■ 『 殺夢-sathumu- 前編 』 水天宮拓仄

 海賊船ゴーイングメリー号にある、みかん畑の木陰でゾロが夕食の後に居眠りをしていた。ゾロの体に一風、海の冷たい風があたる。
「…っ」
 冷たい風に体を震わせてゾロが目を覚ました。
「そろそろ部屋に戻るか」
 つぶやいて立ちあがった瞬間、ゾロの耳に人の声が飛び込んできた。どうやらゾロが居眠りをしていた反対側にも誰かがいるようだ。一緒に酒でも飲むかと声のする方へ回りこもうとしたゾロの足がピタリと止まる。様子が何だか変。
(…クソコックと…ルフィか?)
 風で揺れるみかんの葉音でゾロ耳には、途切れ途切れにしか声が聞えてこない。あきらかに会話とは違う声音だ、そっと木陰から覗いて見るゾロ。
「!………」


「はぁっ…サンジっ」
 サンジの肩に片足を担ぎ上げられ、もう片方をサンジの腰に絡ませたルフィは、サンジに揺さぶられて嬌声を上げていた。
「っルフィ…ちったぁ我慢しろよ」
 くわえ煙草のままサンジがルフィの耳元に囁きかける。ほんの少しサンジが動くとルフィの下半身から全身に快感が電流のように流れた。
「あっやぁ!」
「そ…なにイイかよ?」
 口元を引き上げてサンジが動きを止める。
「やだっ…もっとぉ」
「おいおい、どうしたんだよ?」
 涙目でせがむルフィをくすりと笑ってサンジは、ルフィから体を離した。急に外気の冷たさにさらされたルフィは、不満そうな視線でサンジを見る。
「オレも疲れるんだ。もっと欲しいんだろ?自分でやるか?」
「じ、自分でって?」
「ココにお前が自分で乗っかって動くんだよ。できるだろ?」
 サンジは、自分の昂ぶりを指差してルフィを手招きする。その誘惑に操られるように、ふらふらとルフィはサンジに接近していく。
「ココに?」
「ああ、ゆっくりな」
 サンジの言葉に赤くなりながらもコクリと頷くとルフィは従う。サンジの昂ぶりにそっと手を添えて自分の腰を徐々に下ろしていく。ゆっくりとサンジを自分に埋め込む感触を敏感に感じてルフィは、喉をそらした。
「あっあっ…うぁ…は・・いった…」
 全部を埋め込むとサンジの首筋に腕を回して、荒々しい呼吸を落ち着かせようと肩を揺らすルフィ。動かなくてもジンジンと熱い感触が、己の中で暴れまわる。
「ほら、動けよルフィ」
 少し掠れた声でサンジが先を促すと、ルフィは自分の腰を上げた。
「・・っう…あっ」
 途中まで腰を上げたルフィの腰をつかむと、一気に突き上げる。予測していなかったサンジの動きにルフィは、またも快感にのまれていった。
「っいいぜ…」
「やっああっ!」


 普段は無邪気で笑いながら食い物の事や海賊の事を話しているルフィとは思えない。あまりの衝撃で、すっかり隙ができてしまった。
《ガチャッ》
 後づさろうとしたゾロの腕に刀が触れて、わずかな金属音が風のざわめきにまじってあたりに響いてしまった。
「?」
 サンジの耳に金属音が届く。ふと動きを止めて辺りを見渡した、それにつられてルフィも辺りを見渡す。ルフィとサンジの視線の先にいたのは…
『ゾロっ!?』
 二人の動きが完全に止まり、しばらくの沈黙が流れていく。その沈黙を破ったのはサンジだった。内心、動悸が早くなっていたがこういう場面には、過去何度か経験があることもサンジに余裕を生ませている。
 口元ににやりと笑みを浮かべて、驚愕と複雑な表情でルフィを見つめているゾロを見る。
「ゾロ…いい所なんだ、邪魔すんなよ。なぁ?ルフィ」
「やっ…動くなっ!…っゾロ…見るなよっ…早くっ…行け…よ」
 少し体を動かしたサンジに肉体が過敏に反応してしまう。己の中にあるサンジの昂ぶりを絞めつける。
「嫌がるわりには、いいみたいじゃねぇか?」
「やめろ…サンジぃ」
「聞いたろ?さっさとどっかに行ってくれねぇか。終われねぇだろ?」
 再び動きを再開させながらサンジはゾロを睨みつけた。
「……!」
 無言のままゾロは、二人に背を向けて足早にみかん畑から立ち去る。その背中にサンジが
「ルフィはオレのもんだ。手ぇ出したらぶっ殺すからな!」
 その言葉はゾロの耳に入っていなかった。
(うそだっルフィが…あいつと!)
 拳を握り締めている指の間から赤い血が甲板にしたたる。

