずくサンジ。
「あたし達は、賞金稼ぎユニットよ。あたしは、マチルダ」
「わたくしは、しなのと申します」
まったくタイプの異なる美女。荒々しい口調の美女は、露出度の高い服にハイヒール。妙に礼儀正しい美女は、袴姿が決まっていた。
「それで?」
「……それで…だって?あんた、馬鹿なの?」
「わたくし達は、あなたの首を獲りにきましたの。モンキー・D・ルフィさん」
にっこりと笑って、しなのは日本刀をすらりと抜き放った。それも、二刀流。一方、マチルダは見たこともないピストルを取り出した、そのピストルも二丁。
「ちょっと待ってください!レディ達が勝てる相手じゃないですよ!僕は、あなたたちを傷つけたくないっ」
殺気立つマチルダ&しなのと呑気に構えるルフィの間へ割って入るサンジ。いくら強そうでも、ルフィ、ましては自分も加われば彼女達に勝ち目はない。さらに、ルフィは美女だからといって手加減をするような男じゃなかった。
「おどきなさい。あなたには関係がないことです。怪我をしますよ?」
しなのがルフィを見据えながらサンジを制した。
「悪いが、関係あるんだよ。こいつは、俺の船長でしてね」
今までのにこやかな表情が消えて、サンジの目に力がこもる。その威圧感にしなのがジリジリとサンジとの間合いを詰め始めた。ルフィから視線を外してサンジの動きに注目する。
「サンジ、いいよ!オレがやれば終わるしさ〜」
「あんたの相手は、あたしだよ!」
ルフィに向けたピストルが火を吹く。それをよけもせず、ルフィはまともに弾丸を受けた。しかし、ゴムの体に弾丸は効かない。
「オレにピストルなんか効かないね!」
伸びて、弾き返した弾丸は、マチルダの左頬をかすめていく。一筋の血が彼女の美しい肌に流れた。
「……!な、何なのよ、あんた!」
「ああ、そいつはゴム人間なんだよ」
サンジが横から口を挟んだ。その一瞬の隙にしなのが一気に間合いを詰めて、切りかかる。相手が女であることからサンジに隙が生じていた。
「やぁっ!」
「!ちっ…クソっ」
「サンジっ!」
しなのの二刀流がサンジに振り落とされた。気づくのが一瞬遅れてしまったサンジに一本目が肩をかすめる。シャツに真っ赤な血が滲んだ。二本目は、かろうじて交わしたが態勢を崩していた。それを逃すまいとしなのが更に踏み込む。避け切れない!
「サンジ!あぶねぇっ」
振りかえりざまにルフィがサンジに向かって駆け出した。その時、ルフィの頭から“シャンクスの麦わら帽子”が空を舞う。ルフィが突然動いて、反射的にマチルダの指がトリガーを引く。弾丸が二発。彼女の狙いは、ルフィの頭部。
マチルダの放った弾丸は、麦わら帽子を貫いていた。打ちぬかれた帽子は、ふわふわと地面に落ちていく。
「やめろ!ルフィ!」
庇うようにサンジの前に立ちはだかったルフィの腕にしなのの刀が振り下ろされた。
「いっ!痛てぇっ」
切り落とされるまではいかなかったがルフィの腕から、真っ赤な血が流れて地面に血溜まりができた。
「ルフィ!大丈夫かっ?」
「ああ、これくらい何でもねぇよ。サンジは?」
「俺も大丈夫だ……」
サンジの中に怒りがふつふつと湧き出す。
「おい…少々、やりすぎちまったみてぇだな。あんたたち」
「……!」
「……ひっ」
ゆっくりと二人に歩み寄る。今まで誰にも向けたことのない怒りがサンジを包み込んでいる。目に殺気がみなぎり、もう、女だろうと誰だろうとかまわなかった。目の前にいる人間が、ルフィを殺そうとしている。理由は、それだけで充分そろっている。
(ぶっ殺してやるっ!)
「い…いやぁ!」
「やめてっ」
マチルダとしなのは、サンジの殺気に押されて後ずさり。二人で顔を見合して踵を返すと、港へ向かって全力で駆け出していた。サンジは、それを追うことをせず、腕を押さえているルフィの元へ戻る。
「平気か?」
いつものやさしい表情に戻ったサンジは、自分のシャツを破った。すぐにルフ
ィの腕に止血を施す。
「これくらい、平気だって」
「何言ってんだ…こんなに血ぃ出てんだぞ…すまねぇ…俺のせいだな」
「サンジのせいじゃねぇよ。オレが油断したんだ」
いつもの明るい笑顔を見せてルフィは、サンジに抱きつくと頭を胸に押しつけてきた。
「ど、どうしたんだよ?ルフィ…?」
「よかった…殺されるかと思った!」
「大丈夫だ、お前は俺が守ってやるよ」
ルフィの頭を撫でる。いきなり、ルフィが顔を上げてサンジをにらむ。
「ばかやろう!サンジがだよっ…オレ、サンジが死んじまったら…すっげぇ、嫌なんだぞっ?」
「俺だって、お前が死んじまったら…生きてられねぇよ」
ルフィの顎を捕らえて唇を合わす。しばらくの間、二人は明るくなりはじめている路地で抱きしめあっていた。
「…ルフィ…船に戻ろうぜ。もう、あいつら起きてるだろうがな」
ルフィの体を離すと。少し離れたところに落ちている麦わら帽子を目にした。その帽子には、大きな二つの穴が痛々しそうに残っていた。
「悪かったな…おまえの大事な帽子。あんなになっちまって…」
「えっ?ああ!俺の帽子がぁ!」
慌ててルフィは帽子を拾い上げて、大きな穴を涙目で見つめていた。
(…待てよ?今、こいつは初めて帽子の事に気づいたよな?)
「気がつかなかったのか?」
「…うん…ちくしょー!あいつらぁ」
隣で悔しがるルフィを横目に、サンジの口元に笑みが浮かんでしまう。
(…いつも帽子を一番に心配してるこいつが…帽子を忘れた…。と、言う事はだ。帽子、いや…シャンクスより俺が?)
だんだんと確信めいてきた結論に、サンジは満面の笑顔。
「何がおかしいんだよ?」
「えっ、いや。なんでもねぇ。その帽子、俺が直してやるよ」
「ホントか?」
「ああ。とりあえず、船に戻ってからだ。傷の手当てと飯もな」
笑顔をルフィに向けて港へ歩き出す。その後からルフィもつづく。穴の開いた麦わら帽子をかぶって…。
少し後ろを歩くルフィをチラリと見て、すぐ正面に向き直ったサンジは、小さく、ルフィに気づかれない程度…
(よっしゃあ!俺の勝ちだな、“赤髪のシャンクス”!)
拳を握りしめて満面の笑みを隠しきれないサンジであった。
おわり |
|
 |
|
|
|