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| ■ 『 幼馴染 』 水天宮拓仄 |
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「サンジ先生!急患です」
ナースステーションでいつものように看護婦を口説いていた、天才外科医として有名なドクター・サンジに看護婦が受話器を持って振り返った。
「わかった!電話かわってくれっ」
受話器を受け取ると近くの椅子に腰を下ろす。
<サンジ先生!たった今救急センターから連絡がありました!交通事故で頭部を強く打って現在救急車でこちらに向かっています!外傷なしで意識不明の高校生くらいの少年です!急いで第3手術室でスタンバイしてください!>
「わかりました。すぐにそちらに向かいます!準備を始めていてくださいっ」
<はいっ>
受話器を置いてサンジは看護婦たちへ別れも告げずにナースステーションを後にした。院内をバタバタと走り、自室に戻り身支度を整えてすぐに指示された手術室に向かう。手術を行う身支度を整えると手術室へ向かった。手術室までの廊下でサンジは、今の状況と手術方について助手や看護婦と打合せを済ませる。
手術室に入るとすぐに手術室の扉が解き放たれた。
「患者が到着しました!」
「よしっ始めるぞ……え?ル…ルフィ!」
「サンジ先生?どうしたんですか?早くしないとっ」
「あ、ああ・・すまない。始めるぞ…絶対に助けてやるからな、ルフィ!」
運びこまれた患者は、サンジの幼馴染で…数年前に別れを告げた少年。少し成長したようだが、左頬にある傷は消えていない。なによりも、忘れられるはずがなかったのだ。出会った頃から今もずっと思ってやまないのだから。
(ルフィ…なんでお前がこんな事に……死ぬな。死なないでくれよっ)
祈りを繰り返しながらサンジは自分の持つ技術を全部出しきって手術を行い、それは成功した。そして、手術から2日後にやっとルフィが目を覚ました。
―手術から2日後―
ルフィが入室している病室の前でカルテを持ったサンジがノックしようと伸ばした手が止まっていた。彼の心の中に数年前の別れが蘇る。まだ中学生だったルフィに恋をしてしまった大学生の頃の自分がフラッシュバックする。あれ以上一緒に過ごしていたら、まだ子供のルフィを汚してしまうと思って別れを告げた。ルフィの気持ちは、いまだ確かめていない。今、会って平静でいられるだろうか…不安がよぎる。だが、ルフィの担当医を自ら買ってでたのは、自分自身。
ぐっと一度手を握りしめると思いきってドアをノックする。しばらくして、元気な少年の声が応えた。まぎれもないルフィの声…あの時とあまり変わっていない少し甲高いような声だ。
「久しぶりだなルフィ。オレの事覚えてるか?」
「サンジ!なんでこんな所にいるんだよっ」
できるだけ平静に感情を悟られないようにサンジはルフィに近づいてベッドの脇においてある椅子に腰かけた。カルテを持つ指がかすかに震えているのがわかる。
「なんでって、医者が病院にいるのは当たり前だろ」
「あの時、遠くに行くからって…言ってたのに。なんでこの病院にいるんだよ…戻ってきてたんなら、なんで教えてくれなかったんだ?」
大きな目をうるませながらサンジの見つめるルフィから目をそらす。その澄みきった目に、自分の醜い気持ちを見透かされそうで恐い。
「新米の医者は忙しくて。なかなか連絡もできなかったんだよ」
「ふ〜ん。でもまた会えたから、オレすごく嬉しいぞっ」
「ああ。オレもだ…ところでルフィ…お前なんで事故になんか」
なかなか静まらない心臓を抱えながらサンジは、“仕事”をまっとうするべくルフィに質問したり、簡単な検査を行う。
「なあ、サンジ」
「ん?なんだ?」