 男部屋に戻ったゾロは、ウソップがいない事にほっとしていた。ウソップは今夜寝ずの番で、会議室にいるはずである。
 もやもやとした気分のままゾロは、自分のハンモックに身を預けた。なんとか精神を落ちつかせようと瞳を閉じてみるが、さっき見てしまったルフィが目の前をちらつく。
「ちがうっ俺は…俺はちがう!」
 頭をぶんぶんと振って、すぐにハンモックから飛び降りるとシャワー室へ駆けこむ。このどうしようもない、気持ちと体の火照りを冷水で冷やす。シャワーの出力を最大にして真水を頭から被った。服も脱がずに浴び続けるゾロ。
「忘れろっ!…くそっ」
 自分の頭を叩くが、いっこうにルフィの嬌声と表情は消え去ろうとしなかった。
 
 濡れた服を脱ぎ捨てて、半裸のままハンモックに横になり毛布を被ったゾロはひたすら眠ろうと努力した。あの二人が戻ってくる前になんとしても眠りにつきたい。
(ちきしょ…う)
 うつらうつらとしてきたゾロは、浅いながらも眠りにつくことに成功した。
<ルフィ…!>
「あっサンジぃ…」
「いいぜ、ルフィ」
 ゾロの目の前で恥じらいも無く抱き合うルフィとサンジ。時々、サンジに揺すぶられながらルフィの視線がゾロに流される。
「うっあぁぁ!」
 快感で瞳を潤ませてサンジの動きに合わせて自ら腰を揺らし、快感を追い求めるルフィ。
<やめろっ!>


「…っ!は…はぁ…はぁ…ゆ、夢かよ…?」
 全身汗にまみれたゾロは毛布を床に放って周囲を見渡した。ルフィとサンジが別々に眠っているのを見て安心した自分に気づいたゾロ。
(ち、違う!俺は違うんだっ…くそっ…)
 頭では、何度も否定するが自分の体が火照っているのも事実。信じたくない、自分はサンジが思うようにルフィを思っていない。自分は、仲間としてルフィを見ている。今までそう見ていたはずだった!
「…何でだよ…どうして…」
 ハンモックから音を立てずに降りると、ゾロは刀も持たずに甲板へ上がるべく柱を登っていく。
 まだ太陽が登りきっていない甲板の上に腰を下ろして、ゾロは体の火照りが過ぎ去るのを静かに待っていた。


 朝を迎えてサンジは、いつも通りに目を覚ました。どんなに夜が遅くても食事を作って仲間に食わせる。コックとして船に乗った自分の最大な役目だった。
「……いねぇな…」
 ハンモックの上で体を起こし、周囲を見まわす。眠っているのはルフィだけで、いつも死んだように眠っているゾロの姿が見えなかった。煙草を取り出して口へ運ぶ。その唇には笑みが浮かんでいた。昨夜の出来事を思い出して肩を揺らすサンジは、ルフィを見た。幸せそうに眠る恋人の姿に先ほどの笑みとは違う微笑みを浮かべてハンモックを降りる。
「仕方ねぇか…こいつの普段から想像できねぇもんな」
 ルフィのハンモックに近づき、そっとキスを送ってから部屋の中央にある出入口へ続く柱に足をかけた。
 甲板に出るとしかめっ面で海を見つめるゾロの背中が目に入る。どうやら、昨夜は眠れなかった様子。
(はっ…随分純情な奴だね)
「よお、眠れなかったのか?」
「!…うるせぇ」
「随分と純情だな?大剣豪?」
 ニヤニヤと笑いながらゾロをからかうサンジに、ゾロは立ちあがってその場を無言で立ち去った。今は、サンジにもルフィにも会いたくない。特にルフィには会えない。自分の気持ちがはっきりしてしまうのが恐い。実際、サンジに会って殴り飛ばしたい自分を抑えるのも一苦労したのだ。ここでサンジを殴ることは、あきらかに嫉妬。自分はサンジと違うと信じていたいゾロ。
「ちっ…」
 ゾロの背中を見送るとサンジは、キッチンへ向かった。中に入るとウソップが眠たい目をこすりながらサンジを出迎えた。
「よ、ご苦労さん。しばらく寝てていいぜ」
「そうする…じゃあな」
 ゆっくりとキッチンから出て行くウソップを引きとめる。
「あ、ちょっと待て」
「なんだよ?」
「部屋戻ったらルフィ起こして、キッチンに来るように言ってくれ」
「わかった」
 扉から出てウソップは、部屋へ向かう。その道すがら、苦悩するゾロと出会った。海を眉間に皺をよせて睨むゾロにウソップは首をかしげた。
「どうしたんだ、ゾロ?珍しいな」
「…ウソップか…ああ、別に何でもねぇよ」
「ふ〜ん、まあ別にいいけど。俺、これから寝るぜ」
「おお」
 部屋へ戻るウソップを見て、ゾロの唇からため息がもれる。何だろう、この腹立たしい気持ちは。
「くそっ…」



