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| ■ 『 未来航路 』 水天宮拓仄 |
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ゴーイング・メリー号の船首にルフィがまたがりその背後に見守るようにゾロが佇んでいた。突然ルフィがゾロを振り返ってにっこりと笑いかける。
「ゾロ!」
「ん?」
ルフィがゾロを手招きしたそれに従い接近して腰を屈める。その一瞬にルフィの腕がゾロの首に回されて引き寄せられた。耳元にルフィの唇を感じ、ゾロは思わずぞくりと背中に何かが走るのを感じた。
「オレ、ゾロの事好きだ」
「ルフィ?」
驚いてルフィを見つめると今度は唇にルフィのそれが押しつけられる。目の前が真っ白に染まって無意識にルフィの体に腕を伸ばしかけた。
<絶対に俺は世界一の大剣豪になってやる!>
はっとゾロは腕を引きルフィの唇から逃れた。目の前には、少し淋しそうな表情をしたルフィがいる。突然ゾロの鼓動が激しく鳴り頬にも朱が走った。
「ゾロはオレの事好きなんだろ?」
まっすぐに見つめられて、まともにその瞳を見返すことができない。流れに身をまかせようとした瞬間によぎった誓いの言葉。
「なあ、ゾロ!」
「ルフィ…」
しばらく沈黙の中二人は見つめあった。ずっとそれが続くと思われた時に、キッチンのドアが開いてサンジの声が甲板中に響く。
「野郎ども飯ができたぜ!」
その言葉にゾロが振り返り、再びルフィを見るとすでにルフィは立ちあがりキッチンに向かって走り出していた。その背中を複雑な表情で見つめてゾロもキッチンに向かう。自分の気持ちは、ずっと前から自覚していた。でもそれを形にするつもりはなかったのだ。仲間としてルフィの傍でずっと彼を守りつづける存在でいたかった。言わなければ今の関係を崩すことなく、ルフィの一番近い場所に居れたのに。自分はずっと隠し続けるつもりだったのに、ルフィからそれを崩されるとは思いもよらなかった。
「ばかやろぉ…俺がどんな気持ちでずっと我慢してたと……くそっ」
空を仰いで腰の刀を鳴らしながらキッチンのドアを開けた。そこには、いつもと変わらない風景が広がる。自分の気持ちだけがいつもと違っていた。
「ルフィ……」
甲板で仰向けに寝転んだままゾロは昨日のルフィの言葉を繰り返し思い出していた。何度考えてもそれは真実で…
<ゾロ…>
「…!くいな?」
目の前に幼き頃の親友でもありライバルであったくいながゾロをまっすぐ見つめてくる。その視線は、まるで自分を攻めているようでゾロは目を閉じた。
「約束は必ず守る……でも…あいつを無視できねぇ」
<…約束だ!世界一の大剣豪になってやるっ>
くいなが消えて今度は子供の頃の自分がくいなの刀を握り締めて誓いを立て、自分を見つめてくる。また自分自身の姿も消えて…
「…約束…誓い…」
自分が閉じていた瞼に影が突然飛びこんできた。目をそっと開けるとルフィが覗きこんでいる。手を見るとサンジに作ってもらったらしいトロピカルドリンクを持っていた。
「ゾロ、これ飲むか?」
「あ、ああ。サンキュー」
むくりと上半身を起こしてグラスを受け取ったゾロは、嬉しそうにドリンクを飲むルフィの横顔を見つめていた。昨日、告白してからのルフィは普段と何ら変わりなくて、もしかしてからかわれたのかとも思える。いっそのことなかった事にしてもられば、これからもずっと一緒に冒険できるのに…
「ゾロ」
ドキリとゾロの心臓が跳ねる。少しいつもより近い距離にルフィが接近してきた。心臓の音がルフィに聞えるんじゃないかと心配してしまうくらいだ。
「ゾロの返事まだ聞いてないんだぞ」
ドリンクを全て飲み干してルフィはゾロを少し低めの位置から見上げる。その瞳は、からかいや冗談じゃなく、真剣にまっすぐにゾロの瞳を見つめてきた。その視線から逃れることができずに見つめあう。そっとルフィの肩に手を伸ばして自分の胸に引き寄せた。心臓も思ったよりずっと静かにおさまりゆっくりと口を開いた。
