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| ■ 『 ずっと抱きしめて 』 水天宮拓仄 |
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サンジに初めて抱きしめられてから幾日かの日々が過ぎていた。最初はただ、抱きしめられていればよかったのに…しだいにルフィは心が渇いていることを自覚した。
「サンジ…もっと強く」
渇いている心潤すために今自分を抱きしめてくれているサンジに要求する。すると、サンジは無言でルフィの願いを叶えてやった。ぎゅっとさっきよりも強い力で自分の胸に引き寄せる。
「なんだ?寒いのかルフィ」
優しい口調でルフィにささやく声は"親切"であって"愛情"ではないことをルフィはよく知っていた。サンジを欲したルフィだったがサンジはルフィを欲していない。ただ、それだけのことだ。ルフィの気持ちを知りながらサンジは、それを"親切"で応えたのだ。それがルフィにとってどんなに残酷なことか気づかずに…
「んん、寒くない…寒くないぞサンジ」
暖かいサンジの胸にぎゅっと顔を埋めてかすかに顔を左右にふったルフィは、サンジの背中に回した腕に力をこめた。サンジが自分を想ってくれない事実を受け止めながらも、今の心地よさに身を委ねてしまう自分が女々しいとさえ感じているのに。
「ルフィ?」
「もう少しこのままがいい」
頬を押しつけてチラリとサンジの顔を見上げた、そしてほっと安堵の息を吐き出すルフィは安心して瞳を閉じる。
(よかった…嫌がられてないみたいだ)
静かに抱き合っていたが、それはすぐに壊された。急にサンジがルフィの両肩を押しのけてキッチンへ戻ったのだ。突然のことで後に残されたルフィはぼんやりとサンジが消えたキッチンの扉を見つめていた。
「サンジ…なんだよ…も、嫌になったのか?」
とぼとぼとした足取りでサンジの後を追って扉を開ける。そこには、いつものようにテーブルで野菜の皮を剥くサンジの姿があった。いつもと違うところと言えば、サンジの纏う空気がなんだか重い気がするのはルフィの気のせいなんかじゃない。
「サ、サンジ」
意味もなく声が震えるルフィの方をちらりとも見ないサンジは口だけを開いた。
「なんだよ?」
「さっきの続きしてくれよ」
一歩サンジへと近づく。そして、また止まってサンジの反応を待つ。
「ダメだ」
「なんでだよ?オレ、なんか悪いことした?」
「……いいから、もうダメだ」
「それじゃあ理由になってねぇじゃねぇか」
また一歩サンジへ足を進めた。二歩、三歩と進んで行くと、サンジの持っていた包丁がルフィの足元に突き刺さった。これ以上近づけさせないためだ。
「ルフィ…もうお前のわがままには付き合ってられねぇよ」
「……っ!」
キッチンに入ってきてから初めて自分に向けられたサンジの視線は、今まで見たことがないくらい冷たく鋭いものだった。ポロリと勝手に涙がルフィの頬をぬらす。サンジに嫌われてしまった、それがショックで立っているのもやっとな状態になる。
「わかったら、もう寝ろ」
「……うん」
涙をこぼしながらやっとの思いで小さくうなづいてルフィはキッチンから出る。出たとたんにペタンと床にしりもちをついて、さっきよりも大粒の涙がボロボロと流れてくる。声を必死に殺そうとしても、それは無駄なあがきだった。
「ひっ…ひっく…ううぅっ・・サ……ジッ・・どう…し…てぇ」
ドアに背を預けながら泣きじゃくるルフィの声をドアごしで聞くサンジの表情はゆがめられている。自分の感情を否定したいがためにルフィを遠ざけようとした結果がこれだ。ルフィの泣き声が自分の胸に深くつきささる。今、ここで出て行って彼をこの胸に抱きしめてしまったら取り返しのつかないことになってしまう。だが、ここで突き放せばもう、二度と彼は自分の胸に帰ってはこないだろう。サンジの胸の中で激しい葛藤が生じている。どうしよう?どうしよう?愛しい彼が自分のために泣きじゃくっている。自分に嫌われたと思って泣いているのだ。
「……っ」
サンジの形が良い唇から血が流れた。自分で噛みきってしまったことにも気付かず、まだドアを開けることを躊躇しているサンジ。
「も…う、わが・・まま言わない…つまみ食いもしな…いからっ…サン・・ジと…仲直りした・・いよ…ぉ」
ぐすぐすと鼻を鳴らしながらルフィが口に出して祈る。それはドアごしにサンジの耳にも届いていた。
(ちがう…ちがうんだルフィ!)
ついにドアを開けて座り込んでいたルフィをぐっと抱きしめた。
「ルフィ…ちがうっお前が嫌いなんじゃないっ!オレのわがままでお前を突き放した」
「…サン…ジ?」
いったん体を離してルフィの涙を指でぬぐってやりながら、軽く触れるだけのキスを贈った。ルフィにとっては初めてのキスだった。
「オレがお前を嫌いになるなんて無理なんだ」
「よかったぁ…オレのこと嫌いじゃないんだな?」
「ああ、大好きだ。ずっと抱きしめていたいくらいにな」
ぎゅっとルフィの背中に腕を回して自分に引き寄せる。二人で床に腰を下ろして抱き合っている。
「オレもサンジ大好きだっずっと抱きしめてて」
「…ああ、ずっと抱きしめてる」
ルフィの腕もサンジの背中に回されてぎゅうっと力をこめた。絶対に離れたくないと訴えるように。
「たまにはさっきのしてくれよな」
「さっきの?」
「これっ!」
サンジがルフィを覗きこんだ瞬間。今度はルフィがサンジの唇にちゅっとキスして、へへっと照れくさそうに笑った。
「了解。いつでもいいぜ」
「うんっ」
もう一度唇を重ねて、二人はお互いの気持ちが自分に入ってくるような感覚を覚えた。かけがいの無い存在になった…そんな夜の出来事。
Fin… |
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