 一方、部屋に戻ったウソップはサンジに頼まれた事を実行していた。ルフィのハンモックを揺らして声をかける。
「おい、ルフィ!起きろ」
「……?…なん…だよ」
 目をゴシゴシとこすって睡眠を妨害したウソップを見る。
「サンジが呼んでるぜ、キッチンに居たからな」
「おう…わかった」
 のろのろとハンモックを降りると中央の柱に昇って甲板に出た。朝の心地よい潮風を吸いこんで、ルフィは体を伸ばす。昨夜の行為でダメージはまったくない。慣れていたせいもあるが、サンジがやさしく扱ってくれるからだ。
「う〜んっ今日もいい天気だなぁ」
 海と空を見つめてキッチンへ歩き出すルフィ。キッチンへ向かったルフィを目撃したゾロは、こっそり胸を撫で下ろす。正直、どんな顔をしてルフィに会えばいいのかわからない。
「…もう一眠りしてみるか…」
 部屋に、サンジとルフィが居ないと確認してゾロは、部屋に戻りハンモックでなく、ソファに毛布を持ち込んで横になった。思ったより睡魔は、自分を睡眠に導いてくれて、すぐに熟睡に入るゾロであった。




 キッチンに入るとサンジがいい香を漂わせながら鍋を片手に調理している。その後ろ姿にルフィは突然抱きついた。
「うわっ!ルフィっ邪魔すんなっ」
「なぁなぁサンジ!何か用か?」
 ウソップまで使って起こすくらいだ、何か話があるに違いないと。
「いいから離せって、作れねぇだろ」
「こうしてんの好きなんだよ」
「ったく仕方ねぇな」
 あきらめのため息をつくと、ルフィに抱きつかれたまま調理を続行する。
「話があるんだろ?」
「ああ、昨日の事な」
「昨日の…あっ…ゾロ」
 ゾロの名前にサンジが頷く。サンジ的には、ゾロをからかうネタができて面白いのだが…ルフィはどうしたいのかを聞いておきたい。
「どうする?いっそのこと皆に言っちまうか?」
「それは、ダメ。ゾロは…俺から話す」
「話すって、皆に言わないでってか?」
 コクリと頷くとサンジの背中から離れるとルフィは、椅子に腰を下ろした。その表情は、珍しく深刻である。鍋をコンロの上において、ルフィに近づくと頭をぽんぽんと叩いた。
「まあ、あいつも言いふらすことなんて趣味ねぇだろ?なっ?」
「そうだよな…ゾロはそんな事する奴じゃない」
「心配すんな、もしバレちまっても俺は平気だぜ」
 ニッと笑ってルフィを安心させるサンジは、再び鍋を手にとって調理を始めた。鍋の中身を指で掬ってぺろりと舐めてみる。
「んっいつもながら絶品だぜ」
「俺も味見する!」
 椅子から立ちあがってサンジの横から鍋を覗きこんでくると、もう一度中身を指に掬いルフィの口元に運ぶ。サンジの指ごと味見するルフィ
「ん、うまい!」
「当然だろ?」