「嫌いなはずねぇだろ…好きだ。俺もお前が好きだよルフィ」
ルフィの唇を奪うと深くキスした。
お互いに想いを伝えあったゾロとルフィ。ルフィはこれからも何も変わりなく冒険を続けて行けると信じていた。でも、ゾロは自分の想いを伝えるかわりに船を下りると決めていた…新たな誓いをルフィにたてる。
「ルフィ…俺は次の港で船を下りようと思う」
「なんでだよ?」
どこかでそんな予感があったのかルフィは意外と冷静にゾロを見つめた。まっすぐに瞬きもせずにゾロの目を見ている。
「俺は、世界一の剣豪になる…と親友に誓った」
「うん、知ってる」
腰の刀を握り締めてすっと瞼を閉じる。今でもくいなの姿をしっかりと思い浮かべることができた。ルフィのそばにずっといる…それはつまり感情やルフィへの思いで行動することになる…信念が薄れる…なぜかそんな予感がした。今でも時々、誓いよりも約束よりもルフィの死を恐れる自分がいた。ルフィが死ぬくらいなら自分が身代わりになってもいいとさえ思っている。以前の自分なら、まず誓いを最優先に行動していたのに
「お前は海賊王になるんだろ?」
「当然だろ」
「俺はこのまま二人で行動しても互いの道が遠くなると思う」
「……ゾロ」
「それぞれの野望を叶えるために俺はこの船を下りる」
「別に一緒にいても俺は海賊王になるし、ゾロも世界一の剣豪になれよ」
ルフィがゾロのシャツを力なく掴んで額を胸に預けてきた。肩が少し震えているのがわかる。ひょっとして泣いているのかもしれない。
「ルフィ…ごめんな」
顔を上げさせるとその頬は乾いていた。泣いていると思っていたのにルフィは目を潤ませてゾロを見上げるだけだった。唇に己のそれを落とした
「んっ…んん」
「それぞれの野望を叶えた時にまた会おう。それが俺の新しい誓いだ」
唇を離していつのまにか零れ落ちていた涙をやさしく指で拭い去った。
「わかった…それぞれの夢のため」
「夢のために約束してくれ」
互いにまばたきもせずに見詰め合う二人。
「うん、約束する!」
「俺は世界一の剣豪になったとき…」
「オレは海賊王になったとき…」
『ローグタウンで会おう!』
がっしりと手を握り合う二人の男が月明かりに照らされて、甲板に映る影がひとつに交わっていた。
● ローグタウン●
ルフィとゾロが別れてから10年…
ローグタウンの中央に位置する死刑台の正面に左目の下に大きな傷を持つ青年が佇んでいた。
「オレの方が早かったみたいだな」
死刑台を見上げて再び視線を広場に戻した。彼の視界に一人の剣士が踏み込んできた。腕に真っ黒な手ぬぐい。腰には3本の日本刀を携えてまっすぐに彼の元へ歩み寄ってきた。
「…よお、久しぶりだな海賊王」
「ゾロっ!」
あの頃と同じ笑顔で自分に笑いかけてきた剣士…10年前に誓いをたてて別れた仲間…それ以上の存在。
「ルフィ、お前の方が少しだけ早かったんだな」
「ゾロ…ずっと会いたかったんだぞ」
ゾロの首に腕を回してぐっと自分に引き寄せて抱きついた。
「ああ、俺もだルフィ」
死刑台の正面に海賊王と大剣豪……この光景はしばらく街の人々の目を集めていた。そして、待ち構えていたように現れる集団があの時と同じように現れる。
<海賊王ルフィ!今度こそ逃がさねぇぞ!>
海軍たちがルフィとゾロに襲いかかる。辺りはいっきに騒がしくなり、いつの間に広場からは二人の影が消えていた
「どうする?」
「港に船があるんだ!みんなもゾロの事待ってるからっまた一緒に冒険しようなっ」
「よしっ行こうぜ!頼むぜキャプテン!」
海軍をすり抜けて二人は仲間が待つ船に向かって走り去っていく
そして、再び大海原に旅立っていった。その後、二人の足取りは海軍の情報網を持ってしてもつかめなかった
the end |
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