検査も終わりに近づいてきた頃にルフィがサンジに声をかける。
「オレ、いつ退院できるの?」
「ケガはたいした事ないけど、頭を強く打ってるんだ。頭の検査をしてみて何もなかったらすぐにでも退院できるぜ」
検査を終えてカルテにすばやくメモをとる。そして、優しく笑いながら不安そうな表情を見せるルフィの頭をなでる。
「退院したら、また一緒に遊ぼうよサンジ」
「…ん〜…そうだな」
「嫌なのか?」
「嫌じゃねぇよ。ただ、オレは不規則な生活してるからお前の休みと合わないかもしれないと思ってんだ」
カルテを小脇にかかえて椅子から立ち上がったサンジの白衣をぐいっと引っ張ると、ルフィはうつむきながら、更に口を開いた。
「…オレ、学校とか行ってないからずっと休みなんだ…」
その言葉を聞いてサンジは驚いた。てっきり高校に進んで新しい友達や彼女とかを作って楽しい生活に戻っているとばかり思っていた…いや、願いだったのだ。
「なんで学校行ってないんだ?よく、オヤジさん達が許したな」
ルフィの父親はサンジもよく知っていた。厳格で真面目な人間だったと記憶している。その父親がルフィが学校も行かずにいるのを黙っているはずがない。
「オレ…家出したんだ…家出して…事故にあったんだもん」
「ばかっ!なんで家出なんかしたんだ!まだお前は未成年だし・・まともに生活なんてできやしねぇんだぞ」
掴まれた白衣を離させて、サンジはベッドに腰掛けた。下をむいたままのルフィの肩を震えていた。
(泣いてんのか…)
思わずその肩へ腕を回しそうになった自分を止めて、わずかに浮かせた腕をそのまま後ろについた。
「オレ…サンジに会いたくてずっと探してたんだぞっ」
ばっと顔を上げたルフィの目には涙がこぼれた。それを拭いもせずにサンジを見つめる。
「オ、オレに会いたく…て?」
「ずっとずっと探してたのに全然見つからなくて…」
「なんでオレを……」
後ろについた腕を持ち上げたサンジは、ルフィの肩を抱く。
「中学の時から好きなんだよサンジの事!なのに、いきなりいなくなったから…」
戸惑うサンジの胸に顔をうずめてルフィは尚も泣きつづける。その背中を抱きしめることがなかなかできずにいるサンジであった。
「ルフィ…」
静かな声でルフィを呼ぶと、その声に反応してルフィが涙にぬれる顔を上げた。しばらく見詰め合う二人。
「ルフィ…オレもずっと好きだったんだ。出会ったときから、ずっと…な」
ルフィの涙を指ですくいながらサンジはじっと見つめて言葉を発する。ずっと、言えなかった言葉をやっと口にできた。
「じゃ、じゃあ。なんで居なくなったんだよぉ」
ぼろぼろと涙があふれる。その涙を白衣の袖でぐしっとぬぐってやるとサンジは苦笑を浮かべた。まだ、本当の理由は言えない。成長したとは言え、まだルフィは子供だし、それに今は“医者”と“患者”だったから…患者に手を出したとあっては、後々面倒なことになるに決まっている。
「オレもお前も男だろ?悩んでたんだよ」
「それならオレも悩んでた。悩んで出した結果が家出だったんだから」
「オレを探すだけに家出なんてするかよ普通」
少々あきれた表情になったサンジと、涙も渇きはじめたルフィはクスクスと笑い合った。穏やかな空気が病室に流れる…そんな中二人は自然に寄り添い、そっと口付けをかわすのだった。
「サンジ」
「ん?」
唇を離したあとも抱擁し合う二人。
「オレ、ここ出たら行くところ無いんだ」
「…わかったよ。オレのところ来るか?」
「うんっ!」
満面の笑みを浮かべるとルフィはサンジにきつく抱きしめられた。幸せな気持ちが広がって行く。
「でも、その時はちゃんとオヤジさん達に連絡してからな」
「え〜〜!」
the end |
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