「う…ん…」
<…この声は?>
「うっ…くっ…んんっ」
「いいぜ、ルフィ」
 ゾロが目を開く、自分の目の前でサンジとルフィがまた情事に身を染めていた。まるで自分がその場に居ないかと思わせるほど、サンジの下半身へ頭を埋めて己の昂ぶりを震える指で扱うルフィ。
<やめろっ…なんで…俺の前で!>
 ゾロの声は、二人には届いていない。ゾロの存在を無視というより、もとより存在していないゾロ。二人の情事をただ見つめるしかできないゾロ。これも夢なんだろうか、早く目覚めて欲しい。だが、今日に限って目を覚まさない。
「ルフィ、こっちに足よこせよ」
「うっん…」
 サンジの昂ぶりを懸命に口に含みながら自分の足を反対に移動させる。そうするとちょうど、サンジの顔あたりにルフィの昂ぶりが晒されることになった。
<……っ>
 自分の体がまた火照ることを自覚したゾロは、その場にしゃがみこんでしまう。嫌悪感と嫉妬が入り混じった感情が己を支配していくのがわかる。そして、どうしようもない程に火照る自分。
「ふぁっ…やっだ…サンジぃ!」
「やだっつうわりには、ずいぶん良さそうじゃねぇか、ルフィ?」
 意地悪く口を開くと、ルフィの昂ぶりをそのまま唇で扱う。その刺激にルフィの腰が跳ねる。サンジは、唇でルフィの昂ぶりを愛撫しながら、指で自分を受け入れるための場所へ辿りつくと、ゆっくりと挿入させた。
「あっ!やっ…やだっ」
「やだ。じゃねェだろ?」
 指を増やして抜き差しを繰り返す。ルフィの腰が淫らに揺れて昂ぶりからは、とめどなく欲情の証がしたたっていた。
「あっもうっ…サン…」
「もう我慢できねぇの?」
 指を引きぬいてルフィから唇を離した。すばやくルフィを押し倒して体を重ねるサンジ。
「ああっ」
<…もうっやめてくれっ!>
 耳を塞ぎ、目を閉じたゾロが絶叫する。


 ゾロが再び目を開くと、そこは船の中で男部屋にあるソファの上。毛布が床に落ち、ひどい汗を流しながらゾロは自分に起こっている事態を自覚して、肩を落とす。呼吸も乱れてシャツもびっしょりと濡れていた。
「はぁ…はぁ…なんだってんだ…くそっ」
 はっきり形となっている自分の欲情にゾロは、舌打ちをする。こうなってしまうと自然におさまる事を待つのも苦痛だった。己の体に嫌悪感を覚えながらゾロは、もう一度ソファに身をしずめて毛布を被る。それから、ふと気づいてウソップのハンモックを見上げた。ウソップは、いつの間に目を覚ましたのかどこにもいない。もう一度、ゾロは耳をすまして周りに誰もいないことを確かめる。こんな所を誰にも見られたくない。特に、ルフィとサンジ…自分がこうなった原因は、あの二人のせいなのだから。
「くっ……」
 もぞもぞと己の熱をおさめようと指を絡めるゾロ。最初はゆっくりと指を上下させ、だんだんとスピードが速くなる。それに並行してゾロの息遣いも荒くなり、表情も快感と嫌悪感の入り混じったものに変化していく。
「はっ…はっ……っ」
 一瞬動きが止まり、己の欲情を掌で受けとめたゾロはすぐにソファから立ちあがった。立ちあがった瞬間に誰かが降りてくる気配に気づく。
(誰だ?)
 とっさに濡れた掌を自分の毛布に拭うと再びソファに腰を下した。柱から素足が下りてくる。今一番、ゾロが会いたくない人物・ルフィだ。
「ゾロ?起きたのか?」
「あ、ああ。起きてるぜ」
 平静を装ってルフィが降りてくるのを待ち構えるゾロ。しかし、先ほどの余韻のせいでうっすらと汗を額に滲ませ、頬を上気させている。
「ゾロ、顔赤いぞ?大丈夫か?」
 座っているゾロに近づいて額に手を当てようとしたルフィの手をとっさに振り払ってしまうゾロ。
「俺に触るなっ」
「……っ!」
 ゾロの言葉と態度にルフィの動きが止まった。みるみるうちに表情がゆがみ。今にも泣き出しそうなルフィに、ゾロは目を見張った。今まで見たこともない表情のルフィだった。思わず両手を差し伸べて抱きしめてしまいたい。無意識に両腕をルフィに伸ばそうとしたその時、
「…オレの事、嫌いになったのか?サ、サンジとあんな事してるから…」
 俯いてゾロから、一歩二歩と遠ざかりながらルフィは呟く。
「そ…」
(そんな事ねぇぞ)と言おうとしたがゾロは口を閉じた。その沈黙をルフィが肯定と受け取ったのか。一度ゾロを見つめてすごい勢いで柱を駆け上っていく。バタバタと頭上でルフィが走り去っていく音を聞きながら、ゾロはまた自己嫌悪に陥るのであった。


To be continued…