■ 『 キスして 』 水天宮拓仄

 某中学校の校門にすらりとした青年が人待ち顔で佇んでいる。端正な顔が夕陽で輝く。きれいな金髪に下校途中の女子中学生が振り向いては、友達に耳打ちをしている。そんな女子中学生に微笑んだ途端に彼の後ろから鉄拳が飛んできた。
「いたっ!何しやがるっ」
「何デレデレしてんだよサンジ!」
「ルフィ!相変わらず加減しらねぇな」
 殴られた頭部をさすりながら小柄な少年を見て笑った。今日はちょうど大学の講義がルフィの下校時間と一致したので一緒に帰ろうと約束していたのだ。
「お前、帰ってから勉強する気あるのか?」
「ん?あるぞ!だってサンジと同じ学校行きたいもんなっ」
「でも、その鞄薄すぎねぇか?教科書とか入ってんのか」
 ぶんぶんと鞄を振り回して中身が何も入っていないことを指差すサンジをルフィは笑い飛ばした。
「大丈夫大丈夫!教科書は全部家にあるんだし」
「おいっ!じゃあ学校はどうしてんだよ」
「隣りのゾロが見せてくれるから大丈夫なんだ」
「ふーーん、でも毎日それじゃ先生何も言わないの?」
 家までの道をいつもの他愛ない会話で二人は肩を並べて歩いていく。ルフィが養父と一緒に住んでいるマンションの隣りに大学生のサンジが一人で暮らしている。隣り同士で仲良くなったサンジにルフィの養父は、出張続きの自分に変わってルフィの世話役を頼んだのだ。今じゃサンジは、ルフィの家庭教師兼家族同然になっていた。ほとんどルフィの家に入り浸っているので自分の部屋にあまり帰っていない。
「今日は何食べる?ついでに夕飯の買物していこうぜ」
「オレ何でもいいぞ。サンジが作る飯はなんでもうまいもんな」
「わかった。期待してろよ、でもその前に昨日出した宿題の採点と復習な」
「はーーい」
 面白くなさそうな表情でサンジの後から店に入った。


 買物も済ませてルフィとサンジは帰ってきていた。
「よし、じゃあ見せてみな」
「はい」
 ノートを差し出しながらサンジにむかって背伸びをして、そのまま口付けしようとしたがそれをサンジは押しのけて、ノートに目を通す。
「サンジ」
「ダメだって言っただろ。まだお前はガキなんだし…受験終ったらな」
「でも…キスぐらいしてくれてもいいじゃんか」
 不満そうな表情でサンジを見つめているルフィにふぅっとため息をついたサンジはルフィの額に軽く唇を触れさせてすぐに離れた。
「今はこれで我慢しろ。続きはお前が高校に合格してからだ」
「え〜?じゃあオレが高校受からなかったらずっとダメなのか?」
「そうゆうことになるな。だからがんばれよ。ほら、これも半分くらい間違ってるぞ」
 採点の終ったノートをルフィの目の前に広げて見せる。ノートを受け取ったルフィは唇を尖らせながらイスに腰かけた。勉強は大嫌いだったけどサンジとの約束のためにがんばっているのだ。
 お互い好きあっているのも知ってたし、告白したりもした。でも、まだ二人はキスさえしていない仲だ。ルフィからは何回もしかけるがサンジが頑固にそれをさせてくれない。もう一ヶ月も同じような攻防戦が繰り広げられていた。ルフィとしては、好きだから早くキスしてもらいたいのに。一方、サンジはまだ子供のルフィにもし自分を抑え切れずにキス以上の行為をしてしまうかもしれないと、自制しているのだ。
「半分も間違ってたらオレが行ってた学校行けないぞ。もっと気合い入れてがんばれよルフィ?明日もこれと同じだったら飯抜くからな」
 厳しい表情で問題集を開いてルフィに必要な問題をノートに書き写していく。そのサンジを悲しい表情で見つめていた。いつもより大人しくしているルフィの視線にふと目を上げる。
(ちょっと厳しく言い過ぎたかな?)
「ルフィ?明日またがんばればいいから、今日は間違ったところの復習しような」
「………どうして?」
「どうしてって…復習しなく・・」
「ちがう!…サンジはオレが好きじゃないの?」
「好きだぞ?前に言っただろ」
「じゃあなんでキスしてくれないんだよ」
 涙をためてサンジを見つめるルフィの視線から逃れるように顔を背けた。
(クソっそんな目で見るなよな…オレの気持ちも知らないで)
「それも言っただろ?お前がまだガキだからだよ」
「でも、ゾロはナミとキスしたって言ってた…オレと同じ歳なのに」
「別にそれは個人差があるだろ…とにかくお前には早いんだよ。ほら、復習」
 強引にノートを広げてルフィの目の前に置く。そのノートをルフィが床に放る。
「あっ!ルフィっ何しやが……る」
「サンジっ」
 胸倉を掴んで思いきり自分の方へ引き寄せてキスした。ちゅっと触れるだけのキスだったがルフィにとっては初めてのキスになる。
「ごめん…」
 キスした後に俯いたままサンジにあやまるルフィの肩が細かく震えていた。いつもより小さくルフィの事が愛しく見える。震える肩にそっと腕を伸ばした。
「ルフィ…お前の気持ちはわかってるし。オレも自分の気持ちを自覚してる」
「サンジ?」
 掴んだ肩を自分に引き寄せてルフィを胸に抱きしめたままルフィの真っ黒な髪に唇を落とした。サンジの心臓が激しく動く。それを直接感じながらルフィは瞳を閉じた。
「オレが今まで我慢してた意味がなくなるような事するなよ…」
「我慢って?」
「お前はキスしたらその後何するか知ってるか?」
 そう言ってサンジはルフィの顎を持ち上げて唇を合わせた。一度唇を離して、今度は少し開かれたルフィの唇を舌で割って中に忍びこませた。わざと音を出して濃厚なキスを繰り返す。
「はっ……サン…ジっ」
「さっきの復習と予習だよ」
 くすっと笑いながらルフィを解放すると机にノートを載せる。きょとんとしているルフィの頭にポンと手を乗せて今度は額にキスして微笑むサンジ。
「夕飯作ってくるからその間に昨日の復習しとけよ」
「うん…」
 まだボーっとしているルフィをその場に残してサンジはキッチンに向かう。心臓は今だに激しく、火照り気味の自分をしかりつけていた。


The end