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| ■ 『 ハピネス 』 水天宮拓仄 |
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「はぁ〜、やっぱりあいつについていけばよかったぜ…」
ここはリトルガーデンの深い森の中だ。ゾロとの狩勝負でより巨大な獲物を探して、ゴーイング・メリー号のコックであるサンジはもう何時間もさまよっていた。今のところしとめた獲物は、サンジいわく"クソでかいトカゲ"一匹である。更なる獲物を狩ろうと森の中を歩きまわっていた。そして、ふっと頭によぎることは非常識なほどに方向感覚がおかしい船長のことだった。
「あいつ…迷ってねぇだろうな〜クソッ」
短くなったタバコを指でもみ消すと足元に投げ捨てた。すぐに新しいタバコに火をつけて口にくわえる。
いつもなら、ルフィがどこかに行こうとすればサンジは一緒に行動していた。今回に限ってなぜそうしないかと言うと。昨夜、サンジとルフィの間で小さな喧嘩が勃発していたのだ。喧嘩の理由はと言うと…・
―時間は戻って…昨夜―
「なぁなぁ、サンジ!」
「なんだよ?」
朝食の下ごしらえをしているサンジのもとにルフィが訪れていた。テーブルに背を向けて野菜の皮をむいたり、刻んでいるサンジの背中を見つめながらルフィは自分がいつも座っている席に腰を下ろした。背広を脱いでネクタイもつけず、腕まくりをして仕事をするサンジの背中を見つめるのが、ルフィの日課になりつつあった。
「オレさ、サンジのこと好きみたいなんだ」
「はぁ?」
突然ルフィが発した言葉にどきりとしたサンジは思わずルフィの方へ顔を向ける。
「だから、サンジのこと好きみたいだ。って言ったぞ」
一点の曇りもない笑顔をサンジに向けたルフィの目をまっすぐ見れなくて、サンジはすぐに顔を元に戻して止まっていた手の動きを再開させた。顔は平静を保っていたが心臓は破裂しそうなくらい動いている。
「オレが飯作るのうまいからなんだろ?どうせ」
気を抜くと声が震えそうになるのを堪えて、サンジは背後のルフィに冗談めいた口調で話かけた。サンジの言葉でルフィはガタンを音を立てて椅子から立ち上がった。
「ちがうぞ!サンジが作った飯はうまいけど…それとこれはちがうんだからな」
思いのほか真剣なルフィの声にサンジは戸惑っていた。確かに、サンジはバラティエで会ったときから好意は持っている。その気持ちはアーロンとの戦いから今までを得て、しだいに大きくなっているのも自覚していた。最初は単なる好きだったのに、最近では精神的だけじゃなく…そう、肉体的な欲求もがサンジの中に芽生え始めている。
「そうかぁ?じゃあ、お前はオレの料理以外でどこが好きだってんだ?」
跳ねる心臓を抱えながらサンジは包丁をゆっくりと手元に置くと、ルフィの方を振りかえった。床を見つめていた視線をゆっくりと上げた。
「……わかんねぇ…けど、オレはサンジが好きだぞ」
「わからねぇって…じゃあ、やっぱりお前はオレの料理が好きなんだろ。そうゆうことにしておけよ」
自分の気持ちと裏腹な言葉をルフィに発する。ルフィの言う"好き"は、自分がルフィに抱いている"好き"と違う。自分の気持ちを抑えていたい、ルフィと肉体関係を欲している自分と、それを制している自分がいる。どこかで、ルフィを汚したくないを思う心がサンジに今の言葉を言わせていた。
「ちがう!なんでわかってくれないんだよ!」
大粒の涙をぼろぼろとこぼしながらルフィはサンジを見つめている。綺麗で大きなひとみに見つめられてサンジは思わず視線をそらした。純粋に自分を好きと言ってくれているルフィの視線は自分に深く突き刺さる。
「…勘弁してくれよ、オレは女の子が好きなんだ…ナ、ナミさんやビビちゃんみたいなかわいい子がいいの」
「じゃ…なんで…いっつも見てるんだよ、サンジもオレのこと好きじゃないのかよ!」
「そ、それはだなぁ…お前がいつも危なっかしいところに居るからだろ」
焦りながらルフィを何とかなだめようと無理に笑みを作りながら、冷蔵庫の方へ足を向ける。確か明日のデザート用に作ったヨーグルトがあったはずだ。
「…そっか…じゃあ、サンジはオレのこと嫌いなのか?」
「嫌いじゃねぇよ。嫌いだったらこの船に乗ってねぇだろ?ほら、これやるから今日はもう寝ろ。この事に関しては…また・な?」
「嫌いじゃなきゃいい……なに、それ?」
ルフィが落ち着いたのを見てサンジは胸をなでおろしていた。でも、なんだか一緒にいるのが気まずくなってしまったのだ。心の中でサンジは当分の間は、ルフィと一緒に行動するのを控えようと決心して……そんな中、リトルガーデンに一行は辿りついた。
―時間は戻って…リトルガーデン森の中―
イライラした気持ちでサンジは、もう何本目かのタバコに火をつけていた。一向に新しい獲物は見つからないし…いい加減あてもなく歩きまわるのも疲れてきた。
「…このトカゲだけでいいか。船に戻ってあいつらが戻ってくるのを料理でもしながら待ってみるかな」
くるりと踵を返してサンジはトカゲをかかえると来た道を引き返しはじめる。その帰路でもサンジの頭の中はルフィだった。昨夜見せられたルフィの涙は、自分のために流したものだった…素直に気持ちを告白してくれた相手になんてひどいことを言ったものだと、サンジは今更ながらチクリと胸が痛むのを感じた。
「ちっ…失敗したかな」
足を止めて、トカゲを地面に下ろして森の中から空を見上げる。枝の隙間から光がいくつも刺しこんでいるのを見ているサンジの胸に昨夜のルフィの笑顔がよみがえってきた。
「やっぱ…真面目に聞いてやればよかったな」
ルフィの笑顔を絶やしたくない。弐度と自分のために涙を流させたくない。
「この島出たら…今度はオレから言ってみるか」
それでルフィが笑ってくれるなら自分も幸せを感じることができる。そう、サンジはルフィの曇りない、太陽のような笑顔が好きなのだから。
おわり |
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